
スマートフォンメーカーとして知られるNothingは、透明な筐体を採用した独創的なデザインで、オーディオ製品でも高い存在感を示してきた。
なかでも2024年に発売された完全ワイヤレスイヤホン「Nothing Ear (a)」は、透明デザインに加え、鮮やかなイエローカラーを採用したことでも話題を集めたモデルだ。
1万円台という手頃な価格ながら、音質やノイズキャンセリング性能、携帯性までバランスよく仕上げられており、日本でもAmazonの大型セールでは品切れが続くほどの人気を獲得。Nothingのオーディオ製品として最も売れたシリーズになったという。
その後継として登場するのが「Nothing Ear (3a)」だ。価格は1万5,800円(税込)。デザインやコンセプトは大きく変えず、ドライバーを11mmから12mmへ大型化したほか、Bluetooth 6.0への対応やAI録音・文字起こし機能「サウンドキャプチャ」の搭載など、ハードウェア、ソフトウェアともに着実な進化を遂げている。
筆者も発売前に実機を試す機会を得たが、実際に数日間使ってみると、従来の「デザインがおしゃれなイヤホン」という印象から一歩進み、音質や使い勝手まで含めた完成度が大きく高まっていることを実感した。本稿では、Ear (3a)の位置付けやデザイン、装着感、音質など、ハードウェアを中心に紹介したい。
Nothingで最も売れたシリーズをさらに磨き上げた後継モデル
Nothingの完全ワイヤレスイヤホンは、大きく分けてフラッグシップの「Ear」シリーズと、価格を抑えた「Aシリーズ」の2つを展開している。
今回のEar (3a)は、そのAシリーズに属する最新モデル。手頃な価格帯を維持しながらも、Nothingらしいデザインや音質を幅広いユーザーへ届けることを目指したシリーズだ。
ベースとなった「Ear (a)」は、Nothingのオーディオ製品として最大のヒット作となった。デザインだけではなく、価格以上の音質やノイズキャンセリング性能も高く評価され、日本ではAmazonの大型セールで品切れになることも珍しくなかった。
そうした実績があるだけに、Ear (3a)はゼロから新しい製品を作るのではなく、多くのユーザーから支持されたEar (a)をさらに磨き上げるという考え方で開発されたという。
Nothingは近年、日本市場への投資にも力を入れている。KDDI(au)や楽天モバイルとの取り組みを進め、国内での販売店舗は2,000店以上まで拡大した。街中でもNothingのスマートフォンやイヤホンを見かける機会は、以前より確実に増えている。
そうした日本市場での利用状況も踏まえ、Ear (3a)では細かな改良も施された。その一つが、新たに追加されたXSサイズのイヤーチップだ。Nothing Japanのマネージングディレクターを務める黒住吉郎氏によると、日本人、特に女性は比較的耳の穴が小さい傾向があり、従来のSサイズでも十分にフィットしないケースがあったという。
イヤホンは装着状態によって音質やノイズキャンセリング性能が大きく左右される。XSサイズを追加したのも、より多くのユーザーが本来の性能を引き出せるようにするためだ。
実際に装着してみると、耳への収まりは非常に良好だった。長時間使用しても圧迫感は少なく、軽く頭を振った程度でズレることもない。耳が小さめのユーザーにとっては、うれしい改善点といえるだろう。
ケースにも細かな変更が加えられている。透明デザインはそのまま受け継ぎつつ、角を丸く仕上げたことで手になじみやすくなった。サイズは大きく変わらないものの、ポケットへ出し入れしやすくなったように感じられる。
カラーバリエーションはブラック、ホワイト、イエローに加え、新たにピンクを追加。このピンクは淡い色合いではなく、マゼンタに近い鮮やかなカラーを採用している。パープルが少し混じったような発色で、アクセサリー感覚でも楽しめる存在感がある。
ケースには3つのドットLEDが新たに搭載された。Nothingスマートフォンの「Glyph Interface」を思わせるデザインで、充電状況やバッテリー残量、ペアリング状態などを視覚的に確認できる。派手さを狙った演出ではないものの、Nothingらしい遊び心を感じられる部分だ。
