当メディアはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

AI特需で終わりが見えない『ラマゲドン』。メモリからSSD、GPUへ広がった値上げの波は「マザーボード」へ波及か

2026年夏、自作PCを取り巻く環境が大きく変わっている。メモリやSSD、GPUなどの価格が相次いで上昇し、PCを1台組むために必要な費用が膨らんでいるためだ。

背景にあるのは、生成AIの普及によって急拡大したデータセンター需要。AI向けサーバーでは、GPUやAIアクセラレーターだけでなく、大量のメモリやSSD、基板、電源部品などが必要になる。メーカーがこうしたAI関連製品へ生産能力を振り向けたことで、一般向けPC部品の供給や価格にも影響が及ぶようになった。

そして2026年8月、今度はマザーボードにも値上げの波が及び始めている。

スポンサーリンク

AI特需の影響がマザーボードにも波及。PCB価格が前年比50%上昇へ

(画像:AIで生成)

中国のサプライチェーン情報サイト「Board Channels(博板堂)」が8月初旬に報じた情報によると、消費者向けマザーボードに使われるプリント基板(PCB)の価格は、2026年中に前年比で少なくとも50%上昇する見通しだという。

値上がりしているのはPCBだけではなく、銅、積層セラミックコンデンサー(MLCC)、パワー半導体、制御チップ、VRM関連部品など、マザーボードを構成するさまざまな部材で価格上昇が進んでいる。銅価格は2025年初頭から約30%上昇している。PCBには銅箔や銅張積層板(CCL)が使われるため、銅関連のコスト上昇は基板の製造費にも響く。一部メーカーでは30%を超える値上げ通知が出ているともされる。

さらに状況を複雑にしているのが、AIサーバー向け基板の需要増加だ。AIサーバーでは30層以上の高多層PCBが使われることがあり、用途によっては70~100層に達するケースもある。こうした高性能基板の需要が急増したことで、基板メーカーの生産能力や材料の需給にも影響が及び、一般向けPCBのコストにも波及しているとみられる。

台湾の大手マザーボードメーカーであるASUS、GIGABYTE、MSIの3社は、2026年第3四半期(7~9月)までにマザーボードの流通価格を引き上げる計画とされている。ASUSについては、すでに8月上旬から一部モデルの卸価格を調整しているとの情報もある。

値上げ幅は、Intel向けのZ890、Z790、B860などで20~30元、AMD向けのX870などで30~50元とされる。日本円では数百円から千数百円程度で、現時点では小幅な調整に見える。ただ、PCBや各種部品のコスト上昇が続けば、今後さらに価格へ転嫁される可能性がある。今回の値上げは、その最初の動きと見ることもできそうだ。

スポンサーリンク

マザーボードは「売れないのに、作るコストは上がる」

今回の値上げを難しくしているのが、マザーボード市場そのものの厳しさにある。DigiTimesによると、台湾大手4社の2026年出荷予測は大きく下方修正されている。

ASUSは2025年の約1,500万枚から2026年は約1,000万枚へ約33%減少する見通し。GIGABYTEも約1,150万枚から800~850万枚へ減少し、約26~30%の減少となる。MSIは約1,100万枚から約840万枚へ約24%減、ASRockは約430万枚から約270万枚へ約37%減と予測されている。

4社を合計しても25%以上の減少となる計算で、金融危機や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行初期を上回る落ち込みとの指摘もある。

つまりマザーボードメーカーは、販売台数が減る一方で、製造に必要な部材のコストは上がるという難しい状況に置かれているのだ。

メモリやSSDの高騰によって自作PCの需要が落ちれば、マザーボードの販売台数も減る。販売台数が減れば、1台あたりにかかる固定費の負担も大きくなる。そこへPCBや各種部品の値上がりが重なれば、メーカーが価格への転嫁を検討するのも自然な流れだ。今回のマザーボード値上げは、AI需要による部材コストの上昇だけでなく、販売数量の減少という厳しい市場環境のなかで始まっている。

メモリからSSD、GPUへ。「RAMageddon」はPC全体に広がった

(画像:AIで生成)

マザーボードの値上げは、2025年後半から続いてきたPC部品価格の上昇ともつながっている。

最初に大きな影響を受けたのがメモリだった。2025年秋ごろから、AIサーバーで使われるHBM(高帯域幅メモリ)や大容量サーバー向けDRAMへの生産シフトが進んだ。

