
大型テレビのメーカーとして日本でも知られるTCLだが、世界ではエアコンも大きな事業になっている。TCLによると、エアコンの世界輸出量で第2位のシェアを持ち、過去5年間の累計生産台数は約1億台に達する。
2026年に稼働を始めた中国・広州の「TCLエアコン広州インテリジェント製造基地(TCL AC Guangju Intelligent Manufacturing Base)」は、そのエアコン事業を支える新たな生産拠点だ。年間800万台の生産能力を持ち、世界各地に向けてエアコンを供給する。
筆者は7月、TCLが開催したプレスツアーに参加し、この広州工場を訪れた。敷地内には大型の生産ラインが並ぶ一方で、ロボットやAGV(無人搬送車)が部品を運び、カメラやセンサーが生産状況を監視している。さらに工場の奥には、照明をほとんど使わずに稼働する「ダークファクトリー」もあった。
エアコンを大量に作る工場において、なぜここまで自動化が進められているのか。広州工場で見た生産設備やAI、研究開発の現場を紹介したい。
(取材協力:TCL JAPAN)
7秒に1台を生産。センサーとAIが工場を動かす
TCLのエアコン事業は、中国国内だけでなく世界各地に製品を供給するグローバル事業として拡大している。TCLによると、エアコンの世界輸出量で第2位のシェアを持ち、過去5年間だけで約1億台を生産してきた。
広州工場は、その生産規模を支えるために2026年から稼働を始めた新しい拠点だ。年間800万台の生産能力を備え、他の生産拠点と合わせて世界各地で増えているエアコン需要に対応する役割を担う。
主力ラインでは、約7秒に1台のエアコンが完成する。1時間にすると約514台、24時間稼働なら1日で約1万2000台に相当。かなり驚異的なペースだ。
このスピードを支えているのが、工場内に設置された約1万7000個のセンサー。設備や生産ラインの状態をリアルタイムで取得し、そのデータを2000以上のAIエージェントが処理している。TCLによると、AIを組み込んだこの新しい生産システムによって、工場全体の生産効率は従来と比べて40%向上したという。
さらに、工場内には30ペタフロップスの計算能力を持つスーパーコンピューター群を備える。TCLは、この計算能力を約3000台のPlayStation 5に相当すると説明している。集められたデータは、製造ラインだけでなく、部品の在庫やサプライチェーンの進み具合、ラインの稼働率、出荷状況、設備の異常検知などにも使われている。
工場中央の監視エリアには46枚のディスプレイが並び、各工程の状態をリアルタイムで表示していた。部品がどの程度供給されているのか、ラインがどれだけ稼働しているのか、設備に異常が出ていないかといった情報をまとめて確認できる。
部品を運ぶのはAGV(Automated Guided Vehicle=無人搬送車)だ。必要な部品を生産ラインまで自動で運び、決められたルートを走行する。途中に人や障害物が入ると、センサーで周囲の状況を確認し、AIがルートを組み直して走行を続ける。
加工や組み立てには、複数の関節を持つロボットアームが使われている。部品の切断や溶接、プレス、組み立てなどを担当し、完成した部品を次の工程へ送っていく。
製品が完成した後の検査も自動化されていて、高解像度カメラで製品を撮影し、AIが正常な製品のデータと比較することで、小さなヒビや傷、変形などを検出する。基準から外れた製品はラインから取り除かれる。
リモコンの組み立て工程では、印刷されたボタンの文字をOCRで読み取り、文字のズレや欠落をチェック。その後、ロボットがボタンを押し、赤外線が正しく発信されるか、電流値などに異常がないかを確認する。
このように広州工場では、人が目視でひとつずつ確認する工程を減らし、カメラやロボット、AIを組み合わせて製品を連続的に検査している。
敷地内には15の研究ラボがあり、博士号を持つ研究者や物理学者、化学者らが基礎研究、新技術の開発、製品試験などに取り組んでいる。
研究開発の成果は、実際の製品づくりに反映されているという。海外向けの「小藍翼(シャオランイー)」は、睡眠時の利用を想定したエアコンだ。ミリ波レーダーで呼吸や寝返りなどの細かな身体の動きを検知し、その状態に合わせて室温や風量を調整する。英語と中国語による音声操作にも対応する。
業務用の天井カセット型エアコン「天花機」は、運転を始めると中央の円形送風部が下にせり出し、360度に風を送る。特定の座席に冷風が集中しにくいようにするための仕組みだ。