本体とケースはいずれもIP54の防塵・防滴性能を備える。完全防水ではないが、汗や突然の雨であれば気にせず使えるため、日常使いでは十分な安心感がある。
12mmドライバー採用で低音の厚みがさらに増した
「Ear (3a)」で最も進化を感じたのは音質だ。ドライバーは従来の11mmから12mmへ大型化され、振動板やマグネット、駆動系も新たに設計し直された。内部レイアウトまで見直したことで、250Hz以下の低域は前モデルより5〜7dB向上しているという。
実際に聴き比べてみると、その違いはすぐに分かった。ベースラインやキックドラムはしっかり沈み込み、低音の厚みが増している。一方で低域だけが前に出ることはなく、ボーカルやギターも埋もれないため、全体のバランスは良好だ。ロックやEDMとの相性はもちろん、J-POPでもリズムが心地よく感じられるチューニングになっている。
中高域も自然な仕上がり。女性ボーカルは輪郭が明瞭で、高音域も伸びやかに鳴る。低音が豊かになったことで音に安定感が生まれ、迫力と聴きやすさをうまく両立している印象を受けた。
「Nothing X」アプリでは従来のプリセットEQに加え、8バンドのイコライザーを使った細かな調整が行える。さらに「Explore」では、プロDJが制作したEQプリセットをダウンロードして適用できるようになった。
今後はユーザー同士でEQ設定を共有する仕組みも計画されているという。写真アプリでフィルターを共有するような感覚で、自分好みの音を楽しめるようになるのは興味深い。
接続性能も着実に進化した。Bluetooth 6.0に対応したことで、駅構内や商業施設など電波が混雑する環境でも接続は非常に安定していた。動画視聴やゲームプレイでも途切れる場面はなく、ストレスを感じることはほとんどない。
省電力性能も向上し、イヤホン単体で最大10時間、ケースを含めると最大42時間の連続使用に対応。LDACも引き続きサポートしており、Android端末ではハイレゾ相当の高音質再生も楽しめる。
ノイズキャンセリングもブラッシュアップされた。最大45dBという数値は変わらないものの、対応できる周波数帯域が広がり、全体では約17%性能が向上したという。実際に電車へ乗ると走行音はしっかり抑えられており、カフェでは周囲の話し声が自然に遠ざかるような感覚が得られた。
外音取り込みモードも改善されており、従来モデルより自然な聞こえ方になっている。イヤホンを装着したままでもレジの店員とスムーズに会話ができた。
通話品質も向上している。3基のマイクとAIによる「Clear Voice Technology」が2,800万通り以上の騒音パターンを学習しており、周囲が騒がしい場所でも相手に声がしっかり届く。
イヤホンをつまむだけで録音開始。会議でも思いつきのメモでも役立つ
ここまで述べてきたように、Ear (3a)は音質や装着感、接続性など、イヤホンとしての基本性能を着実に底上げしたモデルに仕上がっている。その一方で、今回の新モデルを語るうえで欠かせないのがAI機能だ。
イヤホン単体で録音を行い、そのまま文字起こしや要約までこなす「サウンドキャプチャ」は、一般的な完全ワイヤレスイヤホンとは異なる使い方を提案する機能となっている。
サウンドキャプチャは、イヤホンのステム部分をつまむだけで録音を開始できる。操作はNothing Xアプリから自由に割り当てられ、「長押し」や「2回つまんで長押し」など、自分の使いやすいジェスチャーを設定でき、スマートフォンを取り出して録音アプリを探す必要はない。
録音データは一度イヤホン本体のメモリーへ保存され、その後Bluetooth経由でスマートフォンへ転送される仕組み。最終的には、Nothing Xアプリ内で一元管理され、録音の再生だけでなく文字起こしや要約まで同じ画面で行える。
録音時間は用途によって異なる。オンライン会議や通話など、イヤホンのマイクを利用する音声は1回につき最大2時間まで録音できる。
一方、音楽などのメディア音声は「オーディオスナップショット」として扱われ、著作権への配慮から最大60秒までに制限されている。録音開始時には「これから録音を開始します」という音声アナウンスが流れる。これは周囲への通知だけでなく、意図しない録音を防ぐための配慮でもある。
