レノボの「Neptuneラボ」に潜入。日本初の水冷AIインフラ検証拠点の中身を見てきた

レノボ・ジャパンは5月26日、日本初となる水冷AIインフラの検証拠点「Neptuneラボ」を開設した。

Neptuneラボは、MCデジタル・リアルティ(MCDR)が千葉県印西市で運営するNRT12データセンター内の「MCデジタル・リアルティ イノベーション ラボ(DRIL)」に設置された施設だ。企業やパートナー企業は、実運用に近い環境で水冷AIインフラの性能や運用性を検証できる。

生成AIの活用が広がり、企業の関心がPoC(概念実証)から本番運用へ移るなか、GPUの高性能化に伴う発熱量の増加や電力消費の拡大が大きな課題になっている。

レノボによると、日本国内のAI投資額は2027年までに2023年比で2〜3倍に拡大する見込みで、データセンターの電力需要も2030年までに約3倍へ増加すると予測されている。

一方、現在のデータセンターでは消費エネルギーの最大40%が冷却に使われている。AI向けサーバーの増加に伴い、電力と冷却の効率化は避けて通れないテーマになりつつある。

Neptuneラボは、こうした課題に対応するために開設された国内初の水冷AIインフラ検証拠点だ。サーバー、冷却設備、ネットワーク、運用基盤まで含めたシステム全体を対象に、実運用を見据えた検証を行える環境を提供する。

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サーバーから冷却設備まで、AIインフラ全体を検証

NeptuneラボはMCDRのNRT12データセンター内にある「DRIL」に設置された

Neptuneラボでは、レノボの液体冷却技術「Lenovo Neptune」と、ニデック製の冷却液分配装置(CDU:Coolant Distribution Unit)を組み合わせた環境を構築している。

GPUサーバーやCDUだけでなく、ラック、ネットワーク機器、監視システムまで含めた構成を用意しており、企業は自社ワークロードを利用したPoCのほか、高密度AI基盤の性能評価、電力効率や冷却効率の確認、ハイブリッドクラウドとの接続検証などを行える。

また、ISVやクラウド事業者、SIerと共同でリファレンス構成の策定も進める。水冷AIインフラに関する知見を共有するコミュニティ形成も視野に入れており、実証環境の提供にとどまらないエコシステムの構築を目指す。

レノボ・ジャパン代表取締役社長の檜山太郎氏は、「AI活用が本番運用へ進む中で重要になるのはGPUの性能だけではない。電力や冷却、運用、TCO(総所有コスト)を含めたインフラ全体の最適化が求められている」と話した。

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13年かけて進化したレノボの液体冷却技術

レノボ・ジャパン代表取締役社長 檜山太郎氏

ラボの中核を担うのが、レノボの液体冷却技術「Lenovo Neptune」だ。そのルーツはIBM時代にさかのぼる。2012年に世界初の常温水冷却技術を実用化して以来、改良を重ね、現在は第6世代まで進化した。

最大の特徴は、45〜55℃の温水でも運用できる温水冷却方式を採用している点だ。一般的な水冷システムでは、チラー(冷却水発生装置)を使って冷水を作る必要がある。一方、Neptuneは温水でも効率よく熱を回収できるため、チラーの使用を最小限に抑えられる。これにより、冷却設備が消費する電力の削減につながる。

レノボによると、社内テストではPUE(Power Usage Effectiveness)1.09を達成した。PUEはデータセンターの電力効率を示す指標で、1に近いほど効率が高い。1.09は、消費電力の大半をコンピューティング処理に使えることを示す非常に高い水準だ。

背面に繋がれている冷却用ホース。青が給水用で、赤が排水用
赤のホースは青のホースに比べてほんの少し暖かい

冷媒には蒸留水などの純水を使用する。一般的な水冷設備で利用されるグリコール系不凍液を使わないため、環境負荷の低減にもつながる。CDUとサーバー間の二次ループに純水を採用することで、データセンター側で異なる冷媒を利用している環境にも柔軟に対応できる。

通常はの空冷サーバーは80dBA以上が一般的だが「Lenovo Neptune」では小声でも話せるレベルの静音さ

また、大型ファンへの依存を大幅に減らせるため、空冷サーバー特有の大きな動作音も抑えられる。従来の稼働音は80dBA以上であることも多いが、「Lenovo Neptune」では図書館並みだ。

「冷却」から「熱移動」の時代へ

発表会のパネルディスカッションには、東京大学大学院情報理工学系研究科の江崎浩教授も登壇した。

江崎氏は「これからは冷却ではなく、熱をどう移動させるかが重要になる」と語る。CPUやGPUの性能向上によって発熱量は増え続けている。空気で熱を逃がす従来の空冷方式は限界に近づきつつある一方、水は空気よりも効率よく熱を運べるため、高密度化が進むAIサーバーとの相性が良い。

江崎氏は、水を利用した熱移動は空冷と比べて約100倍の性能を持ち、冷却に必要な消費電力も10分の1程度まで削減できる可能性があると説明した。AI時代のインフラにおいて、水冷は重要な選択肢になっていくとの見方を示している。

ニデック株式会社の酒井哲平氏

冷却システムの心臓部となるCDUはニデックが提供する。同社はHDDモーター開発で培った精密加工技術を活用し、水冷システムに求められる高い気密性と信頼性を確保している。

さらに、空気よりも粒子が小さいヘリウムガスを用いたリークテスト(漏れ検査)を実施。わずかな漏れも検知できる体制を整えることで、水冷システムで懸念される漏水リスクの低減に取り組む。CDUには冗長構成も採用されており、メンテナンス中でも冷却を継続できる設計となっている。

なぜ「印西」なのか

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ代表取締役社長 張磊氏

Neptuneラボが設置された千葉県印西市は、国内有数のデータセンター集積地として知られる。

活断層の影響を受けにくい強固な地盤を持ち、水害リスクも比較的低い。また、首都圏を支える安定した電力供給環境に加え、国際通信を支える海底ケーブルの陸揚げ地点にも近い。AIインフラの運用に必要な条件が揃っていることから、多くのデータセンター事業者が拠点を構えている。

さらに、MCデジタル・リアルティはNRT12で水冷環境の運用実績を持つ。Neptuneラボでは、こうした既存の知見や設備も活用していく。

これまでレノボの主要な検証環境は台湾に設置されており、日本企業も現地施設を利用していた。今回、日本国内にNeptuneラボを開設したことで、日本特有の水事情や電力事情、運用要件を踏まえた検証が可能になった。

企業は国内で実運用を想定したPoCを実施できるため、水冷導入に向けた不安や課題を事前に確認しやすくなる。レノボは、水冷技術に対する心理的なハードルを下げ、本番運用への移行を後押ししたい考えだ。

今後は漏水検知センサーの評価や運用ノウハウの蓄積に加え、水冷インフラに関する知見共有や標準化に向けた取り組みも進める。

水冷サーバー導入支援キャンペーンも実施

レノボは水冷インフラの普及を後押しするため、導入支援キャンペーンも開始した。対象となるのは最新の水冷対応サーバー「ThinkSystem SR630 V4」3台構成。5年間リース契約を通常価格から約35%割引となる月額125万8,000円(税別)で提供する。

AI活用がPoCから本番運用へ移るなか、企業にはGPUサーバーだけでなく、冷却や電力効率まで含めたインフラ全体の最適化が求められている。Neptuneラボは、水冷技術の実用化と普及を後押しする国内拠点として、今後のAIインフラ整備を支える存在になりそうだ。

Lenovo取材
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