アドビのAI時代の新マーケティング基盤『Adobe CX Enterprise』とは。LLM時代の顧客接点を再設計、「AX」推進も提唱

アドビ アジア太平洋地域マネージング・ディレクター兼デジタルエクスペリエンス部門責任者 Ben Goodman氏

生成AIの普及によって、企業と顧客の接点は大きく変わりつつある。これまで製品やサービスを調べる際には検索エンジンや企業のWebサイトが入口となっていたが、近年はChatGPTやGemini、Claudeといった大規模言語モデル(LLM)に質問し、その回答をもとに意思決定を行うケースが増えている。

こうした変化によって、企業には人間だけでなくAIにも理解されやすい形で情報を届けることが求められるようになった。アドビは、AIエージェントが顧客との新たな接点になるとの見方を示し、マーケティングや顧客体験のあり方そのものを再設計する必要があると説明する。

同社は、米ラスベガスで開催した年次カンファレンス「Adobe Summit 2026」の発表内容と、日本市場におけるエンタープライズ事業戦略に関する記者説明会を開催した。説明会では、その中心となる新プラットフォーム「Adobe CX Enterprise」の構想に加え、日本企業に求められる「AX(AI Transformation)」についても語られた。

スポンサーリンク

AIに選ばれる企業へーー。アドビが「Adobe CX Enterprise」を発表

今回の説明会でアドビが強調したのは、生成AIによってブランドとの出会い方そのものが変わり始めているという点だ。これまで企業は、検索エンジン対策や自社サイトの改善を通じて顧客との接点を構築してきた。しかし現在では、消費者が企業の公式サイトを訪れる前にLLMを通じてブランドや製品について情報収集する場面が増えている。

こうした変化に対応するため、企業は人間だけでなくAIエージェントにも理解されやすい形で情報を提供することが求められるようになる。アドビは、検索エンジン最適化(SEO)に加え、LLMに対する最適化(LLMO)の重要性が高まるとの見方を示した。あわせて、検索エンジンやLLM上で自社ブランドがどのように認識され、語られているのかを分析する仕組みも重要になるとしている。

こうした環境変化を受けて発表されたのが「Adobe CX Enterprise」だ。「Adobe Experience Cloud」を発展させたエンタープライズ向けプラットフォームであり、アドビはこれを「マーケティングのオペレーティングシステム(OS)」として位置付ける。

Adobe CX Enterpriseは、大きく3つの領域で構成される。1つ目は、LLMやAIエージェント経由でのブランド認知を最適化する「Brand Visibility」。2つ目は、顧客ごとに最適な体験を提供する「Customer Engagement」。3つ目は、生成AIを活用しながら大量のコンテンツ制作とブランド品質の維持を両立する「Content Supply Chain」だ。ブランド認知からコンテンツ制作、顧客との継続的な関係構築までを統合的に管理し、AI時代のマーケティング基盤として機能することを目指している。

Adobe CX Enterpriseでは、AIが継続的に改善を行う「フライホイール型」の運用モデルも提唱している。

まず顧客行動やLLM上のデータを分析してインサイトを得る「Sense(感知)」、続いてブランドルールに基づいたコンテンツを生成する「Generate(生成)」、最適なチャネルへ配信する「Reach(到達)」、そして結果を分析して次の施策へ反映する「Optimization(最適化)」という循環を繰り返す。

この仕組みを支えるのが「Adobe CX Enterprise Coworker」だ。ユーザーは自然言語で目的を伝えるだけでよく、システム側が必要なAIエージェントを呼び出し、分析や施策立案、ワークフロー構築などを支援する。最終的な承認は人間が行うものの、AIが日常的なマーケティング業務を補助することで、生産性向上につなげる考えだ。

また、EC分野では商品情報とブランド情報を理解したAIエージェントが顧客ごとに最適な提案を行う仕組みや、市場環境の変化を検知してキャンペーンの調整案を自動作成する仕組みなども紹介された。

説明会では、生成AI時代におけるブランド管理の重要性についても多くの時間が割かれた。コンテンツ需要が増え続けるなか、単純に生成AIを活用するだけではブランドごとの個性や一貫性が失われる可能性がある。

アドビはこれに対し、「Brand Intelligence」の考え方を提示する。過去のクリエイティブ制作物やブランドガイドライン、ロゴ利用ルール、トーン&マナーなどをAIに学習させることで、その企業らしい表現を維持しながらコンテンツを生成できるようにするという。

さらに、企業独自のデータを活用したカスタムモデルの構築にも対応する。製造業向けの事例としては、NVIDIAとの連携も紹介された。3D CADデータを活用して製品を正確にレンダリングし、背景のみを生成AIで制作することで、高品質なマーケティング素材を効率的に量産できるという。

スポンサーリンク

アドビが語る日本企業に必要な「AX」

アドビ株式会社 チーフ トランスフォーメーション オフィサー 専務執行役員 松山 敏夫氏

説明会では、日本企業が抱える課題についても言及された。アドビは、日本企業の多くがDXに取り組んでいるものの、インフラ整備やシステム導入に留まり、事業成長やビジネスモデル変革まで十分につながっていないと指摘する。

AI活用についても、米国や中国ではAI導入によって期待以上の成果を上げている企業の割合が30〜40%に達している一方、日本では約10%にとどまっているという。経営層の関心は高いものの、実際の投資や運用、組織変革まで踏み込めていない企業が多いと分析した。

また、日本の広告宣伝費は約8兆円規模に達しており、そのうち4兆円以上がインターネット広告に投じられている。しかし、配信手法の多くは従来のマス広告型から大きく変わっておらず、顧客ごとに最適化された体験の提供という点では改善の余地が大きいと説明した。

こうした状況を踏まえ、同社はDXの先にある「AX(AI Transformation)」の推進を掲げる。コスト削減だけでなく、顧客ロイヤリティ向上や売上拡大、新たな価値創出につながるAI活用を支援する考えだ。あわせて、グローバル企業の成功事例や実践ノウハウを共有し、日本企業の変革を後押ししていくとしている。

アドビが今回示したのは、生成AIによる業務効率化の先にあるマーケティングの将来像だ。

これまで企業は検索エンジンや自社サイトを通じて顧客との接点を築いてきた。しかし今後は、ChatGPTやGeminiなどのLLMがブランド情報を整理し、消費者へ伝える役割を担う場面が増えていく可能性がある。

そうした変化のなかで重要になるのが、AIに正しく理解されるブランドづくりと、AIを活用した顧客体験の最適化だ。アドビは、その実現に向けた基盤としてAdobe CX Enterpriseを位置付ける。

説明会では、日本企業のAI活用が海外に比べて遅れている現状にも触れられた。アドビはDXの先にある「AX」を掲げ、単なる業務効率化ではなく、企業の成長や競争力向上につながる変革を支援していく考えだ。

AIが顧客との最初の接点になる時代が本格化すれば、企業が向き合う相手は人間だけではなくなる。今回アドビが示した戦略は、そうした変化に向けてマーケティングのあり方そのものを再設計しようとする試みだといえそうだ。

関連リンク

Adobe取材
FOLLOW US
タイトルとURLをコピーしました