Samsung、SK hynix、Micronの3社が大きなシェアを持つDRAM市場では、AI向け製品の生産が増えたことで、PC向けの汎用DRAMの供給が圧迫されている。HBMは2026年時点でDRAMウエハー投入量の23%を占めるとされ、2027年には30%まで拡大するとの予測もある。

価格上昇も急激だった。DDR5の16Gbチップは2025年初頭に約4.7ドルだったものが、約46ドルまで上昇した例がある。約10倍という水準だ。

日本国内でも、DDR5-32GB(16GB×2)のメモリキットが2025年10月ごろの約2万7,000円から、2026年夏には約10万円前後まで上昇した例がある。16GBキットでも、1万円台だった製品が8万円を超えるケースが出ている。

TrendForceは2026年第1四半期のDRAM契約価格について、前四半期比90~98%の上昇を予測。第2四半期も58~63%の上昇を見込み、第3四半期は上昇ペースが鈍るものの13~18%の上昇を予測している。Gartnerも2026年のメモリ価格について、最大130%の上昇を予測している。

海外では、この異例の価格高騰を「RAMageddon(ラマゲドン)」と呼ぶ動きまで出ている。Appleのティム・クックCEOはメモリ価格の状況について「100年に一度の洪水」「指数関数的な上昇」と表現し、MacやiPadの価格にも影響が出ている

さらにSamsungは、メモリ不足が2027年にいっそう深刻になり、2028年まで続く可能性を指摘している。Lenovoの関係者からも「2025年初頭の水準にはもう戻らない」との発言が出ており、短期間で以前の価格へ戻ることを期待するのは難しい状況だ。

ストレージも同じ流れに巻き込まれている。NANDフラッシュでは、AI推論などに使われるエンタープライズSSDの需要が急増した。メーカーが企業向け製品を優先したことで、コンシューマー向けNANDの供給も圧迫されている。

NANDウエハー価格は2025年初頭の約2.4ドルから約25ドルへ、約10倍になった例もある。1TBのM.2 NVMe SSDも、2024年から2025年前半にかけて約8,000円だったものが、2026年には1万8,000~2万2,000円程度まで上昇。価格は2~2.7倍ほどの水準になっている。

2026年第2四半期には、大口取引価格が前四半期比で約60%上昇した例もある。TrendForceも同四半期のNAND契約価格について70~75%の上昇を予測していた。

GPUも例外ではない。NVIDIAやAMDがAIB(ボードパートナー)への供給価格を引き上げたことで、グラフィックスカードの価格にも影響が出た。2026年に入ってからは、GPUに搭載されるGDDR系メモリの不足も価格を押し上げている。

日本ではGIGABYTE製グラフィックスカードの卸価格が最大40%上昇した例があり、GeForce RTX 5080やRTX 5070 Tiが数週間で約2万円値上がりしたケースもある。MSIでも20%を超える値上げが実施されたとされ、AMDについても最低10%の供給価格引き上げが報じられている。

ここまでを見ると、今回のマザーボード値上げは、突然始まった動きではないことが分かる。メモリ、SSD、GPUと価格上昇が広がるなかで、今度はPCの土台となるマザーボードにもコスト上昇の影響が及び始めた格好だ。

PC本体も値上がり。部品高騰が完成品にも波及

COMPUTEX TAIPEI 2026で展示されていたGIGABYTEのサーバー製品

部品価格の上昇は、自作PCだけでなくPC本体にも広がっている。JEITA(電子情報技術産業協会)の統計では、2026年上期の国内PC平均出荷単価は12万円を超える水準まで上昇し、4月には約14万円に迫った。一方、出荷台数は大きく減少している。前年同月比20%超の減少となった月もあり、6月には32%減となった。

売れる台数が減っているにもかかわらず、PC価格が下がりにくい背景には、メモリやSSDをはじめとする部品コストの上昇がある。GartnerはDRAMとSSDのコスト上昇によって、PC価格が17%押し上げられると予測している。

ここまで価格上昇が広がると、もはや「メモリが高い」というだけでは説明しにくい。AIデータセンターの拡大によって、半導体からストレージ、基板、銅、コンデンサー、電源部品まで、PCを構成するさまざまな部材の需給バランスが変わっている。

