
インテル株式会社は10月7日、東京都内の帝国ホテルで日本法人の設立50周年記念式典を開催した。
式典には、米IntelのCEO(最高経営責任者)を務めるリップブー・タン氏をはじめ、政府関係者や国内企業の経営者ら約400人が出席。日本の半導体産業や製造技術が同社の成長を支えてきた歴史を振り返るとともに、AI(人工知能)や先端パッケージングなどの分野で、日本との協業をさらに深めていく方針を示した。
式典のテーマは「The Next Fifty Starts Now」。これまでの50年を記念するだけでなく、次の50年に向けた日本との関係や技術開発の方向性を共有する場となった。
日本との歩みを振り返り、次の50年へ

Intelは1968年に米カリフォルニア州で創業し、1971年には日本での事業活動を開始した。その後、1976年4月28日に日本法人を設立。1997年には社名を現在のインテル株式会社に変更し、日本の企業や研究機関と関係を築きながら事業を拡大してきた。
Intelの歴史を語るうえで、日本企業との関係は欠かせない。同社が1971年に発表した世界初の商用シングルチップマイクロプロセッサ「Intel 4004」は、日本のビジコンから依頼された電卓向けの開発をキッカケに生まれたものだ。日本企業との協業が、現在のコンピューティング技術につながる重要な成果を生み出したことを示すエピソードといえる。

また、日本で広く知られるようになった「インテル、入ってる」というキャッチコピーも、Intelのブランド戦略における日本発の取り組みとして知られている。パソコンにIntel製プロセッサが搭載されていることを消費者に伝える「Intel Inside」キャンペーンにも、日本でのマーケティング活動が影響を与えた。
式典では、こうした日本との長年にわたる関係を振り返りながら、今後も日本を重要なパートナーとして位置付け、半導体技術の発展に向けて協力を続けていく姿勢が示された。
CEOが日本の技術力を評価、先端パッケージングで協業へ

登壇したIntelのリップブー・タンCEOは、日本が同社にとって非常に重要な市場であり、長期的なパートナーであることを強調。なかでも、半導体の製造工程で使われる有機基板や、工場の自動化を支えるファクトリーオートメーション(FA)など、日本企業が培ってきた技術力を高く評価した。
そして今後の協業分野として挙げたのが、先端パッケージング技術。Intelが開発を進める「EMIB-T」は、シリコン貫通電極(TSV)を取り入れた技術で、複数の半導体チップを高密度に接続し、電力供給や信号伝送を改善することを目指している。AIやHPC(高性能コンピューティング)向けの半導体では、演算性能を高めるだけでなく、複数のチップを効率よく接続する技術も重要になる。日本企業が持つ材料や製造技術を生かしながら、こうした先端パッケージング分野での連携を進める考えだ。
タンCEOは、日本との新たな協業についても今後発表していく意向を示した。製造業をはじめとする日本の産業基盤とIntelの半導体技術を組み合わせ、AI時代に向けた技術開発や供給体制の強化につなげる狙いがあるとみられる。
経済産業省も国内の技術力と共同研究に期待

経済産業省の門松貴氏は、これまで日本の技術革新がIntelの成長を支え、世界のデジタル化にも貢献してきたと説明した。今後はAIや自動運転、AIロボティクスなどの普及によって半導体の重要性がさらに高まり、幅広い産業で安定した供給体制と技術開発が求められるとの見方を示した。
日本政府は、2040年までに17の戦略分野で370兆円を超える投資を計画している。そのうち半導体分野では68兆円規模の投資を見込み、国内半導体の売上高を2040年に40兆円とする目標を掲げている。政府としても、国内企業と海外企業の共同研究や技術開発を後押しする方針だ。
Intelは日本の企業や研究機関とともに、半導体の後工程に関する自動化・標準化技術の研究組合「SATAS」や、次世代メモリ技術「Z-Angle Memory(ZAM)」などの取り組みにも関わっている。半導体の製造技術や材料、装置などに強みを持つ日本とIntelが連携することで、製造工程の高度化や次世代技術の実用化を目指す。

式典には、ジョージ・グラス駐日米国大使もビデオメッセージを寄せ、日米の協力関係が半導体産業の発展に果たしてきた役割を評価した。半導体をめぐっては、経済安全保障やサプライチェーンの強化も重要な課題となっており、日米間の連携は今後も大きな意味を持ちそうだ。
楽天と富士フイルムが語るIntelとの長年の協業

日本企業を代表して登壇した楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、楽天とIntelの関係を振り返った。楽天市場を1997年に立ち上げた当初、月間の流通総額は30万円ほどで、そのうち20万円は自ら購入した商品によるものだったという。そこから事業を拡大できた背景のひとつとして、Intelのプロセッサの進化を挙げた。
三木谷氏は、ムーアの法則に沿った半導体性能の向上が、インターネットサービスの発展を支えてきたと説明。また、楽天シンフォニーが取り組むOpen RANやネットワークの完全仮想化についても言及し、業界内で実現が難しいと考えられていた段階からIntelが支援してきたことに感謝を示した。AIの普及によって、データを処理するための計算能力だけでなく、それらをつなぐネットワークの重要性も高まるとして、今後の協業に期待を寄せた。

