Appleは3月27日、9.7インチiPadシリーズの最新モデルとなる「iPad(第6世代)」を発表した。すでに販売が開始されている。
今回発表された新製品は、Appleの「iPad」シリーズの中では中間的な存在だ。iPad mini 4よりも大型で性能も高く、iPad Proからは幾らか性能を落とし価格を抑えた、実質的にエントリーモデルとしての立ち位置だ。
昨年に前モデルが発表された際には、そのコストパフォーマンスの高さに度肝を抜かれたが、今年の「iPad(第6世代)」はさらに上を行く。なんと、これまで「iPad Pro」の専売特許だった「Apple Pencil」に対応したのだ。
コストパフォーマンスの高さも健在だ。プロセッサも高性能なものが搭載され、iPad Proに引けを取らない。それでいながら、価格は4万円からとかなり安い。
これだけ聞くと、とても魅力的に見える最新モデルだが、果たして実際の使い勝手はどうなのだろうか。
今回、筆者は「iPad(第6世代)」の出来を見込んで1台購入し、数日間使い込んでみた。同記事では、普段の生活において「iPad(第6世代)」はどこまで活用できるのか、詳細をレポートしていきたいと思う。
「iPad(第6世代)」の特徴を把握しよう
「iPad(第6世代)」(以下、iPad)の本体デザインは、昨年発売した「iPad(第5世代)」とほとんど変わらず。画面サイズやベゼル幅、本体の厚みなど、いずれも変更はない。
ホームボタンも引き続き搭載。端末下部にはステレオスピーカーに挟まれる形でLightningポートが配置。端末上部には電源ボタンとイヤホンジャック、端末横には音量の上下ボタンがひとつずつ用意されている。
背面カメラは800万画素での撮影に対応。カメラのレンズはiPad ProやiPhoneのように出っ張っていない。これらも従来から変更はなしだ。
見た目に関する唯一の変化は、カラーラインナップに変更があったこと。第5世代の場合はシルバー、スペースグレイ、ゴールドの3色。これは第6世代の場合も同じだ。
ただしゴールドカラーのみ、若干ピンクがかったゴールドに変更されている。ローズゴールドとゴールドカラーを足して割ったような感じだ。女性でも男性でも性別を選ばずに使えるゴージャスなカラー。ちなみに、筆者が今回購入したのも新ゴールドモデルだ。
「iPad Pro(10.5インチ)」と比較すると、画面サイズは9.7インチと一回り小さくなるが、わずかに厚みがある。
iPad Proの本体の厚さは6.1mm、対するiPadは7.5mmと1mm以上も差があるのだ。iPadが野暮ったく見える訳ではないが、iPad Proをメインに使っている筆者は、この1mmの違いをハッキリと感じることができた。
製品そのものの大きさは当然iPadの方が小さいが、画面に対するコンパクトさでは、やはりiPad Proに優位性がある。
iPad Pro以外の端末で初めて「Apple Pencil」をサポート
さて、本体デザインには変更がないことがわかったが、機能面や性能については何か変化があったのだろうか。
第6世代モデルの最大の特徴は、Appleのスタイラスペン「Apple Pencil」に対応したことだ。これまで、Apple Pencilが使える端末はiPad Proのみに限られていたが、第6世代からはいよいよ無印のiPadでも利用できるように。
iPadがApple Pencilに対応したのはかなり大きな変化だ。なぜなら、Apple Pencilを利用するために必要なコストが大幅に引き下げられたからだ。
iPad本体 | Apple Pencil | 合計額(税込) | |
---|---|---|---|
iPad (第6世代) |
40,824円 | 11,664円 | 52,488円 |
iPad Pro 10.5-inch |
75,384円 | 11,664円 | 87,048円 |
差額 | 34,560円 | – | 34,560円 |
今まで、Apple Pencilを利用するためには最安でも8.7万円以上必要だったが、iPadがApple Pencilに対応したことによって最安5.2万円から導入可能に。
その差はなんと34,560円。「Apple Pencilを使いたいけど、iPad Proほどの性能は要らない」と考えていた方にとって、新型モデルはかなり魅力的に映るはずだ。
ただし、同じApple Pencilが利用できるiPadとiPad Proだが、しっかり差別化も図られている。
「iPad Pro」の画面はリフレッシュレート120Hzで、滑らかな画面描写が可能だった。対する「iPad」は60Hz。
120Hzと60Hzの違いは比べるとハッキリとわかるレベル。当然、Apple Pencilの追従性はやはりiPad Proの方が上で、遅延なく書き込むことができる。実際、使い心地が大きく変わるというほどではないものの、Apple Pencilを使って仕事をする方などはやはり「iPad Pro」を選んでおきたいところだ。
