HPは先月18日、豪シドニーで開催された 「SXSW Sydney 2023」 にあわせて、報道関係者向けの新製品発表会を開催した。
発表会では、Vice President & Head, Personal Systems Category Greater AsiaのKoh Kong Meng氏が登壇し、新製品を紹介するとともに、HPのイノベーションの本質について話した。
なお、発表された製品は既報のとおり、3in1デバイス 「HP Spectre Foldable 17」 と、オールインワンPC 「HP ENVY Move All-in-One 24」 。これらは日本を含むアジア・パシフィック市場 (グレーターアジアを除く) に投入されることが発表されている。
HPのイノベーションを支える3つのポイントとは?
Koh Kong Meng氏は、HPがもっとも大事にしていることとして、ユーザーがより良い生活を送り、より幸せに働き、そしてより大きな夢を持つ手助けをすることであると強調。その上で、現在のHPのイノベーションは3つの主要なトレンドに焦点を当てていると説明する。
まず1つ目が 「柔軟性」 。パンデミックが起きてから数年が経ち、人々の働き方はオフィス中心からハイブリッドなライフスタイルに変化した。この変化を可能にしたのは、過去数年間にわたって行われた技術の発展であると指摘。そして、このハイブリッドな環境には、パソコンが必要不可欠な存在になっていると説明する。
しかし、このハイブリッドなライフスタイルには、ひとつの問題があるという。HPの調査では、ワーカー全体の27%しか仕事とプライベートのバランスをうまく保てていないという結果が出たとのことだ。
また、かつてはオフライン・オンラインの両方を実現するハイブリッドイベントを行うことはできなかったが、それも最近では標準になってきている。これらを踏まえて、HPは “柔軟性” のあるイノベーションを実現していきたいと語る。
2つ目が 「AI」 について。HPは、AIテクノロジーを肯定的に捉えており、PCを個人用コンピュータから個人用コンパニオンへと進化させていく未来を見据えているという。
Koh氏は、「私たちのような年長の方は、AIと聞くと『2001年宇宙の旅』のような映画を思い起こさせるかもしれません。その映画には “ハル” というAIが登場しますが、そんなAIが登場する映画を40年前に誰が作れると想像したでしょうか。そして、今日あの映画に出てきたAIのように、コンピューターと自然な言語で会話できるようになると誰が想像したでしょうか。」 と話し、PCのできることが根本的に変える、と考えているという。
また、単なる仕事や勉強などのツールとして使うのではなく、それが日常生活とより深く統合されるようになるとする。これが個人用コンパニオンの本質で、PCが情報を収集し分析し、ユーザーがオンラインで検索していること、メールで話題になっているトピックに基づいてコンテンツを作成できるようになる未来を描く。
しかし、AIにはいくつかの課題があると指摘する。第一にAIのサービスは動作が遅い (ChatGPTなどは回答を作成するまでの時間が遅いという意味) ということ、そしてコストがかかるということだ。
今日我々が利用しているサービスの多くはお金を払っていないものが多い。たとえば、ブラウザの検索などがそれにあたるが、代わりにユーザーはデータを金銭の代わりに提供している。つまりプラットフォーマーなどの事業者はユーザーのデータを商品化していることになる。
これはHPが焦点を当てる3つ目のことに関係することだが、もしPCがAI機能を提供する場合、AIが処理するデータはローカルで保存されるべきだと指摘する。クラウドにデータを置くのではなく、ローカルでデータを保有することを多くの企業は望むはずだとする。
3つ目は 「信頼性」 について。HPは “信頼性” を広義に捉えており、製品やサービスの信頼性だけではなく、持続可能性や多様性も含めた信頼を重要視しているという。そして、野望としては 「世界で最も公正で持続可能なテクノロジー企業になること」 だとする。
HPは、昨年出荷した家庭/オフィス向けプリンターやノートPC、さらにはディスプレイやワークステーションの95%以上にリサイクル材料を使用することを実現しているが、それはサステナブルのひとつの側面に過ぎないとKoh氏は話し、今後さらなる行動を起こしていくとした。さらに多様性についても、すべてのジェンダーやバックグラウンドからの才能を引き寄せ、次のレベルのイノベーションを推進していきたいと話した。
柔軟性、AI、信頼性。これら3つのフォーカスポイントを組み合わせることで、HPはさらに野心的で意義のある進化を促すことができるだろうとし、HPがもっとも大事にしていることとして挙げた 「ユーザーがより良い生活を送り」 「より幸せに働き」、そして 「より大きな夢を持つ手助けをする」 ことに繋がると、Koh氏は語っている。
Koh氏のプレゼンテーションのあとには、今回HPが投入する新製品について、Consumer Notebook Category ManagerのSash Vrgleski氏が詳しく紹介した。
