
「Nex Playground」というゲーム機を知っているだろうか。日本ではまだほとんど知られていない名前だが、米国では2025年のホリデーシーズンに大きな注目を集めた。
2025年11月のブラックフライデーでは、米国のゲーム機販売台数でNintendo Switch 2やPlayStation 5に次ぐハードウェア販売台数トップ3に入り、Xboxを上回る販売台数を記録。12月には販売するすべてのチャネルで完売したとしている。
そんな「Nex Playground」が2027年に日本にやってくる。
先日実施された「東京ゲームショウ2026」では、Nexのビジネスブースで、共同創業者兼CEOのDavid Lee(デイビッド・リー)氏、プレジデント兼インターナショナル統括のTom Kang(トム・カン)氏、Nex Japan合同会社ゼネラルマネージャーの山本恵美子氏の3人に直接話を聞く機会を得た。
なぜ、ほとんど知られていない「Nex Playground」が米国でここまで売れたのか。そして、日本では何を仕掛けようとしているのか。実際にゲームを体験しながら、創業の背景からハードウェア、日本向けの展開まで聞いた。
コントローラーを持たず、身体の動きでゲームを操作する「Nex Playground」
「Nex Playground」は、コントローラーやウェアラブルデバイスを使わず、カメラでプレイヤーの全身の動きを認識してゲームを操作する製品だ。
本体には172度の超広角カメラを搭載しており、約1mほどの距離からプレイヤーの全身を認識できる。手を振る、ジャンプする、身体を左右に傾けるといった動作が、そのままゲーム内の操作になる。
172度という広い視野角によって、プレイヤーが本体から大きく離れなくても全身をカメラに収められる。約1mほどの距離でもプレイできるため、広いスペースを確保しにくい日本の住宅環境でも設置しやすい設計といえる。
本体にはARMベースのプロセッサに加え、GPU、専用NPU、カメラ処理用のISPを搭載。カメラから取得した映像の処理を本体側で行うことで、プレイヤーの動きをリアルタイムに認識する。
ゲームは2人から最大4人までの同時プレイに対応。音楽ゲームやアクションゲームなど、身体を使って遊ぶタイトルを中心に展開している。
「Nex Playground」が主なターゲットとしているのは、子どものいる家庭だ。子どもが1人でゲームをするのではなく、親も一緒に身体を動かしながら遊ぶことで、家族で過ごす時間を作ることを狙っている。
さらにNexは、祖父母世代も重要なユーザーとして想定している。子どもや孫と一緒に遊べることに加え、身体を動かすきっかけにもなるためだ。
米国での価格は本体が299ドルで、5本のスターターゲームを同梱する。さらに、3カ月49ドルまたは年間89ドルの「Play Pass」に加入すると、60以上のゲームをプレイできる。
「ソファーから立ち上がってほしい」――Appleと『スラムダンク』から生まれたNexの発想
Nexの共同創業者兼CEOを務めるDavid Lee氏は、Nexを立ち上げる前にスタートアップ「EditGrid」をAppleに売却し、その後8年間Appleで働いた経歴を持つ。2017年にNexを創業したが、その原点としてLee氏が挙げるのが、日本の漫画『スラムダンク』だ。
子どもの頃から『スラムダンク』を見て育ち、バスケットボールが大好きだったというLee氏。自身を「身長は宮城リョータ、3ポイントシュートは三井寿、心は桜木花道」と表現するほど、作品とバスケットボールへの思い入れは強い。
NBAでプレーすることを夢見ていたものの、その夢を実現することはできなかった。しかし、バスケットボールとテクノロジーを組み合わせることで、別の形でNBAと関わることになる。
リー氏は2017年にAppleを退職した後も、テクノロジーを使った新たな取り組みを続けていた。2018年にはAppleから「何か面白いことをやっているなら来ないか」と声をかけられ、Appleのイベントステージに登壇。当時、モーショントラッキング技術を持つ数少ない企業のひとつとして、同技術を使ったバスケットボールのトレーニングアプリを披露した。
そのデモからわずか1年後、NexはNBAとパートナーシップを結び、投資も受けることになった。バスケットボール選手の動きを捉えるために培ってきた技術が、Nexの事業をスポーツの領域からエンターテインメントへ広げるキッカケにもなったという。
その技術は、現在の「Nex Playground」にも受け継がれている。バスケットボールの動きを認識するために開発していたコンピュータービジョン技術をゲームにも応用し、身体を動かすことで画面上のキャラクターやオブジェクトを操作する現在のスタイルへとつながっていった。
Lee氏が「Nex Playground」で目指しているのは、画面の前に座ったまま楽しむ従来型のゲームとは異なる「アクティブプレイ」だ。テレビの前で身体を動かしながら遊び、家族や友人が同じ場所で時間を共有する。
その考え方には、Appleで学んだプロダクトづくりに加え、Lee氏が尊敬する任天堂の岩田聡氏の影響もあるという。スティーブ・ジョブズ氏からは大きなビジョンと細部へのこだわりを、岩田氏からは子どもから大人まで幅広い人が楽しめるゲームのあり方を学んだと話している。
「ゲームをするためにソファーに座り続ける」のではなく、「ゲームをきっかけにソファーから立ち上がる」。Lee氏が語る「Nex Playground」の狙いは、こうした発想に集約される。
