
アドビは7月6日、企業向けの生成AIソリューションとして、「Adobe Firefly Graph エンタープライズ版」と「Adobe Firefly Creative Production エンタープライズ版」を発表した。
あわせて、ブランドの知識をAIに学習させる「Adobe Brand Intelligence」を強化し、コンテンツ公開前に顧客の反応を予測するシミュレート機能を追加した。
「Firefly Graph」で制作工程をワークフロー化。熟練クリエイターのノウハウを組織で共有
アドビは、コンテンツ需要が急増するなか、制作工程そのものをAIと組み合わせて効率化し、ブランド品質を維持したまま大量のコンテンツを展開できる環境を整える。AIがクリエイターを置き換えるのではなく、人が企画や創造的な判断を担い、AIが制作や検証などの反復作業を支援する役割分担を目指している。
今回発表された製品群は、生成AIで画像を生成するだけではなく、企業のクリエイティブ制作全体を支える基盤として位置付けられる。
背景には、デジタルマーケティングの拡大によって制作するコンテンツが急増していることがある。アドビによると、コンテンツ需要は2024年からの2年間で約5倍に拡大した。一方、著作権や情報漏えいへの不安から、日本企業で社外向けコンテンツに生成AIを活用している割合は約2割にとどまっているという。
こうした課題に対応するのが「Adobe Firefly Graph エンタープライズ版」だ。Creative Cloud エンタープライズ版 エディション5で提供される新機能で、PhotoshopやIllustratorなどの編集機能と、Fireflyをはじめとする生成AIの処理をノード形式で視覚的につなぎ、一連の制作工程をワークフローとして構築できる。
300種類以上のマルチモーダルなノードを組み合わせ、画像生成や編集、動画化までを一つの流れとして設計できるほか、作成したワークフローは保存・共有が可能だ。熟練クリエイターが培った制作手順や判断基準を組織全体で再利用できるため、担当者が変わっても品質を維持しやすくなる。
ワークフローは「カプセル化(サブグラフ)」にも対応する。複雑な制作工程を一つの部品としてまとめ、ブランド独自の背景生成や色補正などをパッケージ化できる。ほかの担当者は素材を差し替えるだけで同じ工程を実行でき、個人の経験に依存しがちなノウハウを組織の資産として蓄積できる。
一方、「Adobe Firefly Creative Production エンタープライズ版」は、大量のコンテンツ制作を自動化する新製品だ。
搭載する「Workflow Builder」は、Fireflyだけでなく、GoogleやOpenAIなどパートナー企業の生成AIモデルも一つのワークフロー内で利用できる。企業はアドビとの契約だけで複数のAIモデルを利用でき、AIごとに個別契約を結ぶ必要はない。管理者は専用コンソールから利用するAIモデルやユーザー権限を一元管理できる。
用途に応じてAIモデルを使い分けられることも特徴だ。商用利用を前提とした画像生成にはFireflyを利用し、文章生成や特定の処理では外部AIを組み合わせるといった運用を想定している。一つの商品画像からSNSごとのサイズ違いや多言語版など数千点規模のコンテンツを自動生成することも可能だ。
このほか、PhotoshopやIllustrator、Premiere Pro、Adobe Expressなどを横断して自然言語で操作を支援する「Firefly AIアシスタント(ベータ版)」も提供する。画像編集やレイアウト変更など複数の作業をAIが代行し、クリエイターの制作を支援する。
「Brand Intelligence」がブランドの暗黙知を学習。公開前の反応予測にも対応
ブランド管理を担う「Adobe Brand Intelligence」も機能を強化した。ロゴや配色などのブランドガイドラインだけでなく、「自社らしい表現」や「何となくらしくない」といった担当者の経験や感覚まで学習し、ブランド独自の知識としてAIが判断できるようにする。
導入時にはブランドオントロジーと呼ばれる知識ベースを構築し、過去の制作物やレビュー結果なども学習対象とする。設計から運用まではアドビのFDE(Forward Deployed Engineer)が企業ごとに支援し、運用後も人がAIの判断結果を確認して学習を重ねる「Human in the Loop」の仕組みで精度を高めていく。
新たに追加されたシミュレート機能では、実際の顧客データや市場データを基に生成した「合成オーディエンス」を使い、広告やクリエイティブを公開する前に反応を予測できる。年齢や性別だけでなく、年収や居住地、趣味、心理的特性まで反映した仮想ターゲットを用意し、フォーカスグループ調査のような検証をAI上で実施する。
結果は好感度などの数値だけではなく、「なぜその表現を評価したのか」「どこに違和感を覚えたのか」といったコメントも提示。実際のABテストを行う前に改善点を把握できるため、顧客離脱のリスクを抑えながらクリエイティブを検証できるという。アドビは、実際のユーザー調査と比較してもほぼ差のない結果が得られているとしている。
アドビは、企画立案やブランド戦略、最終的なクリエイティブの判断は人が担い、AIはワークフローの実行や大量のコンテンツ展開、ブランドチェック、市場反応の予測などを支援する役割を想定する。生成AIを制作現場の一機能として利用する段階から、企業全体のクリエイティブワークフローを支える基盤へと発展させる考えだ。