エアコンの性能を確認するための試験設備もそろう。屋外機をマイナス32度の環境で動かす低温試験室や、外部の音や反響を遮断して運転音を測定する防音室があり、研究開発から製品の検証までを工場内で進められる。
新しい技術を研究して製品として試験し、その成果を量産につなげるところまでをひとつの拠点で行っている。世界市場に向けた生産能力と研究開発の機能を合わせ持つことが、広州工場の大きな役割になっている。
明かりを消して24時間稼働する「ダークファクトリー」
工場の中で特に目を引くのが、敷地内にある3つの「ダークファクトリー」だ。見学は日中に行われたため、外の光が工場内に入り込んで明るく見えるものの、内部の照明は安全確認に必要な表示などを除いてほとんど消えている。作業員の姿もほぼ見えない。
ここでは、エアコンの樹脂製部品や熱交換器などを製造している。樹脂部品の製造エリアには10台の大型射出成形機が並ぶ。樹脂の原料を溶かして金型に流し込み、冷却して部品に仕上げる工程だ。室内機のベースや中間フレーム、外側のルーバーなどがここで作られ、完成した部品は自動で組み立てラインへ運ばれる。
材料を加工して部品を作り、完成した部品を運び、次の工程へ渡す。ここまでの流れが自動化されているため、照明をつけて作業員が常時働く必要がない。工場は24時間稼働し、夜間も生産を続ける。
ダークファクトリーを見ていると、広州工場で進められている自動化の範囲がよく分かる。ロボットが人の作業を手伝うというより、材料の加工から搬送までを機械が続けて処理している。
工場の屋根には約5万平方メートルの太陽光パネルも設置されている。年間の発電量は約7GWhに達しており、この電力はTCLが開発したインテリジェントな建物エネルギー管理システムに接続されている。工場の稼働状況や電力需要に応じてAIが電力の使い方や配分を調整し、生産設備だけでなく建物全体のエネルギーも管理する。
製造、部品の搬送、品質検査、在庫管理、出荷、そして電力まで、工場のさまざまな場所からデータを集めて判断に使う。広州工場では、こうした仕組みがひとつにつながっている。
そして、ここで作られたエアコンは世界各地に出荷される。日本市場もそのひとつだ。
TCL JAPAN ELECTRONICSは2026年1月、日本市場向けに開発した「AI節電エアコン」シリーズを発売した。テレビやサウンドバーなどのAV機器を中心に展開してきた同社にとって、エアコンは白物家電のラインアップを広げるための製品でもある。2024年から一部販路で冷蔵庫を販売しており、エアコンはその次の製品として加わった。
本シリーズは「AI節電」機能を搭載し、室内の温度変化を先読みしながらコンプレッサーの運転を調整する。冷やしすぎや過度な除湿、温度ムラを抑えながら運転することで、冷房時の消費電力を最大18.1%削減できるとしている。
日本の住環境に合わせた機能も用意した。室外機はマイナス15度から55度までの外気温に対応。新設計の「優しい風フラップ」は風を広げ、冷気が体に直接当たり続けるのを抑える。上下左右の自動スイングにも対応する。
室温が上がりすぎたり下がりすぎたりした場合に、エアコンが自動で冷房や暖房を動かす「室温パトロール」も搭載する。停止中にボタンを押すと、室内機をマイナス20度まで急冷して氷結洗浄し、その後57度の高温乾燥を行う機能も備える。日本向けモデルでは、基板のコーティングを強化するなど、製造工程にも日本市場を意識した変更を加えているという。
今回、プレスツアーのなかでTCLのエアコン工場を見て驚いたのは、年間800万台という生産規模や、約7秒に1台という生産スピードもそうだが、工場の隅々までAIやIoT、ロボットが入り込んでいたということ。
人がひとつひとつの作業をするのではなく、人が機械やAIを動かし、それぞれの工程を管理していく、そんなものづくりの姿がすでに現実のものになっている光景だ。
その先にあったのが、「ダークファクトリー」。人がほとんど立ち入らないため、照明も必要ない。ロボットが製造を進め、AIが状況を判断し、IoTで設備の状態を監視しながら、24時間365日の生産を続ける。今回見たダークファクトリーは、広州工場が進める自動化の姿を最も分かりやすく示していた。
中国では2025年頃から、こうした「暗黒工場」が本格的に稼働し始めているとされる。かつて「世界の工場」と呼ばれ、大量の人手を生かして製品を作ってきた中国の製造業は、いま大きく姿を変えようとしている。人手を減らして生産するだけでなく、AIやデータを使い、工場そのものを動かす方向へと進んでいる。ある種の「究極形」のひとつとも言えるかもしれない。
