テレビの画面はこうして作られる。「TCL CSOT」深圳工場で見た巨大ガラスと無人に近い生産ライン

大型テレビを探していると、TCLというブランドを目にする機会が増えてきた。65型や75型はもちろん、98型、115型といった超大型モデルまで積極的に展開しているのがTCLの特徴だ。しかも、大画面になるほど価格も跳ね上がりやすいテレビ市場で、TCLは比較的手の届きやすい価格帯にも大型モデルを投入している。

では、なぜTCLは大画面テレビを比較的安く作れるのか。その理由を探るため、筆者は7月に開催されたTCLのプレスツアーで中国・深圳市光明区にあるTCL CSOT(TCL華星光電)のパネル工場を訪れた。

(取材協力:TCL JAPAN)

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TCLのテレビ事業を支えるもう一つのTCL。パネルメーカー「TCL CSOT」を訪ねた

今回の訪問では、TCL CSOTのショールームと、第8.5世代の液晶パネル工場「T2」を見学した。工場内部は撮影禁止だったため、写真はショールームや外観、TCL CSOT提供の資料が中心になるが、実際の生産ラインを見ると、巨大なガラスがほぼ人の手を介さずに処理されていく光景が広がっていた。

TCLのテレビを語るうえで、まず知っておきたいのがTCLグループの事業構造だ。TCLグループでは、テレビなどのスマート端末を手がける「TCL実業」、ディスプレイを担う「TCL CSOT」、太陽光発電などの新エネルギー事業を手がける「TCL中環」が、それぞれ異なる領域を担当している。

このうち、テレビの「画面」を作っているのが、今回の主テーマである「TCL CSOT」。TCL実業がテレビをはじめとする製品を手がける一方で、TCL CSOTはディスプレイデバイスの開発・製造を担当している。つまり、TCLのテレビは、グループ内でテレビを作る会社と、そのテレビに搭載するパネルを作る会社が分かれているのだ。

その理由は、TCL CSOTが手がけるのはテレビ向けの液晶パネルだけではなく、スマートフォンやタブレット、ノートPC、車載ディスプレイ、業務用ディスプレイ、AR/VRデバイスなど、さまざまな製品向けのディスプレイを開発・製造しているからだ。

TCL CSOTが設立されたのは2009年。2011年には深圳で最初の工場となる「T1」が量産を開始した。そこから武漢、広州、恵州、蘇州、インドへと生産拠点を広げていった。現在は11のパネル生産ラインと5つのモジュール拠点を持ち、従業員は3万7000人を超える。累計投資額は2,600億元に達するという。

TCL CSOTの事業規模を実感できるのが、ショールームにある世界地図。深圳、武漢、広州、恵州、蘇州、インド、日本などの拠点が示され、その先には取引先のブランドロゴが並ぶ。ソニーやサムスンなど、日本でもよく知られた企業の名前もある。つまり、TCL CSOTで作られたパネルは、TCLブランドのテレビだけに使われているわけではない。

この会社が大きく成長してきた背景には、テレビ市場で求められる大型パネルを大量に、しかも効率よく作れる生産設備への継続的な投資がある。その象徴となるのが、深圳に集まる第8.5世代と第11世代の工場だ。

TCL CSOTのパネル工場のミニチュア模型

今回訪れたのは、そのTCL CSOTがディスプレイを生産するパネル工場。ここでは、テレビの大画面化を支える大型ガラス基板の製造から、パネルが完成するまでの工程を実際に見ることができた。

今回見学した「T2」は第8.5世代のラインになる。T1とT2を含む本社エリアの工場群は、全体で約60万平方メートル。ここでは主に32~55型クラスのテレビ用パネルを効率よく生産できる設備が整えられている。

一方、少し離れた場所には第11世代のT6/T7がある。こちらの敷地は約100万平方メートル。東京ドーム約20個分に相当する広さだ。ここでは65型や75型といった大型テレビ用パネルを中心に生産している。第11世代のマザーガラスは3,370×2,940mm。75型なら1枚のガラスから6枚、65型なら8枚を切り出すことができ、ガラス利用率は94%に達するという。

T6では115型パネルも生産する。1枚のマザーガラスから115型を2枚切り出す。ガイドによれば、第11世代にあたる最新世代のラインは世界に5本しかなく、そのうち2本がTCL CSOTにあるという。大型テレビを作るために、工場そのものが巨大化しているわけだ。

