高品質・高機能なPCで、ユーザーから根強い人気をもつVAIO。設計から製造、サポートに至るまですべてを自社で行う、数少ない国内PCメーカーとして知られている。
2014年のソニーからの独立を機に、主に法人需要に応える製品開発にシフトしたが、最近は定番を目指した新たなノートPC 「VAIO F16」 「VAIO F14」 を今年3月に発表し、6月には最新ハイエンドモデルにあたる 「VAIO SX12」 「VAIO SX14」 を発表するなど、個人向けPCのラインナップにも力を入れる。
また、今年8月には認定整備済PC事業を開始。さらに今後はグローバル展開の本格化も視野に、VAIOは次のステップへと進もうとしている。
そんな好調さも感じられるVAIOだが、今年の夏、筆者は長野県安曇野市にあるVAIOの本社工場を訪問。VAIOのPCがどのように製造されているのか間近で見て、VAIOの品質に対するこだわりや、製造の裏側について知ることができた。
今回のレポートでは、工場見学で得た情報をもとにVAIOのPCがどのように製造されているのか、詳しく紹介したいと思う。
VAIOの安曇野工場の見学レポート
まず初めに見学させてもらったのが、PCから出ている電波を調べることができる 「EMCサイト」 と呼ばれる設備がある建屋だ。
昨今のPCにはWi-Fiや5G、Bluetoothなど多くの無線機能が搭載されており、ユーザーは快適なデータ通信によって効率的に作業できるようになった。その一方で、特定の電子機器の電波が強すぎると他の電子機器の動作を阻害してしまうことがある。
世界各国で定められている電波の法規制の基準をクリアしているかどうかを設計段階で検証するのがこのEMCサイトだ。
EMCサイトでは、不要な電波が規定以上出ていないかをチェックする 「EMC試験」 や、Wi-Fiや5Gの性能をチェックする 「無線性能試験」 、そして静電気の放電によりPCが誤動作しないかをチェックする 「ESD試験」 などが実施されている。
ここは 「EMC試験」 をするための部屋で、中央の360°回転するテーブルの上にPCをのせ、大きなアンテナのような装置を使ってPCから出ている不要な電波を測定する。測定時にはマウスやヘッドセット、モニターなどの周辺機器をあえてPCに接続して、不要な電波がもっとも出やすい状態にしているという。
壁一面に配置されているのは電波吸収体と呼ばれるもので、PCから出た電波が壁に反射して余分なデータとして測定されるのを防ぐ。表面の白い板を外すと、中には黒いスポンジのようなものが入っていて、この部分で電波を吸収する。
測定を開始すると、ターンテーブルがぐるぐると回りだすと同時にアンテナが上下に動き出し、電波を測定する。電波には水平と垂直の2種類があるため、アンテナが横向きの状態と縦向きの状態で2回測定しているようだ。
測定したデータは部屋の外にあるモニターに表示される。上記は測定結果の参考例で、基準となっている赤のラインよりも低い結果になっていればOKということになる。最近はノウハウの蓄積により、設計段階の3Dデータを活用することにより不要な電波が出やすい部分が分かり、事前に対策をして試作段階に入ることができているという。
次は 「無線性能試験」 の部屋へ。この部屋では5GやLTE、Wi-Fiの送信出力と受信感度や、アンテナゲインを測定できる。この部屋に関係する装置がかなり高価で、この部屋1つで数億円規模の金額がかかっているという。
中央にある台がPCを設置する場所で、台の周囲にあるオレンジ色の輪っかが電波を測定するセンサー。PCを設置した台が180°回転し、オレンジのセンサーで電波強度などを測定する。
部屋の外には5GやLTE、Wi-Fiの基地局を模した装置が置かれており、それぞれの基地局と通信しているリアルな環境で測定を実施しているとのことだった。
静電気の放電による影響をチェックする 「ESD試験」 も少しだけ見せてもらった。PC本体はもちろん、端子の部分などに装置を当てて静電気を流し、PCが誤動作しないかをチェックしているとのことだった。
次に見学したのが 「環境試験室」 。製品の試作の段階で過酷な使用シーンを想定した試験を複数実施し、壊れやすそうな箇所を設計にフィードバックする役割を担っている。
たとえばこの部屋は、温度や湿度を設定して一定に保つことができる 「チャンバー」 と言うもの。日本の夏のような高温多湿な環境や、真夏に屋外に駐車してある車の車内、マイナス20℃の寒冷地のような過酷な環境下などでも正常な状態のまま製品を置いておくことができるかを検証している。
