
Appleは7月14日に開催された「SoftBank World 2026」に、ダイヤモンドパートナーとして初めて公式参加し、ブース出展を行った。会場では、AI時代におけるApple製品・サービスの活用方法が紹介され、Macを中心とした業務環境の可能性が示された。
Appleが「SoftBank World」に公式参加したのは今回が初めて。これまでコンシューマー向けの印象が強かったAppleが、多くのビジネスリーダーやIT部門の意思決定者が集まる場で、法人向けのメッセージを前面に押し出したことは特に印象的だった。
Appleがこの場に参加したのは、自社のテクノロジーが「人の力を引き出すテクノロジー」であることを、ビジネスリーダーやIT部門の意思決定者に直接伝えるためだという。AIがビジネスに大きな変革をもたらす中で、AppleはMacをはじめとする自社製品がAI活用を支える基盤になり得ることを示し、「AI時代におけるビジネスプラットフォーム」としての価値を広く知ってもらう狙いがあった。
筆者は、今回のAppleブースを取材し、展示内容やデモンストレーション、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の導入事例を通じて見えてきた、Appleの法人向け戦略についてレポートしたい。
Excel操作やiPhoneとのデバイス連携、オンデバイスAIのデモを通じて業務におけるMacの魅力をアピール
Appleが「SoftBank World」の会場で特に力を入れていたのは、「AI時代におけるビジネスプラットフォーム」としての価値を伝えることだった。展示では、Appleシリコンを搭載したMacを中心に、AIワークフローを支える高い基本性能、Apple IntelligenceによるオンデバイスでのAI活用、そしてiPhoneとMacの連携による業務効率化が紹介された。
ブースデザインは、2026年5月に開催された「EDIX(教育総合展)東京」と同様、Apple Storeを思わせる落ち着いたデザインになっていた。1日限りの特設ブースながら、来場者が実際に製品に触れながら体験できる展示が多く用意されていた。
会場では、MacBook Airのファンレス設計やスリープからの高速復帰、10万行規模のExcelファイルを軽快に扱うデモなどが実施。主に日常業務での使いやすさを伝える内容で、Appleが法人市場で重視しているポイントが伝わる展示だった。
また、iPhoneのカメラで認識した手書きメモの内容をテキストとしてMacにペーストする連携機能や、iPhoneで撮影した領収書の写真をMacに保存する機能など、Apple製品同士の連携も紹介された。PCとスマートフォンを一つの作業環境として扱える点が特徴的で、日常業務の効率化を意識した展示内容だった。
生成AI機能「Apple Intelligence」のデモも行われた。35分の音声データをわずか10秒ほどでオンデバイスで文字起こし・要約する様子が披露され、クラウドにデータを送らずに処理できる点や、プライバシーへの配慮が強調されていた。
企業にとって、AI活用と情報管理をどう両立させるかは大きな課題だ。Appleは展示の中で、Apple Intelligenceがデータをクラウドに送らず、デバイス上で処理できる点を強調していた。
「Windows PCより安価もしくは同等コストで導入可能」FFGのMac導入事例が紹介
ブース内では、Apple製品を導入している企業によるラウンドテーブルも開催された。筆者が参加したセッションには、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)DX推進本部 副本部長の根上竜也氏が登壇し、FFGがMacを導入した背景や、DX推進におけるMacの位置づけについて語った。
FFGは、福岡銀行や熊本銀行、デジタルバンクの「みんなの銀行」などを擁する地方銀行グループ。根上氏によると、Macを導入した背景には、エンジニアが働きやすい開発環境を整えること、iPhone向けアプリを自社で開発すること、そして金融機関として必要なセキュリティと管理体制を確保する狙いがあったという。
中でも、エンジニア採用におけるMacの存在感は大きかったようだ。根上氏によると、100名以上のエンジニアと面接する中で、「開発環境はどうなっているのか」「Macは使えるのか」といった質問を受けることが多かったという。特に優秀なエンジニアほど、普段からMacを使い慣れているケースが多く、同じ環境で働けることが採用時の魅力になるだけでなく、入社後の生産性向上にもつながると考えたそうだ。
FFGでは、iPhone向けのネイティブアプリを内製で開発している。iOSアプリの開発にはMac環境が必要になるため、Mac導入は事業戦略と密接に関わる選択でもあった。セキュリティ面では、MDMの「Jamf」や通信制御の「Netskope」を組み合わせることで、金融機関として求められる安全性を確保できると判断したという。
導入効果は数字にも表れている。FFGでは、Macのキッティング(初期設定)時間がWindows端末と比べて約40%削減。 大規模な組織ではPC本体の価格だけでなく、設定や配布、アップデート、回収にかかる人件費も無視できない。初期設定の時間を4割も短縮できることで、IT部門の運用負荷を大きく下げる効果がある。
コスト面の話も興味深かった。一般的には「Macは高い」という印象を持たれがちだが、FFGではメモリ24GB以上といった一定の性能条件でWindows PCと比較した場合、Macの方が安価、あるいは同程度の価格に収まるケースもあるという。円安や部品価格の上昇でPC全体の価格が上がる中、本体価格だけで「Macは高い」と判断するのは難しくなっている。FFGでは、PC本体の価格に加えて、管理コストや耐用年数を含めた総保有コスト(TCO)で比較しているという。
現在、DX部門を中心にエンジニアの約8割がMacを使用しており、開発効率の向上につながっている。さらに、Mac Studioを活用したローカルLLMの検証も進めており、閉じた環境で安全かつ低コストにAIを活用する方法を模索している。
こうしたFFGの取り組みは、Appleがブースで伝えていた「AIを安全に業務へ取り入れる」という考え方と重なる部分が多い。Macの基本性能やApple Intelligenceのオンデバイス処理だけでなく、実際にMacを業務で活用している企業の話を聞くことで、Appleが提案する働き方をより具体的にイメージすることができた。
また、今回のラウンドテーブルに参加して、FFGのような金融機関がMacを積極的に導入していることに少し驚かされた。というのも、筆者は以前に金融業に携わっていた経験があり、金融業界では社内システムの変更や新しいデバイスの導入に慎重な場面が少なくないからだ。
そのような業界でMacへの移行を進めたことは、金融業界ではやや大胆な取り組みだったかもしれない。しかし、システム開発者の視点で見ればMac環境が適していたこと、そしてセキュリティ面でも運用できるという判断があったことが、導入を後押しした大きな要因だったのだろう。
今回の展示を通じて、AppleがMacをクリエイター向けのPCとしてだけでなく、AIを活用するための仕事道具として企業に提案しようとしていることが伝わってきた。さらに、Macの基本性能、Apple Intelligenceのオンデバイス処理、iPhoneとの連携を組み合わせることで、Apple製品・サービス全体を「AI時代におけるビジネスプラットフォーム」として位置づけようとしていることも明確だった。
Appleの「SoftBank World」への初めての公式参加は、そうした法人向けの姿勢を示す場だったと言えそうだ。FFGのような事例が今後増えるかどうかはまだ分からないが、AI活用とセキュリティの両立が求められる中で、Appleの提案が企業にどのように受け止められていくのか注目したい。
