
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化を手がけてきたUiPathが、AIエージェントを活用し、企業全体の仕事の進め方を変えようとしている。
同社が目指すのは、AIエージェントと人間、そして既存の業務システムを連携させ、それぞれの得意分野を生かしながら仕事を進める仕組みだ。
2026年11月6日に都内で開催されたイベント「UiPath FUSION TOKYO 2026」では、共同創業者兼CEOのダニエル・ディネス氏と、日本法人の会長CEOを務める長谷川康一氏が登壇。AI時代の企業のあり方や、同社の成長戦略について説明した。
また、その後に行われた記者向け説明会では、新たな業務自動化の仕組みや、Microsoftとの協業による古い基幹システムの刷新、ソフトウェアテストの自動化などについても詳しく紹介された。
RPAからAIエージェントへ。企業全体の仕事をつなぐ「BOAT」という新しいカタチの自動化

UiPathは、米ニューヨークに本社を置く、企業向けの自動化ソフトウェアを開発・提供するテクノロジー企業。RPA分野の世界的なリーディングカンパニーとして知られ、ソフトウェアロボットによる定型業務の自動化を中心に事業を拡大してきた。現在はAIや業務管理、ソフトウェアテストなどにも領域を広げている。
日本では2017年に本格的な事業展開を開始し、これまでに2,000社を超える企業の自動化を支援。国内のRPA市場でも、売上金額シェア1位を8年連続で獲得している(2025年時点)。

日本法人の設立10周年を迎える節目に、同社が次の成長領域として力を入れているのが、AIエージェントを活用した企業全体の業務自動化だ。

こうした取り組みの背景にあるのが、「BOAT(Business Orchestration and Automation Technologies)」という考え方である。これは、米調査会社Gartnerが2025年10月に提唱した市場の新しい分類で、日本語では「ビジネスの統合的な管理と自動化技術」といった意味になる。
従来のRPAは、人間が決めた手順に沿って、データ入力や書類作成などの作業を自動で実行するものだった。一方、BOATではAIエージェントやRPA、人間、既存の業務システムを組み合わせ、複数の部署やシステムにまたがる仕事をまとめて管理・実行することを目指す。

たとえば、取引先から届いた注文を処理する場合、従来は担当者が内容を確認し、社内システムに入力したうえで、在庫確認や請求処理などを個別に進める必要があった。BOATが目指す仕組みでは、AIエージェントが注文内容を読み取って必要な処理を判断し、RPAが社内システムへの入力などを実行。例外的な対応や重要な判断が必要になった場合は、人間に確認を求めるといった連携が可能だ。つまり、個々の作業を自動化するだけでなく、仕事の始まりから完了までをひとつの流れとして管理しようというものになる。
生成AIの普及によって、文章の作成や情報の整理、プログラムの記述など、個人が行う作業は大きく効率化されつつある。しかし、企業全体の仕事をAIに任せるにはまだ課題も多いのが実情だ。
そもそもAIが生成した情報には誤りが含まれる可能性がある。金融機関の決済や契約、会計処理など、正確性が求められる業務をAIだけに任せるのは難しいため、複数のシステムを使う仕事ではデータの受け渡しや処理の順番、想定外の事態が発生した場合の対応も考えなければならない。

そこでUiPathが重視しているのが、AIエージェントの判断能力と、RPAなどによる確実な自動処理、人間による意思決定を組み合わせること。
AIエージェントが状況を判断して必要な作業を進め、決められた手順で正確に処理する必要がある部分はソフトウェアロボットが担当する。そして、重要な判断や例外への対応は人間が受け持つ。それぞれの役割を組み合わせることで、企業の仕事全体を効率化しようとしている。
その実現に向けてUiPathは企業内に散在する業務知識の整理を重視している。企業の仕事は、マニュアルに書かれた手順だけで成り立っているのではなく、熟練社員の経験や担当者同士のメール、例外的な状況での判断など、正式な文書に残されていない知識も数多く存在する。こうした情報を把握できなければ、AIエージェントに適切な仕事を任せることは難しい。