さらにT6/T7の隣には、AGC(旧旭硝子)のマザーガラス製造・研磨工場がある。製造したガラスを長距離輸送するのではなく、十数mほどの渡り廊下を通して、そのままT6/T7へ供給できるようになっている。また、敷地内には電力施設や廃水処理施設なども備え、屋根には太陽光パネルが並ぶ。

こうした設備を見ていると、TCL CSOTが闇雲に「テレビ用パネルを作る工場」を増やしてきたわけではなく、ガラスの供給からパネル製造までを効率よくつなげるための環境そのものを整えてきたことが分かる。

T6/T7の隣には、AGC(旧旭硝子)のマザーガラス製造・研磨工場がある

では、その工場の中では、実際にどんなことが行われているのか。写真撮影はNGだったため、ここからは見学時に説明を受けた内容をもとに、工場内の様子を文章で紹介していく。

今回見学したT2の生産ラインに入ると、最初に目に入ったのが巨大なロボットアームだった。第8.5世代のマザーガラスは2,500×2,200mm。畳数枚分の大きさがあるのに、厚さはわずか0.5mmしかなく、このガラスを人が直接持ち運ぶのは難しい。そこで、工程間の搬送をロボットアームが担う。アームは吸着パッドでガラス全体を保持し、次の工程へ運んでいく。

見学時はアームが実際に動くところを見ることはできなかったが、生産ラインには人の姿がほとんどなく、巨大なガラスが設備の中を移動していく仕組みになっていた。ちなみに、人が行う作業が少ないからか、生産ラインは全体的に照明が暗かったのが印象的だった。

液晶パネルは、基本的に2枚のガラス基板で構成されている。片方にはTFTと呼ばれる回路を作り、もう片方にはRGBのカラーフィルターを形成する。

TFT側では、ガラスの上に膜を形成し、レジストを塗布、露光、現像、エッチング、剥離、洗浄といった工程を繰り返す。こうしてガラスの上に細かな回路パターンを積み重ねていく。

一方のカラーフィルター側でも、RGBの色を正確に形成していく。それぞれの基板が完成したら洗浄し、2枚を貼り合わせる。その間に液晶を封入し、硬化させた後、55型や65型、75型など必要なサイズに切断する。偏光板などを取り付けるところまでが、深圳工場が担当する前工程だ。その後、完成した液晶セルはモジュール工場へ送られる。

製造工程の間には「ストッカー」と呼ばれる自動倉庫もある。照明を落とした空間にガラス基板を一時保管し、それぞれに付けられた識別コードを読み取って、どのガラスをいつ、どの工程や検査装置へ送るのかを管理している。

検査も多くが自動化されており、カラーフィルターの色が正しいか、膜の厚さが基準を満たしているかなどを装置でチェック。不良が見つかった場合には、修復できるものかどうかまでライン内で判定する。

TFTの成膜に使われるCVD装置も巨大だ。米アプライドマテリアルズ製で、重量は100トンを超える。プラズマを使ってガラス基板上に絶縁膜や半導体膜を形成する装置で、TFT回路を作り込む工程を支えている。露光装置などにはキヤノンやニコンといった日本メーカーの製造装置も使われているという。

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1枚の巨大ガラスから75型を6枚、65型を8枚……大型パネルを効率よく切り出す

第8.5世代のT1、T2、T10では、55型や98型といった大型テレビ向けのパネルを主に生産している。なかでもT2では98型パネルも効率よく生産でき、マザーガラスの利用率は97%に達するという。98型パネルの生産能力については、業界トップクラスと説明している。一方、第11世代のT6、T7では65型、75型を中心に生産し、最大115型まで対応する。

では、なぜ大型パネルの生産で「ガラス利用率」が重要になるのか。テレビ用パネルは、1枚のマザーガラスからできるだけ多くのパネルを切り出すことで、材料の無駄を抑えられる。特に大型テレビはパネルそのもののコストが大きいため、限られたガラスから効率よくパネルを生産できるかどうかが、製品のコストにも大きく影響する。

つまり、ガラスを効率よく使える生産ラインを持つことは、大型テレビを競争力のある価格で展開するうえで重要なポイントになる。TCL CSOTが98型や115型といった超大型テレビ向けのパネルを積極的に生産できる背景には、こうした生産効率の高さがある。

ショールームには、その生産力を象徴するようなパネルが並んでいた。目を引いたのは115型の4K QD-Mini LEDパネル。144Hz駆動に対応し、2万を超える分割エリアを備える。

