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『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』は露のウクライナ侵攻による混沌のなか生まれた。ゲーム開発の舞台裏だけでなく人として大事なことを学べる開発裏ドキュメンタリーが公開

ウクライナを拠点とするゲーム開発スタジオGSC Game Worldは、2024年11月20日に発売予定の『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』のドキュメンタリー 「War Game: The Making of S.T.A.L.K.E.R. 2」 を公開した。

本ドキュメンタリーでは、ロシアによるウクライナ侵略との戦いのなかで、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の開発の舞台裏を知ることができる。

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10年以上延期を繰り返してきた『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』はいよいよ発売間近

まず、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』について簡単におさらいしておきたいと思う。本作は、GSC Game Worldが手がけるFPSサバイバルホラー 「S.T.A.L.K.E.R.」 フランチャイズの最新作。

ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所の事故によって、危険なミュータントやアノマリーが出現するようになった終末世界のチェルノブイリ立入禁止ゾーンを探索。プレイヤーは飢えや喉の渇き、高い放射線量、そして危険な敵たちから自分自身を守りながら、ストーリーを解き明かしていく。

本作の発売は当初2012年とされていたが、一度キャンセルされたのちに2018年に開発が再開。2022年4月28日に新たな発売日が設定されていたが、ロシアによるウクライナ侵攻などさまざまな要因によって、発売日が2024年11月20日 (日本では時差の関係で11月21日) に延期されている。作品としては、Unreal Engine 5による次世代のグラフィックが楽しめるほか、シンプルプレイの他にマルチプレイヤーモードが用意される。対応プラットフォームはPC、Xbox Series X|S。

ドキュメンタリーでは、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』を手がけるGSC Game Worldの誕生にまつわる話と、ロシアのウクライナ侵攻によって開発環境を失ったり、そこから開発拠点を再び立ち上げ、いよいよリリース目前まで漕ぎ着けた一連の流れが描かれている。

そもそもGSC Game Worldは、1995年にウクライナのキーウで設立された開発スタジオだ。スタジオ名にある 「GSC」 は、設立者であるGrygorovych Sergiy Costiantynovych氏の頭文字をとったものだ。

Ievgen Grygorovych氏

その弟であるIevgen Grygorovych氏曰く、設立当時、ウクライナではゲーム業界というものが存在しなかったため、どうやってコンテンツを作っていくのか知りたくてたまらなかったという。ゲーム業界で働くのこと自体がはじめてという人も多いなか、そんな小さな開発チームがそれぞれ画期的なものを作ろうとしていた。

開発当初は、ウクライナやチェルノブイリなどとは程遠く、アステカ人やマヤ人、エイリアンなどが登場するゲームが想定されていたが、前述のSergiy氏がウクライナに紐づいた作品にしたがったという。チェルノブイリ原子力発電所の事故後の様子を開発チームで見にいく機会があり、そこでここを舞台にすべきと考えたのだとか。

チェルノブイリ原子力発電所の事故を題材にすることについては賛否の声もあり、開発チームの中でもたくさんの疑問の声があった。しかし、悲劇はまだ終わったわけではなく、痛みが癒えたわけでもないということで、題材にすることを決めたようだ。

ソビエトの独特の雰囲気にシューティングの要素を融合させたサバイバルホラーということで、通常のFPSシューティングと一線を画すのが 「S.T.A.L.K.E.R. 2」 という作品だ。暗い沼地を歩く際には、湿った足音が聞こえたり、遠くで何かが吠えているような、そんな不気味な印象を抱くかもしれない。

その表現技法は、実際にチェルノブイリの立入禁止エリアを訪れたなかで得た経験が生きたという。チームは何度も立入禁止エリアを訪れ、少しずつ立入禁止エリア全体の感情を表現していき、徐々にカタチにしていったのだとか。

しかし、大きな転機となるのが2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻。それまでもロシアが威嚇してきたり、国境付近で軍事訓練を行うことは珍しくなかったことから、開発チームだけでなくウクライナ全体として楽観的なムードもあったというが、侵攻が間近に迫ってきた頃にはその楽観ムードも緊張感に変わっていったとのこと。

開発チームは、上層部が密かにバスと運転手を手配し、ロシアからの攻撃が逃れられそうなハンガリー国境付近に逃げるプランを立てていた。

スタジオの人員の2/3近くがこのバスに乗って逃げることを決断。しかし、逃げた先にモーションキャプチャーなどの施設もなく、これまで通り開発が進められるわけがなかった。そもそもロシアの侵攻も最初はすぐに終わると思っていたが、戦いが厳しくなるつれて、数日、数週間、数ヶ月続いたらどうしようかと話し合う機会もあったという。

また、戦いの激しい地域に家族を置いてきた人や、戦いが激しさを増している現状が頭をよぎり、ゲームの開発業務に戻れなかったという人も。

そんな厳しい開発環境のなか、開発スタジオはチェコのプラハで事務所を見つけ、開発の再開に漕ぎつけた。声優もゼロからキャストをし直したり、モーションキャプチャースタジオとオーディオ録音スタジオの再構築などから始まったという。

Ievgen Grygorovych氏の妻であるMariia Grygorovych氏

ちなみに、開発スタジオはウクライナ軍の一員として戦闘に参加する従業員に対しては、ゲーム開発に参加していなくても給料を支払ったという。

一方で、本作の販売地域からロシアを外し、ロシア語のローカライズもやめた。これに対しては、ロシア国内のプレイヤーから攻撃的な反応が寄せられ、毎日ハッキングの被害を受けたとのこと。さらに、ゲーム内容に関するインサイダー情報がネット上に投稿されたり、一部の開発スタッフの家が特定され、インターネット上にアップされたりした。開発スタッフの家がロシアの攻撃の標的になりかねない行為であることから、一種の脅しにもなっていたようだ。

そんな、通常のゲーム開発スタジオでは経験もしなさそうな環境で作られた『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』はいよいよ完成が近づいている。

昨年、ドイツのケルンで開催されたゲーム見本市 「gamescom 2023」 に『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』は出展し、試遊台を設置した。結果としては試遊を希望する人たちの順番待ちが最長で5時間にも及んだという。

「gamescom 2023」 では作品全体の品質に対して、賛否両論の声があった。これを受けて発売を延期し、作品のブラッシュアップ等を決断しているが、現時点の発売日は2024年11月20日 (日本では時差の関係で11月21日) と、いよいよ2ヶ月を切っている状態だ。

ちなみに、筆者は先月 「東京ゲームショウ2024」 のビジネスデーを取材してきたが、そこでも試遊台が設置され、「gamescom 2023」 ほどではないもののそこそこの待ち時間ができていた。話題性もある作品であることは間違いないが、過去のフランチャイズ作品のファンにとっては待望の新作ということで、期待しているプレイヤーもやはり多いのだろう。

本ドキュメンタリーは、XboxおよびGSC Game WorldのYouTubeチャンネルにて視聴することが可能。日本語の字幕が用意されているため、英語やウクライナ語の理解が難しい人でも安心だ。『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』に注目している方は本ドキュメンタリーをご覧いただければと思う。

なお、ドキュメンタリー内では戦争における悲惨な光景など、(あまりに残忍なシーンはないが) 思わず目を伏せたくなってしまうシーンが出てくるが、このような環境下で制作された作品であるという事実は、ゲーム史に記録される価値があるだろう。そのため、筆者としては本作に元々興味がなかった方にもぜひこのドキュメンタリーを見ていただきたいと思う。

(画像提供:Microsoft)