ちなみに、なぜAppleは「Apple Pencil」を無印iPadにも解放したのか。実は「iPad(第6世代)」は教育市場向けモデルとして位置付けている。学生は、先生の書く板書をノートに書き写す機会が多いわけだが、これをノートではなく「iPad」でしてほしい、と言うわけ。
実際、アカデミック市場はGoogleの「Chromebook」が支配しつつあるのが現状。Appleはこれに対抗するため、合計5万円の「iPad with Apple Pencil」を投入することで、攻勢に転じようとしているのだ。その恩恵が一般ユーザーにも及んでいる、と言う話。
「A10 Fusion」プロセッサ搭載で処理性能は大幅に向上
ここからは「iPad(第6世代)」の処理性能について触れていきたい。
新型モデルに搭載されているプロセッサは「A10 Fusion」チップ。2016年に発売した「iPhone 7」シリーズにも搭載されたものだ。
昨年モデルには「iPhone 6s」シリーズで初採用された「A9」プロセッサが搭載されていたため、第5世代モデルと第6世代モデルの処理速度は、実質「iPhone 6s」と「iPhone 7」くらいの違いがあると考えていただいて構わないだろう。
筆者の購入したiPadを使って、実際に「GeekBench 4」でベンチマークスコアを計測してみた。ベンチマーク結果は以下の通り。
シングルコアスコア | マルチコアスコア | Metal | |
---|---|---|---|
iPad(第6世代) | 3249 | 5912 | 13340 |
iPhone 7 | 3295 | 5387 | 12636 |
iPhone 7 Plus | 3306 | 5411 | 12730 |
上記表を見ていただければお分かりいただけるように、シングルコア・マルチコアともに、ほぼ「iPhone 7」シリーズと同じスコアになった。
また、「iPad(第5世代)」との比較は以下。シングルコアスコアが30%、マルチコアスコアが35%ほど向上している。筆者は第5世代モデルをそこまで使い込んだ訳ではないが、実際に触ったフィーリングとしては第6世代は前モデルに比べてキビキビと動作するようになった印象を受けた。
シングルコアスコア | マルチコアスコア | Metal | |
---|---|---|---|
iPad(10.5インチ) | 3928 | 9250 | 29557 |
iPad(第6世代) | 3249 | 5912 | 13340 |
iPad(第5世代) | 2523 | 4380 | 9880 |
ただ、「iPad Pro 10.5インチ」と比較すると性能差が意外と大きいことに気付く。特に大きな違いがあるのはマルチタスク性能。
「iOS 11」から使えるようになった「マルチタスキング」機能を使う際には、2つのアプリを同時に動かさなければならないため、iPadでは動きがカクつく場面も。特にYouTubeで動画を流しながら、画像が多いWebページを閲覧したりすると、その現象がよく見られる。
こういった負荷のかかる作業を行う場面では、やはりiPad Proとの処理性能の違いをハッキリと感じることがあった。
グラフィック性能についても一言。iPadをテストしている最中、試しに処理性能の良し悪しが顕著に表れる3Dゲームを遊んでみた。
今回使用したのは、”ヤギゲー”こと「Goat Simulator」。同ゲームは小憎たらしい顔のヤギを操作し、物を破壊したり車を引きずってみたりと、町中で様々な悪戯をして遊ぶ(カオス)シミュレーションゲームなのだが、プレイ中に動きがカクつく現象「処理落ち」が発生することはほとんどなかった。
ただし、複数のオブジェクトが重なることで演算処理が多くなる局面においては、一時的に画面がカクカクになることも。iPad Proでは割とヌルヌル処理できていた描写が、iPad(第6世代)では少々厳しい結果になることもあった。
そのほかの「iPad Pro」との違い
ちなみに、説明してきた以外にも「iPad(第6世代)」と10.5インチ「iPad Pro」には違いがいくつかある。
まず、ディスプレイに搭載されている技術の違い。iPad Proには、「広色域ディスプレイ(P3)」や「True Toneディスプレイ」「フルラミネーションディスプレイ」「反射防止コーティング」などの上位機能が搭載されている。
特に反射防止コーティング技術は、太陽光の下でも画面が見やすいという機能。外に持ち出して使う場合ならiPad Proの方が便利だ。
True Toneディスプレイの有無(左が有り、右がなし)
周囲の環境によって自動的にディスプレイの色合いを変更する「TrueToneディスプレイ」機能も地味に重要。必須機能というわけではないが、iPadの画面を眺める時間が多い方にとっては目への負担を減らすために役立つ。