「HP Spectre Foldable 17」 は、ノートPC・タブレット・デスクトップの3つのフォームファクターにシームレスに切り替えて使うことができる3in1 デバイス。同製品について、Koh氏は世界で最も薄くて小さい17インチの折りたたみPCと話す。実際のところ、折りたたみできる17インチPCは世界でもほとんどないため世界一を取ること自体は簡単ではあるものの、ユーザーのそのとき望む形で常に作業できるというかなり野心的な特徴を持っていることもあり、発表後日本でも一部ユーザーを中心に話題になっており、PC界ではそれなりに注目度の高い製品となっている。
もうひとつユニークな製品として、「HP ENVY Move All-in-One 24」 が発表されている。本体にハンドルが付属したユニークなデザインを採用した液晶ディスプレイ一体型 (AIO) PC。ハンドルと内蔵バッテリーにより、容易に持ち運び、どこでも作業ができるのが特長だ。
ユースケースとして、例えばオンラインのヨガのセッションに使うため、この製品を持ち運ぶことができると紹介した。また、キッチンで何かを料理したり、料理の作り方をYouTube動画を見る際なども。これらの作業はスマートフォンでもできるが、大きな画面が欲しくなった時には有効だとアピールする。
また、同じく会場にいた韓国メディアを意識してか、韓国で空前のキャンプブームが起きていることについて触れ、「もしあなたがキャンプに行くなら、これを持って行ってください。映画を見たり、何かをするためにこの製品を使うことができます。もう小さなスクリーンを共有する必要はありません。」 とアピールしていた。
なお、今回HPは豪シドニーで行われた 「SXSW Sydney 2023」 でブースを構え、新製品を展示した。ブースは、協賛のIntelと同じくらい大きなものになっていて、同社の製品を印象的にアピールできていたように感じられた。
ブースには、「Spectre Foldable 17」 「ENVY Move All-in-One 24」 のほかに、オフィス向けのプリンター 「HP OfficeJet Pro 9130e」 シリーズが展示されていた。
さらには、HPの 「OMEN」 ブランドからゲーミングPCやディスプレイ、当サイトでも何度か取り上げているゲーミングギアブランド 「HyperX」 の製品も多数展示。各製品を組み合わせた、実際の使用シーンをイメージがしやすい展示になっていたのがグッドだった。
また、屋内の展示のほか、屋外には鏡面仕上げの独自展示施設が目立つかたちで設けられており、ここでも手に取って新製品を試すことができた。
「SXSW (South by South West)」 は、もともと米テキサス州オースティンで毎年3月に開催されている複合メディアフェスティバル。主に、映画/音楽業界/クリエイターやそれらのファンが集い、各分野の最新トレンドや技術を発表する場として活用されてきたが、オースティン以外の地で開催されるのは今回がはじめて。
テクノロジー業界のリーダーたちが集まる同イベントを、(グレーターアジアを除く)アジア地域に投入する新製品の発表の場としてHPは選んだようだ。
コロナパンデミックが落ち着き、地政学的混乱や急速なインフレ進行による景気後退懸念などで、PC出荷台数はグローバルで下落するなどベンダーにとっては厳しい環境が続いているが、その一方でHPのKoh氏は 「PCの需要はパンデミック前に比べて大きく伸びている」 と話す。
実際、HPの出荷台数はすでに回復の兆しを見せている可能性がある。2023年第3四半期におけるPCの出荷台数 (速報値) で、HPはグローバルシェア上位5社のうち唯一、前年同期比で増加に転じている (参考情報/HP:+6.4%増、Lenovo:-5.0%、Dell Technology:-14.3%、Apple:-23.1%、ASUS:-10.7%、PC市場全体は-7.6%/IDC調べ)。
さらに、デバイスの更新サイクルと、今後訪れるWindows 10のサポート終了に伴う買い替え需要などの “追い風” によって、2023年後半以降は売上が増えていくとも予測されており、PC市場は再び拡大に転じる可能性がある。当然HPもその恩恵を受けるだろう。
Koh氏のプレゼンテーションでも触れられていたように、成長のキートレンドになるのはやはりハイブリッドワークと生成AI用途。さらに、AI対応PCが利用者のプライバシーや各企業の秘匿情報を守ることができる能力を示すことも大事になる。
そう考えると、今回の 「SXSW」 の展示内容は、HPの “攻めの姿勢” が随所に表れていたのではないかと改めて感じる。また、同イベントに対して日本だけでなく韓国やインドネシア、フィリピン、ニュージーランドなど様々な地域から複数媒体を招待していたところを見る限り、これらの地域における認知度向上にかなり力を注いでいるようにも感じられた。復調に転じるPC市場を見据えて、HPはより存在感を示していきたいのかもしれない。
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・HP Spectre Foldable 17
・HP ENVY Move All-in-One 24