富士フイルムホールディングスの後藤禎一社長は、Intelとの取引が1980年代に始まったことを紹介した。当初は半導体材料をドラム缶1本分納入するところから始まったが、現在では先端材料や製造技術を通じて、Intelの半導体製造を支える関係に発展している。Intelの先端プロセス「18A」に関連する材料も手掛けているという。
後藤氏は、米国で材料の品質に関する問題が発生した際のエピソードも明かした。両社の担当者が協力して原因を調べ、問題の発生源を特定したうえで、Intelの工場が稼働停止に陥ることを避けるため、米国東海岸から西海岸へ材料を緊急輸送したという。
後藤氏はIntelを大切な顧客でありパートナーと表現するとともに、技術を学ぶ「師匠」のような存在でもあると語った。Intelのアジア太平洋地域を担当するサントシュ・ヴィスワナサン副社長も、日本との関係を「Japan Inside」と表現し、Intelの社員にとって日本との協業が会社の一部になっていると述べた。「Intel Inside」を想起させる言葉で、日本が同社の事業に深く関わってきたことを示した。

また、式典には経済産業大臣も務めた元衆議院議員の甘利明氏も出席。半導体産業では現在のリーダーが将来もリーダーであり続けるとは限らないと指摘したうえで、Intelには今後も半導体業界をけん引する存在であり続けてほしいと期待を寄せた。
空手の演武やロボットのデモでAI活用を紹介


式典の冒頭では、東京2020オリンピックの空手女子形で銀メダルを獲得した清水希容氏が演武を披露した。さらに、清水氏の形をモーションキャプチャーでデータ化し、AIに学習させた動きをロボットで再現するデモも行われた。人の動作をデータとして取り込み、AIを使ってロボットの動きに反映する取り組みを通じて、AIがデジタル空間の処理にとどまらず、現実世界の機械制御にも活用されることを紹介した。
会場では、Intelの技術を活用した複数のデモも展示された。GMO AI&ロボティクス商事は、Unitree製のヒューマノイドロボット「H2」を披露。清水氏の演武を再現する動きが紹介され、人間の動作をロボットに学習させる技術の可能性を示した。


東京大学の次世代知能科学研究センターは、四足歩行ロボット「MEVIUS2」を展示した。Intelの「Core Ultra Series 3」を活用したデモのひとつで、AIを組み込んだロボットの動作や制御を紹介した。また、Movensysはロボットアームを使ってボードゲーム「モノポリー」をプレイするデモを実施。こちらもCore Ultra Series 3を活用し、AIとロボット制御を組み合わせた事例として披露された。
Preferred Networksは、大規模言語モデル「PLaMo」を使った翻訳デモを紹介した。Core Ultra Series 3上で日本語、中国語、英語の翻訳を行い、クラウドに依存せずPC上で処理するローカルAIの活用例を示した。デモでは、パラメーター数6億1,000万のモデルを使い、最大毎秒147トークンの処理性能を実現したという。AI処理を端末側で実行できれば、応答速度やネットワーク接続への依存度、データの取り扱いなどの面で利点が期待できる。

このほか、Intelの技術を採用したPCや、Intel Arcを搭載する次世代携帯型ゲーミングPCなども展示された。
国内PCメーカー5社が50周年記念モデルを発売

式典に合わせて、日本国内のPCメーカー各社からIntel日本法人の設立50周年を記念したPCも発表された。各モデルはIntel製プロセッサを搭載し、特別デザインのケースや記念グッズなどを用意している。
インバースネットの「FRONTIER インテル 50周年記念モデル」は、10月7日に発売された。販売台数は50台限定で、価格は45万6,800円から。CPUには「Core Ultra 7 270K Plus」、GPUにはNVIDIAの「GeForce RTX 5070」を採用し、メモリーは32GB DDR5、ストレージは1TB NVMe SSDを搭載する。
サードウェーブの「GALLERIA INDC7A-R57-W」も10月7日に発売され、価格は48万9,980円。こちらもCore Ultra 7 270K PlusとGeForce RTX 5070を組み合わせ、32GB DDR5メモリーと1TB NVMe SSDを備える。
マウスコンピューターの「G TUNE FZ-I7G80(インテル株式会社 50周年記念モデル)」は、近日発売予定で、価格は50万円から。Core Ultra 7 270K PlusにGeForce RTX 5080を組み合わせ、32GBメモリーと1TB NVMe SSDを搭載する。
ヤマダデンキ傘下のTSUKUMOからは、「G-GEAR インテル50周年記念モデル(GE7J-M261BH/INTEL50)」が10月下旬に発売される予定だ。販売台数は50台限定で、価格は未発表。Core Ultra 7 270K PlusとGeForce RTX 5070 Tiを採用し、32GB DDR5メモリーと1TB NVMe SSDを備える。
ユニットコムのパソコン工房も、Intel日本法人の設立50周年を記念したコラボレーションゲーミングPCを10月下旬に発売する予定だ。計4モデルを合計50台限定で販売する。最も手頃な構成となる「LEVEL-R789-LC270K-SSX-INTEL[RGB Build]」は、Core Ultra 7 270K PlusとGeForce RTX 5060 Tiを搭載し、メモリーは16GB、ストレージは1TB SSDとなる。価格は未発表だ。
いずれのモデルも、Intel日本法人の設立50周年を記念したデザインを採用し、ピンバッジやステッカー、フィギュアなどの記念グッズを用意する。

今回の式典では、Intelと日本企業が歩んできた50年を振り返るとともに、先端パッケージングやAI、ロボティクス、半導体材料など、今後の協業につながる幅広い技術が紹介された。AIの普及によって半導体の需要が拡大するなか、日本の材料・製造技術や自動化技術は、半導体の性能向上と安定供給の両面で重要性を増している。Intelが日本との関係を次の50年に向けてどのように発展させていくのか、今後の具体的な協業発表にも注目したい。