そこで、新製品「UiPath Cartographer」が効果を発揮する。業務手順書や社内の資料、業務の流れを示した図などをAIで読み解き、必要に応じて担当者への聞き取りも行いながら、企業内でどのように仕事が進められているのかを「Map of Work(業務の地図)」として可視化。作業の順番を整理するだけでなく、どこで担当者の判断が必要になるのか、通常とは異なる処理が発生した場合にどう対応するのかといった情報も整理できるようになる。
さらに、業界ごとの標準的な業務モデルをまとめた「Process Atlas」と組み合わせることで、現在の仕事の進め方を把握したうえで、より効率的な業務フローを設計できるようにする。
従来、企業の業務を詳しく調べるには、担当者へのヒアリングや資料作成などに数週間かかることもあった。UiPathは、こうした作業をAIで効率化し、業務の整理から自動化プログラムやテストの準備までにかかる期間を、従来の3カ月から1カ月に短縮することを目指している。
一方でAIエージェントに仕事を任せるようになれば、その動きを管理する仕組みも必要になる。
UiPathは、AIエージェントが何を実行したのかを確認し、必要に応じて人間が介入できる環境の整備も進めている。自然言語で指示を出しながら開発を支援する「UiPath Coding Agents」や、情報収集・検証などの作業を代行する「UiPath Delegate」も、こうした取り組みを支える機能だ。
また、AIの誤った判断や情報漏えいを防ぐための対策にも取り組んでいる。たとえば、「LLM-as-Judge」と呼ばれる仕組みでは、別のAIモデルを使ってAIの出力内容を評価する。外部システムとのデータ連携や、自社内のサーバーでシステムを運用するオンプレミス環境にも対応し、企業ごとのセキュリティ要件や管理ルールを維持しながら自動化を進められるようにする。
AIに仕事を任せることと、その仕事を企業が責任を持って管理することは切り離せない。UiPathが重視しているのは、AIを導入すること自体ではなく、AIがどのような仕事をしているのかを把握し、必要なときに人間が介入できる状態を保つことだ。
Microsoftとの協業で古い基幹システムの刷新を支援

今回の発表では、日本企業が抱える課題への対応も重要なテーマとなった。日本では、長年にわたって運用されてきたメインフレームやCOBOLを使った基幹システムが数多く残っている。こうしたシステムには、企業独自の業務ルールが組み込まれていることも多く、新しいシステムへの移行には相応の時間とコストがかかる。
また、移行後に従来どおり業務が動くかどうかを確認する必要もある。長年使ってきたシステムを刷新したくても、移行に伴うリスクを考えると、なかなか踏み切れない企業は少なくない。
UiPathはこの問題に対し、Microsoftと協力して古い基幹システムの刷新を支援するソリューションを開発する。
まず「Cartographer」を使い、既存システムの仕様や、そこに組み込まれている業務上のルールを整理する。そのうえで、GitHub CopilotやMicrosoft Azureなどを活用し、新しいシステムへの移行を進める。
移行作業の管理には「UiPath Maestro」を使い、各工程の進行状況や承認の流れを管理する。さらに、「UiPath Test Cloud」で新旧システムの動作を比較し、従来のシステムで行えていた業務が、新しいシステムでも問題なく実行できるかを確認する。
新しいシステムを作るだけでなく、移行前後で処理結果が一致するかを確かめながら、段階的に移行できるようにする。
企業が長年使ってきたシステムには、担当者でさえ把握しきれていない業務ルールが組み込まれている場合がある。そうした情報を整理し、開発からテストまでを連携させることで、システム刷新に伴うリスクを減らそうとしている。

ソフトウェア開発の品質管理においても自動化の範囲を広げる。「UiPath Test Cloud」では、AIエージェントがアプリケーションを実際に操作しながら問題を探したり、人間が行っていたテストの手順を読み取って自動実行したりする機能を提供する。
また、オープンソースのWebテストツール「Playwright」との連携も進めている。企業がすでに利用しているテスト環境を生かしながら、テストの管理や実行を自動化できるようにする。
さらに同社は、人間が操作しなくても夜間などにテストを続けられる「ダーク・テスト・ファクトリー」という構想を掲げている。AIによってソフトウェアの開発速度が上がる一方で、完成したプログラムに問題がないかを確認するテスト作業が追い付かなくなる可能性がある。そこで、どの部分をテストする必要があるのかをAIが判断し、テストの実行から結果の分析までを自動化するというものだ。
テスト担当者は、テスト用のプログラムを作成したり修正したりする作業を減らし、品質上のリスクを評価したり、製品をリリースして問題ないかを判断したりする仕事に集中できるようになる。
SMBCグループもAI活用を推進。効率化の先にある「人間とAIの新しい役割分担」