部屋には出窓のようなものも用意されており、実際に品質保証担当のスタッフが手を入れてキーボードを触ってフィーリングなどを確かめるということも実施しているとのことだった。
上記は落下試験のための装置。製品を特定の高さまで持ち上げて、鉄製のプレートに落下させる。本体を平らにした状態で落下させたり、角から落下させたりと様々な角度で落下させて耐久性をチェックする。落下によって傷や塗装のめくれはどうしても発生するものの、主に本来の機能を損なうことがないかを重視して検証しているとのことだ。
VAIOのこだわりとして、ハイエンド製品はアメリカ国防総省が制定したMIL規格(122cm)を5cm上回る127cmからの落下試験を実施しており、ユーザーがより一層安心して使えるように配慮している。
上記は、PCを片手持ちした状態でデスクなどに置く動きを想定した落下試験のための装置。手作りで作った装置ということで、世界にひとつしか存在しない、VAIOの完全オリジナルの装置だ。
日頃からこの動作をしている人も多いとは思うが、実は基盤にもストレスがかかっており、内部のコネクター外れや部品破損などが発生しないかを確認できる。
本体の四隅のそれぞれに5,000回ずつ、合計2万回の落下試験を実施し、不具合が生じていないかをチェック。こういった動作にも耐えられる設計を実現した。
こちらは埃試験を実施するための、自社開発した埃を浮遊させる装置。こちらもVAIO独自の装置だ。この装置では1年分の埃を想定し、VAIOが独自にブレンドした埃をPC本体に吸い込ませることができる。
PCには内部のCPUなどから発生した熱を冷ますために吸気口と排気口が設けられているが、内部に埃が溜まると排気ができなくなっていき、どんどんCPU性能が落ちてしまう。この装置の中にPCを入れて動作させたときに内部に埃が溜まっていなければ、きちんと排気できているというわけだ。
このほかにも、電車の振動でカバンの中にPCと一緒に入れている持ち物がぶつかり合うことを想定した振動試験や、満員電車で押しつぶされることを想定し、150kgfもの圧力を加える試験なども見せてもらった。
実際の故障例から壊れる環境を徹底的に調べ、そしてそれを試験によって再現して最終的に問題が出ないかをチェックする。このこだわりが、VAIOの信頼できるPCづくりに役立っていることがよく分かる場所だった。
環境試験室の次は、実際の製品を作る生産ラインへ。生産ラインの基本的な流れとしては、基板に細かい電子部品を実装して、各部品を接着加工し、その後注文通りの仕様に組み立てていく。組み立てが完了したら検査を実施し、検査をクリアした製品だけが梱包されて出荷される。
まずは基板実装の工程から。今回は電源ボタンと指紋センサーの部品をはんだ付けする一連の流れを見学することができた。
フレキシブル基板と呼ばれる柔らかい基板を専用の金属キャリアに固定したものがラインに投入され、クリームはんだが印刷される。そして電子部品を搭載した後に、はんだを溶かすために金属キャリアごと大型の加熱炉で温められ、最後に冷却されて完成だ。
見た目は最初の段階から大きく変わってはいないが、この状態が完成形であり、PC本体に組み込まれていくことになる。
次は外装部品の接着工程へ。VAIOでは部品の接着には両面テープではなく、硬化が進むと固くなる特性を持った接着剤を使用している。
接着剤は両面テープに比べて塗布する位置や量の調整が重要で、さらに養生工程が発生することで時間もかかるのだが、その分部品を強力に接着できる。127cmの落下試験も、外装の接着を強固にすることで耐えられるというわけだ。
ここでは液晶ディスプレイのハウジング (天板) を接着中。接着前にはハウジング部分にVAIOロゴが貼り付けられる
上記は機械を使ってハウジングに接着剤を塗布している様子。正しい位置に一定の量の接着剤を塗布していく。
接着剤を塗布したあとは、組み立てに必要なメカ構造をもったモールド部品やオーナメントを接着し、接着剤が完全に固まるまでしばらく置いておく。
接着工程が完了した部品は、いよいよ組み立ての工程に入る。VAIOのPCは完全受注生産を採用しており、お客さんが注文した仕様でPCを組み立てていくため、生産ラインには異なる仕様のPCがどんどん流れていく。
各PCにはバーコードで注文情報が紐づけられており、読み取ることで組み立ての各工程でアシストを受けることができる。たとえばSSDを組み込む工程では、バーコードを読み込むことで組み込まなければならないSSDが入った棚のランプが光り、そこから部品を取るだけで正しいSSDを搭載できる。