AIサーバーでは、GPUやAIアクセラレーターに加えて大量のメモリやストレージが必要になる。AIサーバー1台が消費するDRAMは従来型サーバーの8~10倍、NANDも3倍以上になるとの指摘がある。

メーカーにとっても、AIデータセンター向けの高性能・高単価な製品へ生産能力を振り向けるメリットは大きい。HBMやエンタープライズ向けSSDなど、需要の強い製品に生産を振り向ければ、PC向け製品に回せる余力は小さくなる。

そしてマザーボードも、こうした影響から無縁ではいられない。AIサーバー向けの高多層PCBの需要が増えれば、銅箔やCCLなどの材料にも影響が及ぶ。PCBの原価に占める銅関連コストは約18~20%とされており、銅価格の上昇はマザーボードの製造コストにも響く。高多層基板の需要が増えたことで一般的な基板にも影響が広がり、納期が数カ月単位で長期化するケースも報告されている。

マザーボードはどこまで値上がりする?メーカーが抱える難しさ

ここで難しいのが、マザーボード市場では販売台数そのものが落ち込んでいることだ。部品コストが上昇したからといって、その分をすべて販売価格へ転嫁すれば、さらに購入を控えるユーザーが増える可能性がある。一方で、価格を据え置けばメーカー側の負担が大きくなる。

特に自作PCでは、メモリやSSD、GPUの価格がすでに大きく上昇している。マザーボードまで値上がりすれば、PCを組むための総額はさらに膨らむ。

今後は、まず流通価格への転嫁が進み、その後に小売価格へ影響が広がる可能性がある。二桁台の値上げや、低価格帯モデルのラインアップ縮小を予想する声も出ている。

ただし、メーカーがどこまで値上げ分を小売価格へ転嫁できるかは、在庫の回転状況や販売動向にも左右されるところ。部品コストだけを見て、マザーボードが一律に大幅値上げされると考えるのは早いだろう。

現時点では、すべてのマザーボードが一斉に大幅値上げされるというより、まずは卸価格や一部モデルから段階的に価格へ反映される可能性が高い。とはいえ、部材価格の上昇が続けば、その影響が小売価格まで広がることは十分に考えられるだろう。

自作PCは「安く組む」より「どこにお金をかけるか」が重要に

では、こうした状況でこれから自作PCを組むユーザーは、どう考えればいいのか。

これまで以上に重要になるのが、限られた予算をどこへ配分するかだ。特にメモリとSSDは価格変動が大きいため、最初から大容量を購入せず、必要になった段階で増設する方法もある。

一方、CPUやマザーボードなどPCの土台になる部分は、数年間使うことを前提に選ぶという考え方もできる。たとえばAMDのAM5のように複数世代のCPUに対応するプラットフォームを選べば、将来的にCPUだけを交換して性能を伸ばすこともできる。

ただ、価格が上がっているからといって、必要のない部品まで急いで買う必要はない。今すぐPCが必要なのか、手持ちのPCをしばらく使い続けられるのかによって判断は変わってくる。

2026年の自作PC市場では、「欲しい構成をできるだけ安く組む」という考え方に加えて、「数年間使うなら、どこに予算をかけるべきか」を考えることが重要になっている。

メモリやSSDを必要以上に積むより、CPUやマザーボードなどPCの土台をしっかり選び、ストレージやメモリは必要に応じて増設する。現在の価格環境ではそうした組み方も選択肢になりそうだ。

2026年夏のPC市場で起きているのは、AIブームの影響がデータセンターだけに収まらず、一般ユーザーが購入するPCの価格にも及んでいるという状況だ。メモリから始まり、SSD、GPU、PC本体へと広がった価格上昇は、ついにマザーボードにも波及し始めた。

今後、価格の上昇ペースが鈍る可能性はあるものの、部品価格そのものが以前の水準まで戻るには時間がかかるとみられる。少なくともメモリを中心とした一部の部品では、2028年ごろまで需給のひっ迫が続く可能性も指摘されている。

AI向けの設備投資が続く限り、その影響はデータセンターの中だけで完結せず、私たちが普段使っているPCにも跳ね返ってくる。2026年夏のマザーボード値上げは、その影響がPCの隅々まで広がり始めたことを示す動きのひとつと言えそうだ。

情報ソース