Adobe Fireflyボードはプロの現場でどう使われている?イラストレーター・北沢直樹さんの制作フローを見てきた

2025年9月に一般提供が始まった「Adobe Fireflyボード」は、無限キャンバス上で画像・動画を収集・生成・リミックス・整理しながら、アイデア出しや方向性検討を進められるAIファーストのツールだ。

1枚の参考画像から数十のスタイル違い・構図違いを即生成できるなど、従来のムードボードツールより生成AIの自由度が高く、アイデアがまだ固まっていない初期段階から様々な方向性を試すことができる。

では、こうしたツールはプロのクリエイターの現場で、どのように制作フローへ組み込まれているのだろうか。実際に仕事で使うと、どんな便利さがあるのか。

今回、Fireflyボードを日常的に仕事へ取り入れているイラストレーター・北沢直樹さんの事務所を訪問。実際の制作画面を見せてもらいながら、キャラクターデザインの現場でどのように活用されているのかを取材した。

そこで見えたのは、「AIに描かせる」というより、アイデアを整理したり、クライアントとの認識合わせをスムーズにしたりするための作業の場としてFireflyボードを使う姿だった。

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Illustratorで作り、Fireflyボードで広げていく

北沢さんは、主に人気アニメやコンテンツのデフォルメキャラクター制作、グッズデザインを中心に、幅広い分野で活躍しているイラストレーター・キャラクターデザイナーだ。かわいらしい表現を得意とし、アドビツールを活用したセミナー講師やコミュニティ活動も行っている。

北沢さんは、キャラクターのアイデア出しから企画資料の作成、さらにはクライアントとの合意形成までを一気通貫で担う提案・コミュニケーションハブとして、普段からFireflyボードを活用している。

北沢さんの制作は、まずAdobe Illustratorから始まる。中でもよく使っているというのが「ターンテーブル」機能だ。1枚のキャラクターイラストから別角度のビジュアルを自動生成できる機能で、最大75カットまで展開できる。

少数のカットだけではキャラクターの魅力が伝わりにくいが、バリエーションを増やし、見せ方の幅を広げることができる。たとえ生成された画像に多少の崩れがあっても、元のキャラクター画像を参考に特定の部分だけを修正することも簡単で、作画の強力なガイドとして活用しているとのことだ。

こうして作成したイラストをFireflyボードへ貼り付け、さらに表情差分やポーズ違いを広げていく。走っている姿、飛んでいる姿、笑顔や怒った顔。短時間で大量のバリエーションを並べられるため、クライアントへ見せられる情報量もかなり増えるという。

中でも印象的だったのが、北沢さんがキャラクターデザインの提案をする上で「ゆるキャラ」という概念を重視していることだ。キャラクターを提案する際、完成したイラストだけでなく、「実際に着ぐるみ化したらどう見えるか」まで含めて見せることを大切にしている。

キャラクターを着ぐるみ化すると、平面イラストでは伝わりにくいサイズ感や質感までイメージしやすくなる。クライアント側も、実際にグッズ化・イベント展開された姿を想像しやすくなり、企画資料としての説得力も増していく。

以前であれば、こうした完成予想イメージを作るにはかなりの時間と手間が必要だった。しかし、Fireflyボードを使えば、平面イラストをもとにリアルな着ぐるみ風ビジュアルを短時間で生成できる。

実際に北沢さんは、「ゆるキャラ リアルな着ぐるみ」とプロンプトを入力しただけで、AIが文脈を読み取り、電車モチーフのキャラクターに合わせて駅舎風の背景デザインまで反映した事例も紹介してくれた。背景や細かな指定をしていないにもかかわらず、イメージに沿ったビジュアルが生成されたことに驚いたという。

また、Fireflyボードは複数人でキャンバスを同時に触りながらアイデアを形にする共同編集ができることから、北沢さんはクライアントやチームメンバーとの認識を合わせ、プロジェクトを円滑に進めるためのコミュニケーションツールとして重宝しているという。