また、生産ラインには現在の状況を一目で確認できる便利な可視化ツールも導入されている。上記はデモ画面で具体的な数字などは書かれていないのだが、生産ラインのレイアウトや生産計画・進捗などを社内の人がすぐに確認できるようになっているとのこと。
上記は各工程のリアルタイム映像を表示している様子。この映像は録画もされており、万が一お客さんの元に届いたPCに不良が見つかったときに、各PCのシリアルコードに基づいて組み立て時や梱包時の映像をすぐに確認し、正確な原因を特定できる。
実際に、完成したPCを受け取ったお客さんから 「外装がへこんでいる」 と連絡があり、梱包時の映像を確認したところ、綺麗な状態で梱包されて出荷されていることが確認できたという。そこで調査をしたところ、輸送業者のミスで外装がへこんでいた、という事例があったとのこと。
このようにどこかでミスが発生したときに、シリアルコードを使ってすぐに事実確認ができるというのは大きなメリットであるとのことだった。
いよいよ実際の組み立てラインへ。各ラインには数名のスタッフがいて、ひとつひとつの部品を確認しながら組み立てを実施している。
上記はタッチ操作対応モデルの液晶にガラスを貼り付けているところ。埃が入らないよう、クリーンな環境下で除電ブロワーで風を吹き付けて埃を取り除いてからガラスを貼り付けていく。
組み立て終わったPCは、機械と人間による厳しい検査が実施される。
上記は機械を使ってキーボードのキーをポンポンと押しているところで、すべてのキーが正しく動作するかを確認している。
各PCのバーコードを読み取ることで、これから検査するPCのキーボードがどんな仕様なのかが機械側で判別でき、各キーボードの仕様に応じて押す場所を変えて検査する仕様のため、今後発売する新しい製品にも対応できるとのことだ。
上記は外観検査をする装置。3機のカメラによってキーボード面とディスプレイ面と底面の画像判定をし、外装カラーやキーボードの印字などをチェックしている。
装置は遮光板で囲まれており、外からの光が入らない状態にして専用の照明を使って常に同じ環境下で判定をしているとのことだった。
こうして機械によって入念にチェックされたPCは、最後に専任の検査員による 「官能検査」 が実施される。検査員がPCの外観を目視で確認したり、実際に触ったりしながら、傷や汚れはもちろん、画面を開いたときのフィーリングやキーボードのわずかな引っかかりなどを細かくチェックしていく。
実際に検査員が1台のPCをチェックする様子を最初から最後まで見学させてもらったのだが、鮮やかな手つきでありとあらゆる箇所をチェックしていく様子はかなり見事なものだった。
こうして官能検査を実施し、問題なしと判断されたPCはいよいよ梱包作業に回され、安心の証である 「安曇野FINISH」 のハンコが押されたポストカードと一緒に段ボールに詰められて出荷されていく。
PCの生産工程はこれで終わりになるのだが、最後に修理センターも見学させてもらった。お客さんの個人情報の保護のため、写真は撮影できなかったのだが、文章だけで簡単に紹介したいと思う。
この修理センターは、お客さんからPCを送ってもらって修理をする 「引き取り修理」 を実施しており、PCが届いてから5日〜9日で修理を実施し、またお客さんの元に返却する。実際には7日前後で返却することが多いとのことだが、お客さんから 「出張があるからもう少し早くできないか」 などの要望があれば、可能な限り対応しているという。
修理の内容は様々。数日間にわたり、CPUやメモリ、無線通信などの負荷検証を行うなかで、お客さんから共有された情報を元に不具合の原因を特定し、修理を実施していく。
修理センターには、発売間もないVAIOも修理入荷してくるのだが、その際には担当メンバーが集まって解析し、原因を特定しているという。特定された原因はすぐ下にある生産ラインにフィードバックされるため、これからお客さんの元に届くPCはその不具合に対策をした状態で出荷することができるというわけだ。
まとめ
今回の工場見学では、一般的な基準を超える試験や、日常の使用に基づく独自の試験の実施、さらには専任の検査員による 「安曇野FINISH」 の実態をこの目で見ることができ、VAIOの 「安心」 に対するこだわりへの本気度を感じることができた。
2014年にソニー株式会社から独立してから、まもなく10年を迎えるVAIOブランド。冒頭でも述べたとおり、2023年には新たな定番PC 「VAIO F14/F16」 も登場するなど、法人向けモデルだけでなく個人向けモデルのラインナップも徐々に増えている。
長く安心して使えて、購入後のサポートも充実したノートPCが欲しいなら、VAIOを選んでみてはどうだろうか。最新モデルを比較したい人は公式ストアから。