
米大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z Capital Management)は、日本での事業活動を拡大するため、東京都内に日本オフィスを開設した。あわせて、日本マイクロソフトの代表取締役社長や日本ヒューレット・パッカードの代表取締役社長などを歴任した吉田仁志氏が、日本事業を統括する代表に就任した。
同社は2009年、初期のウェブブラウザー「Mosaic」の開発者として知られるマーク・アンドリーセン氏と、ベン・ホロウィッツ氏によって設立された。テクノロジー分野への投資に特化した世界有数のベンチャーキャピタルで、Facebook、Airbnb、SpaceXなど、数多くの有力企業を投資先に抱えている。
投資先に資金を提供するだけでなく、事業戦略の立案や人材の確保、顧客・パートナー企業の紹介なども手掛け、スタートアップの成長を幅広く支援している。事業の立ち上げから成長、世界市場への進出までを後押しする体制を整えていることも、同社の特徴だ。

日本代表に就任した吉田氏は、日本マイクロソフトの代表取締役社長兼コーポレートバイスプレジデントや、日本ヒューレット・パッカードの代表取締役社長執行役員などを歴任してきた。今回の就任には、次の世代のためによりよい社会をつくりたいという思いがある。
吉田氏は、日本が「失われた30年」と呼ばれる経済停滞の時代を経験してきたことに触れ、若い世代に自信を持って日本の未来を語れるのか、という問題意識を示した。そのうえで、若く優秀な人材が存分に力を発揮し、社会の基盤を築いていける環境を整えたいという自身の信念が、今回の就任につながったと説明した。
また、同社の支援について、投資先のベンチャー企業が社会に貢献し、事業として成功するところまで支える点に意義があると語った。

日本オフィスの開設を祝う式典には、東京都知事の小池百合子氏も出席した。小池氏は、AIの急速な進化によって世界が大きく変化するなか、時代の変化を捉えてイノベーションを進めるうえで、スタートアップの存在が重要になっていると指摘した。
さらに、東京には大企業や技術力の高い中堅・中小企業、多くの大学が集まり、世界に挑戦する起業家や研究者もいると説明。同社の進出が、スタートアップの成長や海外展開を後押しすることへの期待を示した。

ベン・ホロウィッツ氏も、日本を新たな事業展開の場に選んだ理由を説明した。同社は防衛関連企業にも積極的に投資しており、安全保障上の連携を考えるうえで、米国と同盟関係にあり、世界水準の技術を持つ日本は重要なパートナーになるという。
ホロウィッツ氏は、日本への進出を通じて「米国のベストの技術を日本に持ち込み、日本のベストの技術を世界に届ける」ことを目指すと語った。日本で重点的に取り組む分野として挙げたのは、ロボットと防衛の2つだ。
防衛分野では、ウクライナ戦争などを通じてドローンの軍事利用が急速に広がり、従来の兵器を中心とした戦い方が変わりつつある。高額な戦車やミサイルが比較的安価なドローンによって破壊される事例もあり、兵器の調達や運用にかかるコストの不均衡が課題となっている。
こうした状況を受け、AIや自動化技術を活用した防衛システムへの関心が高まっている。ホロウィッツ氏は、日本の防衛予算が増額される方向にあることにも触れ、日米の技術を組み合わせることで、双方にとって有益な成果を生み出せるとの見方を示した。
同社は、AIを活用した自律型システムや無人機など、新しい防衛技術の開発と普及に成長機会を見いだしている。日本の製造業が持つ技術や部品供給網を生かしながら、米国のAI技術やソフトウェアを組み合わせ、防衛分野の技術革新を後押しする考えだ。

ロボット分野でも、日米の技術を組み合わせる余地は大きい。日本にはモーターやセンサー、精密部品などを供給する企業が集まり、ロボットの開発から製造までを支える産業基盤が整っている。一方、AIを活用してロボットを制御する技術では米国企業が強みを持つ。同社は、日本の優れたハードウェア技術と米国のAI技術を組み合わせることで、世界市場で競争できるロボットの開発につながると考えている。
ホロウィッツ氏は、日本における初期投資先の一社として、人型ロボットの開発を手掛けるGenki Roboticsを挙げた。同社は、GoogleのAndroid初期開発に携わったことで知られるアンディ・ルービン氏が日本で創業した企業だ。日本での事業展開やパートナーシップの構築も、すでに動き始めているという。
a16zが日本に成長機会を見いだしているのは、ハードウェアや防衛技術だけではない。日本発のソフトウェアが世界市場で十分な成功を収められなかった理由について、ホロウィッツ氏は、国内市場のニーズに特化してきたことを挙げた。
日本独自の商習慣や利用者の要望に合わせて製品を開発することは、国内で事業を展開するうえでは有効だ。しかし、海外市場へ進出するには、言語や文化の違いにも対応する必要があり、世界展開のハードルになってきた。
こうした状況を変える可能性があるのが、生成AIの急速な進化だ。自然言語でソフトウェアを操作したり、開発を進めたりする技術が実用段階に入り、言語の違いによる障壁も小さくなりつつある。ホロウィッツ氏は、この変化が日本のソフトウェア開発者にとって、世界市場へ進出する新たな機会になると指摘した。
同社の日本進出は、米国のスタートアップが持つ先端技術を日本に導入するだけでなく、日本企業の技術や製品を海外市場へ展開することも視野に入れている。ロボット産業を支える製造基盤、防衛分野で求められる新しい技術、生成AIによって変わりつつあるソフトウェア開発の環境など、日本には成長の足掛かりとなる要素がそろっている。
世界的なテクノロジー企業への投資と成長支援で実績を持つa16zが、日本のスタートアップや既存企業とどのような関係を築き、どの分野に資金や支援を振り向けていくのか。米国の先端技術と日本の産業基盤を結び付け、日本発の技術を世界市場へ広げる取り組みが今後の焦点となる。