制作過程の共有ができるのも魅力の一つ。元の絵からどのようにAIで展開したかという履歴が残るため、それがコミュニケーションの助けになることもあるという。最終成果物だけでなく、そこに至るプロセスを共有できる点もプロの現場では有用であるとのことだ。

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プロが実践しているFireflyボード活用Tips

取材中には、北沢さん流のFireflyボード使いこなし術について知ることもできた。

Fireflyボードならではの便利なポイントは、複数の生成処理を並行して進められる点だ。ひとつのポーズを生成している間に、別の表情や色違いも試すことができ、待ち時間で作業が止まりにくい。

また、北沢さんはゼロからAIに何かを描かせるよりも、自分で描いたイラストを参照画像として使うケースが多いという。そのほうが、自分の絵柄や方向性を維持しやすいからだ。

Fireflyボードの「カンバスからサンプル」機能を使えば、自作イラストをベースに展開できる。商用案件では特に、「何から生まれたデザインなのか」が重要になる。だからこそ、自分の絵を起点にする運用を徹底しているという。

意外だったのが、プロンプトの作り方だ。北沢さんは、難しい英語プロンプトを長文で書くより、日本語でシンプルに入力することが多いという。

まずは一度生成してみて、そこから「キラキラ」「ダイカットシール風」などの単語を追加していく。最初から完璧を狙わないのがポイントだそうだ。実際の作業を見ていても、AIに指示を出すというより、一緒に方向を探していく感覚に近かった。

Fireflyボードでは、外部のAIモデルも利用できる。北沢さんは、商用案件や本番制作ではFireflyを使い、ラフ案やアイデア出しでは他社モデルを試すこともあるという。そうした使い分けも、実務ならではの視点だった。

AI時代でも、最後に必要なのは「人の判断」

生成AIを巡っては、ここ数年で「模倣」や「パクリ」の問題が大きく議論されるようになった。

学習データに既存作品が含まれていることへの批判や、特定の作家風イラストを容易に生成できてしまう問題など、クリエイター業界では賛否が分かれている。実際、海外では生成AI企業に対する訴訟も相次いでおり、「どこまでが参考で、どこからが模倣なのか」は、いまも明確な答えが出ていないテーマだ。

そうした状況について、北沢さんが口にしていたのが、「既存作品の模倣は絶対にしない」という考え方だった。

北沢さんは、クライアントによって生成AIの使用が禁止されている場合はルールを厳守するのはもちろん、AIによる生成結果について画像検索で類似デザインがないか確認をしている。便利だから使うのではなく、「どこまで使うべきか」をかなり慎重に見極めているという。

実際、今回の取材で見えてきたFireflyボードの使い方も、AIに作品を作らせるというより、自分のアイデアを整理し、広げるための補助に近かった。Illustratorで描いた自作イラストをベースに展開したり、生成したビジュアルをクライアントとの認識合わせに使ったりと、中心にいるのはあくまで人間側だ。

北沢さんは、AIを「鉛筆やペンと同じ道具」と表現する。どんな道具でも、使い方次第で作品にもなれば、模倣にもなる。だからこそ重要なのは「人がどう使うか」なのだろう。

生成AIというと、「人の仕事を置き換えるもの」と語られることも多い。ただ、今回の取材で見えたのは、「人が考えるための余白を増やす」使い方だった。

これまで時間やコストの問題で形にしきれなかったアイデアを、より早く、より具体的に共有できる。そして、その過程で必要になるのは、最終的に「何を選び、どう扱うか」を判断するクリエイター自身の感覚だ。

「AIを使えば、今まで諦めていた『もっと見せたいイメージ』をすべて形にできる」と語る北沢さん。Fireflyボードは、クリエイターの発想やコミュニケーションを支えるツールとして、少しずつ制作現場へ入り始めている。

Adobe取材
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