98型の4K QD-Mini LEDパネルも展示されていた。TCL CSOTでは、超狭額縁設計によって、都市部の住宅にあるエレベーターで搬入できる最大クラスのサイズとして98型を挙げていた。

75型の8K Mini LED「星曜屏(Star Screen)」もあった。8K解像度、120Hz駆動、NTSC比105%、コントラスト比100万:1超という仕様で、ガラス基板上にアクティブ発光式Mini LEDバックライトを形成する。

ショールームにはテレビ用パネル以外の製品も数多く並んでいた。スマートフォン向けのOLED、タブレットやノートPC向けの中型パネル、折りたたみOLED、ゲーミング向けの曲面モニター、会議室向けの商用ディスプレイ、バス停などで使う交通機関向けの高耐久ディスプレイなどだ。

TCL傘下のスマートグラスブランド「RayNeo」のARグラスも展示されていた。画面を必要とする場所が増えれば、パネルメーカーの市場も広がる。テレビだけに依存せず、さまざまな用途へパネルを供給できる体制を作っている。

そして、もう一つ興味深い展示があった。インクジェット方式でOLED材料を塗布して作る「印刷OLED」だ。

TCL CSOTは2024年11月、印刷方式によるOLEDパネルの量産開始を世界で初めて発表した。印刷OLEDは、発光材料をインクのように塗布してパネルを作る方式。従来の蒸着方式と比べて材料利用効率を高めやすく、大型化や低コスト化につながる可能性がある。

ショールームでは、21.6型4Kの医療用モニター向けパネルと、14型WUXGA(1,920×1,200)のノートPC向けパネルが展示されていた。21.6型4Kパネルは、持ち運び可能なポータブル型エコー検査システムにも採用されていた。

TCLはなぜここまで大きくなったのか。深圳の工場でその一端を見た

あらゆるディスプレイを手掛けているTCL CSOTだが、同社の工場を実際に歩いてみると、TCLというグループ会社そのものに対する見方が少し変わったように思う。

日本でTCLというと、大画面テレビを比較的手の届きやすい価格で出してくるメーカー、という印象が強いかもしれない。ところが、そのテレビの「画面」を作っている現場まで来てみると、見えてくるものがまったく違う。

人が何人もかかって運ぶような大きなガラスがロボットに吸い上げられ、次の工程へ運ばれていく。工場内を歩いていても人の姿は少なく、巨大な設備だけが淡々と動いている。テレビ工場を見学しているというより、巨大な素材をひたすら加工する半導体工場に近い感覚さえあった。

しかも、そのすぐ隣にはマザーガラスを作るAGCの工場があり、できたガラスが渡り廊下を通ってTCL CSOTへ入ってくる。さらに、その先で作られたパネルはTCLのテレビだけでなく、世界中のデバイスメーカーへ出荷されていく。

この一連の流れを見ると、TCLを「中国のテレビメーカー」というだけで見るのは少し違う気がしてくる。テレビを作って売る会社のさらに奥に、パネルを大量に作り、その技術自体を事業にしている巨大な会社がある。その規模感は、実際に現地へ行ってみないとなかなか想像できないものだった。

そのTCLは、実はテレビの外側でも着々と存在感を高めている。TCLは近年、オリンピックの公式スポンサーを務めるなど、世界市場でのブランド力を高める取り組みを進めている。また、CESやIFAといった世界的な展示会にも継続的に出展し、テレビだけでなく、スマートフォンや家電、ディスプレイ、スマートホーム関連製品まで幅広く展開。その技術力の高さとビジネススケールをアピールしている。

日本ではまだ知名度は高くないかもしれないが、しかし、その周辺に広がる事業まで追っていくと、同社が目指しているところはもう少し大きい。自社でパネルを作り、そのパネルを使ってテレビやさまざまな製品を作る。さらに、パネルそのものを他社にも供給する。そこにディスプレイ技術の研究開発や、世界市場でのブランド構築まで重ねている。

今回の取材では、その一部を実際に見ることができた。テレビ売り場だけを見ていたときには分からなかったTCLの規模やビジネスの広がりを知るには、深圳のTCL CSOTまで足を運んだ意味は十分にあったと思う。

帰国してからTCLの大型テレビを見ると、画面の向こうに、あの巨大なガラスとほとんど人の姿が見えなかった工場が浮かぶ。TCLのテレビの「裏側」には、思っていた以上に大きなものづくりの世界が広がっていた。

TCL取材
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