UiPathは、日本のRPA市場で売上金額シェア1位を8年連続で獲得している(2025年時点)。一方で、ITRの調査レポートにおけるUiPathの2026年1月期の地域別売上高を見ると、APAC地域は約2億8400万ドルで、前年からの成長率は2.7%にとどまった。Americas地域は約14.9%、EMEA地域は約15.3%の成長を記録しており、APAC地域の伸びは相対的に小さい。
これは日本だけに限った話ではないが、特にすでにRPAの導入が進んだ市場では新規導入だけで大きな成長を続けることが難しくなっていると考えられる。
日本では他社のRPA製品やMicrosoftの自動化ツールも普及している。既存システムとの兼ね合いや導入コスト、人材不足などが、新たな導入の障壁になる場合もある。
UiPathにとって今後重要になるのは、既存顧客の自動化をさらに進めるとともに、これまでRPAだけでは対応が難しかった業務や、古いシステムの刷新まで支援することだ。Microsoftとの協業やAIエージェントを活用した新たな製品群は、そうした課題に対応するための取り組みでもある。

では、実際に企業はAIと自動化をどのように活用していくのか。その具体例として、今回の基調講演では三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の取り組みが紹介された。

同グループでは、UiPathと連携したRPAによって支払い業務の約75%を自動化しており、AIの活用によって自動化率を90%以上に引き上げることを目指している。これまでの自動化を安定して稼働させながら、AIを組み合わせることで対応できる業務を広げようとしている。
営業現場でもAIの活用が進んでいる。顧客との面談を録音してAIで文字起こしし、議事録を作成するだけでなく、その内容をもとに提案書まで作成する取り組みだ。ただし、面談後の資料作成にかかる時間を短縮できるのはメリットだが、提案書が早く完成するからこそ、営業担当者には新たな配慮も求められる。
たとえば、1時間の面談を終えた直後に提案書が完成したとしても、そのまま顧客に次のアポイントメントを求めるのが適切とは限らない。顧客からすれば、「それだけ早く資料ができるのなら、今日の面談でその内容まで説明してほしかった」と感じる可能性があるからだ。
SMBCグループでは、こうした顧客心理や商談の進め方も踏まえ、提案書の作成だけでなく、次の提案をいつ、どのように行うべきかまで考慮できるAIの仕組みを検討しているという。
もちろん、AIによって資料作成が速くなっても、それだけで仕事が完結するわけではない。人間が担ってきた判断のうち、何をAIに任せ、どの部分を人間が引き続き受け持つのか。SMBCグループの事例からは、AIの導入が業務の手順だけでなく、仕事の進め方そのものを見直すきっかけになっていることが分かる。

SMBCグループは「AI時代の企業のあり方」について、従来とは異なる考え方を示している。これまで企業は、自社の社員や専門知識、情報、業務を実行するための機能などを社内に集め、組織の中で仕事を進めてきた。しかし今後は、社外の専門家や取引先、協力会社、外部サービス、AIエージェントなどの力を組み合わせて業務を進める形へと変わっていく可能性がある。
そのとき企業に求められるのは、あらゆる業務を自社の社員だけで実行することではない。社内外のさまざまな人やシステムが担う仕事を適切に組み合わせ、全体の成果に責任を持つこと。
例えば、SMBCグループのブランドで顧客にサービスを提供する以上、AIや外部パートナーに業務を任せたとしても、最終的な責任まで手放すことはできない。だからこそ、AIエージェントが何を実行し、どのような判断を下したのかを確認できること、処理の記録を残せること、必要に応じて人間が介入したり停止したりできることが重要になる。

UiPathが描く未来の職場では、AIエージェントが状況に応じて仕事を進め、ソフトウェアロボットが決められた作業を正確に実行し、人間が重要な判断や最終的な責任を担う。それぞれの役割を組み合わせながら、企業全体の業務を動かしていくことが目標だ。
RPAの導入が進んだ日本市場で、UiPathが次の成長につなげるには、個別の作業を自動化するだけでは不十分になりつつある。企業が抱える複雑な業務や古いシステムも含めて、仕事の仕組みそのものを変えていく必要があるからだ。
AIエージェントの性能が向上し、企業がAIに任せられる仕事は今後さらに増えていくだろう。ただし、何をAIに任せ、どこまで人間が関与するのかという問題は残る。企業全体でAIを活用する時代には、業務の効率化と同じくらい、AIの仕事をどう管理し、企業としてどう責任を持つのかが問われることになりそうだ。
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