実際に会議で試してみると、この手軽さは想像以上だった。議事録を残そうと思っていても、会議が始まってから慌ててスマートフォンを取り出すことは少なくない。
Ear (3a)ならイヤホンを軽くつまむだけで録音を始められるため、「録り忘れた」という失敗が起きにくい。歩きながら突然アイデアを思いついた時にも役立つ。スマートフォンを操作する必要がないので、その場で音声メモを残す感覚に近い。日常では思い付きを記録する用途、仕事では会議や打ち合わせの補助として利用できそうだ。
録音したデータはAIによる文字起こしにも対応する。標準モードは端末側で処理を行い、「高速」と「高精度」の2種類から選択できる。高速モードは短時間で結果が得られ、高精度モードは多少時間がかかる代わりに認識精度を重視する設定だ。
さらにクラウドで処理する「プロ文字起こしモード」も用意される。こちらは高速処理と高精度を両立できるのが特徴で、開発陣は性能差を「AIの世代が一つ進むような感覚」と表現していた。
プロモードは月120分まで利用でき、Ear (3a)購入者には3か月間の無料体験が提供される。無料期間終了後は有料サービスへ移行する予定だが、記事公開時点では料金は公表されていない。月120分を超えた場合でも録音機能そのものは利用でき、標準モードで文字起こしを続けられる。文字起こしが終わるとAIによる要約も実行できる。
会議の要点だけを素早く確認できるため、議事録を一から読み返す必要がなくなる。生成AIを日常で活用する場面は増えているが、イヤホンだけで録音から要約まで完結できる製品はまだ珍しい。そういう意味では、NothingがAIを実用的な形として取り入れようとしている姿勢がよく分かる部分だった。
もちろん万能ではない。クラウド処理を利用する以上、通信環境によって処理時間は左右されるし、専門用語が多い会話では確認や修正が必要になる場面もある。それでも、ゼロから議事録を書く手間を考えれば十分実用的なレベルに達していると感じた。
デザインだけでは終わらない新たな「Nothing Ear」に
Nothingはこれまで、「透明デザインが特徴のメーカー」という印象を持たれることが少なくなかった。もちろん今回も透明ボディやLEDなど、見た目の魅力は健在だ。
一方でEar (3a)を実際に使うと、それ以上に印象に残るのは日常での使いやすさだった。音質は価格帯を一段上回る完成度があり、ノイズキャンセリングや外音取り込みも実用性が高い。Bluetooth 6.0による安定した接続や42時間というバッテリー駆動時間も、毎日使うイヤホンとして大きな安心材料になる。
XSサイズのイヤーチップ追加も、日本市場を意識した細かな改善として評価したい。こうした積み重ねが、装着感や音質の向上につながっているのだろう。
Nothing Xアプリも完成度が高い。8バンドEQによる細かな調整に加え、プロDJが制作したEQプリセットを利用できる「Explore」も用意された。今後はユーザー同士でEQを共有する仕組みも計画されており、自分好みの音を探す楽しみも広がりそうだ。
価格は1万5,800円(税込)。市場には同価格帯の完全ワイヤレスイヤホンが数多く並ぶが、AI録音や文字起こし、要約まで搭載した製品はまだ多くない。
Nothingは今回、ハードウェアだけで差別化するのではなく、AIを組み合わせた体験そのものを商品価値として提案している。
実際に数日間使ってみて感じたのは、「録音できるイヤホン」ではなく、「気付けば録音しているイヤホン」になっていたこと。会議だけでなく、取材メモや買い物リスト、ふと思い付いたアイデアまで、スマートフォンを取り出さずに残せる手軽さは一度慣れると手放しにくい。
もちろん音楽を聴く時間の方が圧倒的に長い。だからこそ、音質や装着感、バッテリー性能を妥協していては意味がない。
Ear (3a)は、その基本性能をしっかり押さえた上でAIという新しい価値を加えた点に大きな意味がある。Nothingはデザインだけで注目を集めるブランドから、一歩ずつ実用性で選ばれるブランドへ変わり始めている。Ear (3a)は、その転換点を象徴する製品と言っていいだろう。