子どもが遊ぶことを前提に、カメラ映像は本体内で処理
身体の動きをカメラで認識する製品だけに、プライバシーも重要だ。
「Nex Playground」では、カメラで取得した映像の処理を本体内部で完結させる。動画データをクラウドへ送信・保存する仕組みではなく、専用のNPUやISPなどを使って端末側で画像処理と動作認識を行う。
本体には物理的なマグネット式のカメラカバーも用意するほか、kidSAFE+認証を取得し、COPPAにも準拠している。
また、ゲーム内の広告やアプリ内課金を採用していないことも特徴。オープンなテキストチャットや音声チャットも設けていない。子どもを含む家族で遊ぶことを前提に、ゲームの中で広告や課金、知らないユーザーとのコミュニケーションが発生しない環境を作っている。
ローカライズにこだわり、価格やゲームを日本向けに
Nexの海外展開を担うのが、プレジデント兼インターナショナル統括のTom Kang氏だ。Walmartでイマーシブコマース事業を率いたほか、Amazon、AWS、Disney Interactiveなどで要職を歴任。複数のスタートアップでCEOを務めた経験も持つ、グローバルビジネスのスペシャリストだ。
Nexでは経営戦略や事業開発、オムニチャネルコマース、海外展開などを統括している。「Nex Playground」の販売網は2024年の1,000店舗超から、2025年には5,000店舗超、2026年には7,000店舗超へと拡大。WalmartやTarget、Kohl’sといった大手小売チェーンに加え、AmazonやTikTok Shopなどオンライン・ソーシャルECにも販路を広げてきた。
2026年6月には英国・アイルランドでも販売を開始し、欧州ではドイツへの展開も予定している。こうした海外展開を進めるなかで、2027年には日本がアジアで最初の展開先となる。
日本市場については、単に米国向けの製品を持ち込むのではなく、日本向けに価格やサブスクリプション、ゲームコンテンツまでローカライズする方針だという。日本のIPを活用したゲーム開発も進めており、セガの「ソニック」やバンダイナムコの「パックマン」といったIPとの協業に加えて、日本の開発会社と日本独自のタイトルを開発しているという。
(画像提供:Nex)
また、日本法人のゼネラルマネージャーには、カン氏がDisneyやAmazon Gamesでともに仕事をした経験を持つ山本恵美子氏を起用した。
山本氏はセガやディズニー、Amazon Gamesなどでゲーム関連事業に携わってきた人物だ。セガでは『アイラブミッキーマウス ふしぎのお城大冒険』などの作品に関わり、ディズニーでは『キングダム ハーツ』の共同開発にも携わった。
海外での事業拡大を進めてきたカン氏と、日本のゲーム・エンターテインメント業界を知る山本氏。それぞれの経験を生かしながら、日本市場での事業基盤を構築していく考えだ。
販売については、オンラインだけでなく実店舗での体験も重視する。「Nex Playground」は実際に身体を動かして遊ぶ製品だけに、店頭に試遊機を設置して製品を体験してもらう機会を増やしたい考えだ。
海外ではTikTokを活用した販売も成果を上げており、インフルエンサーやクリエイターがゲームを体験する動画を投稿し、そのまま購入につなげる取り組みも行っている。日本でもオンラインとオフラインの両方から市場を開拓していく考えだ。
音楽ゲームと「ソニック」のゲームを実際にプレイしてみた
今回の取材では、インタビューだけでなく「Nex Playground」の実機にも触れることができた。試遊したのは、音楽ゲーム『Starri』と、セガの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を題材にした『Sonic Forces: Rival Rush』だ。
『Starri』は、画面に流れてくるノーツに合わせて身体を動かす音楽ゲーム。矢印の方向に手を振り下ろしたり、グルグルマークに合わせて腕を回したりと、直感的な動きで操作する。楽曲や難易度によってはかなりクイックな動きが求められ、1曲まるまるプレイすると息が上がるほど。想像していた以上に身体を使うゲームだった。
『Sonic Forces: Rival Rush』は、画面上に現れる障害物を身体を左右に傾けたり、ジャンプしたりして避け、リングを取りながらゴールを目指すゲーム。ソニックらしいスピード感があり、キビキビ動かないと障害物にぶつかって減速してしまう。
プレイできるのは2人までだが、実際に遊んでいると、周囲からも「ジャンプ!」「アイテム!」と自然に声が上がる。プレイヤーの動きを見ているうちに、いつの間にか周りもゲームに熱中しているような感覚で、その場にいた人たちとワイワイ楽しめた。
実際に遊んでみると、Nexが「アクティブプレイ」と呼ぶ体験は分かりやすい。コントローラーを持って操作するのではなく、テレビの前に立って身体を動かす。さらに、プレイしていない人も画面を見ながら声を掛けられる。「家族で遊ぶ」というNexの狙いが、実際のゲーム体験にも落とし込まれている。
2027年の日本展開では、日本向けの価格やサービスに加え、国内IPや開発会社との連携も進めるとしている。米国で広がった「家族で身体を動かして遊ぶ」というスタイルが、日本ではどのようなゲーム体験として展開されるのか。今回の試遊では、その方向性を実際のゲームを通して確かめることができた。