また広色域ディスプレイに対応していれば、写真や映像の色を正しく表現することも可能。しかし、iPadとiPad Proの差別化のためか、それともコストカットのためか、とにかくこういった機能は全て排除されている。
次にカメラ性能の違い。内蔵カメラの性能は、iPad Proの方が断然高く、iPadは800万画素なのに対し、iPad Proは1,200万画素。ビデオ撮影もiPadがHD画質なのに対し、iPad Proは4K画質での撮影が可能だ。また、光学式手ブレ補正もiPadは搭載していない。
つまり、iPadで高画質な写真・ビデオを撮影したいなら、確実にiPad Proを選ぶべきだ。ちなみに、iPadにはカメラは不要と考えている方もいるかもしれないが、Appleはここ最近、AR技術に力を入れているのをご存知だろうか。
2017年秋にリリースされた「iOS 11」ではARKitというフレームワークが利用できるようになっており、今後ARコンテンツが増えることが予想できる。
このAR技術は内蔵カメラを利用することになるため、できればカメラの性能は高いほうがいいだろう。
さらに、搭載スピーカー数もiPadは2基で、iPad Proが4基。iPadで映画や動画を観る際、本体から音を出力するなら、iPad Proの方が迫力のある音を楽しむことができるだろう。
ただし、筆者としては内蔵スピーカーの数でどちらのiPadを購入するか決める必要はないとも思っている。
iPad Proに搭載されている4基のスピーカーにも限界があり、やはり高音質な音を楽しみたいなら、しっかりとしたワイヤレススピーカーなどを購入するべきだと思っているからだ。iPad ProとiPadほどの価格差を考えれば、良いワイヤレススピーカーを買うのはさほど難しくはないだろう。
もし良いスピーカーを探しているなら、Appleが今度発売予定の「HomePod」を購入するのも考えても良いかもしれない。発売がいつになるのかは不明だが。
最大の特徴はコストパフォーマンスの高さ
ここまで総括すると「iPad(第6世代)」は、全てのユーザーを満足させることができる製品ではないことがお分かりいただけたかと思う。特に高い性能を必要とするハイエンドユーザーにとっては、一部機能に不満を感じることもあるかもしれない。
しかし、iPadはiPad Proとの差を縮小することができたのも事実。依然として、一番確実な買い物はiPad Proを購入することだが、Webブラウジングやメール作成、読書やYouTubeでの動画視聴などカジュアルな作業しかしない場合は、「iPad(第6世代)を選ぶのも悪くはない」とも筆者は感じている。
なんだかんだ言って、昨年は「悩んだらiPad Proを買いましょう」と言っていたのだが、今は「iPadを選ぶのも選択肢のうち」と言うように変わったのだ。
ちなみに、実際に筆者がiPadを使って、問題なく使えると感じた作業、物足りなさを感じた作業は以下の通り(比較はiPad Pro)。
- Webブラウジング
- YouTube閲覧
- メール作成・送信
- メッセージの送受信
- FaceTime
- Keynote / Numbers / Pages
- 読書(電子書籍)
- Amazonでの買い物
- TwitterやFacebook
- 画像編集など
- 音楽鑑賞(内蔵スピーカーを使用)
- カメラ性能
- 画面性能
- Apple Pencilの追従性
- 高負荷のかかるゲームプレイ
性能ではやはりiPad Proには敵わないが、だからと言ってiPadが劣る点も意外と少ない。つまり、iPadで音楽を聴く機会、Apple Pencilを使う機会、高負荷のかかるゲームを遊ぶ機会の多いユーザー以外は、iPadでも十分である可能性がある。
どちらを買うべきかは、要はユーザーの使い方次第。上記表を参考に、どちらを購入するか検討してみてはどうだろうか。ちなみに筆者は高負荷のかかるゲームをプレイする機会があるため、なんだかんだ言ってiPad Proをメインに使うことになりそうだ。
以上が、「iPad(第6世代)」を実際に使用してみた正直な感想だ。第5世代モデルから劇的に進化を遂げたとまでは言えないかもしれないが、「Apple Pencil」への対応や高性能プロセッサの搭載により、プロモデルとの差はかなり小さくなった。これまで、高額であることが原因でiPad Proに手を出せなかったユーザーにとっては、十分に魅力的な端末だと言えるだろう。
この先、Appleは新型iPad Proの発売を控えている可能性はあるものの、現状では「iPad(第6世代)」は一般ユーザーレベルで十分に満足できる出来栄えだ。むしろ、「この程度の違いで3万5000円の価格差」と考えるとお得感すら感じる。
前述した通り、どちらのモデルを購入するべきかはユーザー次第ということになる。重要なのは、性能を取るか価格を取るか。購入前に、ぜひじっくりと考えてみていただければと思う。