
NVIDIAは、独ハンブルクで開催中のスーパーコンピュータ分野の国際会議「ISC 2026」において、科学技術計算向けの次世代プラットフォーム「Vera Rubin」に関する発表を行った。あわせて、独自開発の「Vera CPU」の詳細や、科学研究向けAIソフトウェア群の拡充も明らかにした。
近年の科学研究では、気候変動予測や創薬、新素材開発、宇宙観測などの分野で扱うデータ量が急増している。従来のシミュレーションだけでなく、AIによる解析や推論を組み合わせる手法も広がりつつあり、研究基盤そのものの刷新が求められている。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、こうした環境を支える「Vera Rubin」について「科学のための新しい計測器」と表現している。
「Vera Rubin」は、新世代の「Rubin GPU」と独自開発の「Vera CPU」を高速インターコネクト「NVLink-C2C」で接続したプラットフォームだ。1ラックあたり最大144基のGPUを搭載可能で、冷却には液冷方式を採用する。科学分野向けAI処理性能は7エクサフロップス、スーパーコンピュータで重要な倍精度浮動小数点演算(FP64)は5ペタフロップスに達する。
「Vera Rubin」には、NVIDIA独自の「Olympus」コアを採用した。LPDDR5メモリと高速オンチップ・ファブリックを組み合わせることで大容量メモリ環境を実現しており、ノードあたりのメモリ容量は従来のx86ベースCPUの約6倍、コアあたりでも4倍以上となる。
ロスアラモス国立研究所(LANL)が実施した評価では、モンテカルロ法を用いた熱伝導シミュレーションソフト「Branson」で従来システムの3倍超の性能を記録したほか、研究支援AIエージェント「URSA」のワークロードでは7倍の性能向上を確認。CPUソケット単体の比較でも、従来のx86ベースCPUを3倍以上上回る性能を示している。
Olympusコアの開発では、研究者と計算機科学者が共同で設計を進める「コードザイン(共同設計)」の考え方が採り入れられた。材料科学や気候解析など、実際の研究現場で使われるワークロードに合わせて最適化されているという。
AI研究支援から波力発電、量子計算まで活用領域を拡大
ハードウェアと並行して、研究者向けソフトウェア群も拡充された。材料科学向けの「NVIDIA ALCHEMI」は、数百万規模の分子や材料候補のシミュレーションをAIで高速化するソフトウェアだ。従来は数週間を要していた安定構造の探索を数日規模へ短縮できるとしている。
また、天文学向けの「cuPhoton」は、南米チリのルービン天文台などが生成する膨大な観測データをリアルタイムで解析するための基盤だ。世界最大級のデジタルカメラから出力されるデータを高速処理し、銀河形成や宇宙構造の研究を支援する。
さらに、CERN(欧州原子核研究機構)などで利用される新しいデータ処理ライブラリ「DAQIRI」も発表された。粒子衝突実験で発生する膨大なセンサーデータから重要な信号をリアルタイムに抽出する技術で、従来は保存容量の制約から破棄されていた99%以上のデータも研究対象として活用できる可能性を持つ。
計算能力の実証例として、欧州初のエクサスケールスーパーコンピュータ「JUPITER」を利用した量子コンピューティング研究が紹介された。研究チームは50量子ビット規模の汎用量子コンピュータをスパコン上で完全シミュレーションすることに成功し、世界記録を更新した。大容量メモリと高性能計算能力を備える「Vera CPU」と「Rubin GPU」の構成が、従来のメモリ容量の制約を超える計算を可能にしたという。
産業用途での成果も報告された。シーメンス・エナジーは100%水素を燃料とするガスタービンの設計にNVIDIAの技術を活用し、シミュレーション時間を77%削減したとしている。
また、AI時代の電力問題に対応する新たな取り組みとして、NVIDIA Inceptionプログラム参加企業のEco Wave Powerによる波力発電プロジェクトも紹介された。防波堤などの既存インフラを利用して波のエネルギーを電力へ変換し、AIデータセンターへ直接供給する構想だ。ロサンゼルス港では波力だけでデータセンターを運用する実証実験が進められており、AIが気象予測から発電量を予測し、電力供給が多い時間帯に計算処理を集中させる仕組みの検証が行われている。
NVIDIAは今回、計算基盤だけでなく、研究支援AI、量子コンピューティング、リアルタイムデータ解析、さらには電力供給まで含めた科学研究のエコシステム全体を提示した格好となる。「Vera Rubin」は、その中心を担う次世代プラットフォームとして位置付けられることになりそうだ。
(画像提供:NVIDIA)
