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「日本市場は技術高地」TCL幹部に聞いたSQD-Mini LED、3年保証、ソニーとの合弁で変わるブランド戦略の現在地

中国・広東省深圳市。世界有数のテクノロジー企業が集まるこの街で、TCLはテレビをはじめとするディスプレイ事業を大きく成長させてきた。

日本でTCLと聞くと、「大画面テレビを比較的手頃な価格で販売しているメーカー」というイメージを持つ人は少なくないと思う。実際、TCLは日本市場でも大画面テレビを積極的に展開し、価格と画面サイズのバランスを強みに販売を広げてきた。

ただ、現在のTCLが目指しているのは「コストパフォーマンスの良さ」だけではない。液晶テレビの画質を高める技術開発を進める一方、パネルからバックライト、制御技術までをグループ内で幅広く扱い、AIやロボットを使った製造体制も整えている。日本市場では3年保証を打ち出し、価格だけでなく画質や品質、安心感でも評価されるブランドを目指している。

TCL本社ツアーのため7月上旬に深圳へ行ってきました

その方向性を象徴するのが、フラグシップモデルに採用する「SQD(Super Quantum Dot)Mini LED」だ。Mini LEDバックライトと量子ドットを組み合わせ、液晶テレビのコントラストや色再現性を高める。TCLは、この技術によってOLEDに対抗する高画質を目指している。

さらに、2027年4月の事業開始を予定するソニーとの合弁会社「BRAVIA株式会社」もある。TCLが51%、ソニーが49%を出資するこの合弁は、両社がそれぞれのブランドを維持しながら、製造やサプライチェーンなどの強みを組み合わせるものだ。

技術開発、製造、日本市場でのブランド戦略、そしてソニーとの協業。これらを見ていくと、TCLが今「大画面を手頃な価格で提供するメーカー」というこれまでのイメージから、技術や品質でも選ばれるブランドへ変わろうとしていることが分かる。

では、TCLは具体的に何を変えようとしているのか。深圳の本社で、TCL実業ホールディングスでAPBGマーケティング本部 総経理を務める張国栄氏、スマートスクリーン関連事業部副総経理 兼 グローバルプロダクトオペレーションセンター 総経理を務める左波氏らに話を聞いた。

(取材協力:TCL JAPAN)

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「SQD-Mini LED」でOLEDに挑む。TCLが追求する液晶テレビの画質

SQD-Mini LEDは液晶でありながらOLEDに匹敵するような綺麗さを実現している

TCLのテレビ事業を理解するうえで、まず注目したいのが「SQD-Mini LED」だ。SQDは「Super Quantum Dot(以下、スーパー量子ドット)」の略で、従来の量子ドット技術をさらに改良した次世代の液晶ディスプレイ技術だ。日本市場に投入した「X11L」をはじめ、TCLのフラッグシップテレビに採用されている。

SQD-Mini LEDは、Mini LEDや量子ドットといった個別の技術だけを見るのではなく、バックライト、パネル、カラーフィルター、映像制御までを一つのシステムとして設計する思想に基づいて開発されている。

TCL実業ホールディングス スマートスクリーン関連事業部副総経理 兼 グローバルプロダクトオペレーションセンター 総経理 左波氏

左波氏は、この仕組みをスポーツカーに例える。強い光を生み出すMini LEDバックライトが「エンジン」、その光を純度の高い三原色へ変換する量子ドット層が「トランスミッション」、そして光を効率よく通すパネルが「シャーシ」に当たるという。どれか一つの部品だけを高性能にするのではなく、それぞれを組み合わせてテレビ全体の性能を高めるという考え方だ。

SQD-Mini LEDでは、青色のMini LEDバックライトから出た光をスーパー量子ドットで変換し、純度の高い白色光を作り出す。さらに高精度なカラーフィルターを組み合わせることで、ピクセル単位で安定した色を再現する。従来の量子ドットと比べて色の純度や安定性を高め、ブルーライトも低減したという。

この仕組みを理解するには、まず液晶テレビとOLEDの違いを見る必要がある。液晶テレビは、画面そのものが発光するOLEDとは違い、バックライトを使って映像を表示する。OLEDは画素単位で光を消せるため、黒をきれいに表現できる。一方、液晶テレビでは、バックライトの光をどこまで細かく制御できるかが画質を左右する。

たとえば、暗い背景の中に明るい光源がある映像では、バックライトの光が周囲に回り込み、暗い部分まで明るく見えてしまうことがある。いわゆるハローや光漏れと呼ばれる現象だ。

TCLはこの課題に対して、Mini LEDバックライトを細かなゾーンに分け、それぞれの明るさを制御している。SQD-Mini LEDでは、1万を超えるローカルディミングゾーンを備える構成に加え、最大2万ゾーンを超える設計も可能としている。明るい部分は明るく、暗い部分は暗く表示することで、コントラストを高めながらハローの発生を抑える狙いだ。

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「SQD-Mini LED」と「RGB Mini LED」との違いは?

TCLがSQD-Mini LEDを説明する際、比較対象として挙げるのがRGB方式のMini LEDだ。RGB方式では、赤・緑・青の3つのLEDを使って光を作る。一方、SQD-Mini LEDでは青色のMini LEDから出た光を量子ドットで変換し、色を作り出す。

左波氏によれば、RGB方式は赤・緑・青の3つのLEDをひとつの単位として配置するため、同じ数のLEDを使った場合、制御できるゾーン数が少なくなる。その結果、画面上の明るい部分と暗い部分を細かく分けて制御することが難しくなるという。

SQD-Mini LEDはひとつのLEDから白色光を作るため、同じスペースにより多くのローカルディミングゾーンを配置しやすい。TCLが1万を超えるゾーンや、最大2万ゾーンを超える構成を実現できるとしているのもこうした設計によるものだ。

さらに左波氏は、RGB方式の赤・緑・青それぞれのLEDで経年変化の速度が異なる可能性があり、長期間使用した際の色バランスにも課題があると説明する。一方、量子ドットを利用するSQD方式は無機材料を使うため、長期間の安定性にも利点があるという。

ここには、TCLが画質を「購入した時点でどれだけ美しいか」だけでなく、「その画質を長く維持できるか」という視点からも考えていることが表れている。

LEDの違い(左:SQD-Mini LED/右:RGB Mini LED)

TCLが目指しているのは、高い輝度と細かな明るさの制御を両立することだ。ピーク輝度は最大約10,000ニトに達する領域を目指し、コントラスト比も100万対1の領域に達しているという。液晶テレビならではの高輝度を生かしながら、OLEDに対抗できるコントラスト性能を狙っている。

SQD-Mini LEDの改良は明るさやコントラストだけではない。グループ内のパネルメーカーであるTCL CSOTと共同で、新世代のカラーフィルターも開発している。汎用品をそのまま使うのではなく、材料から見直すことで、光の透過率と色の純度を従来比で30~35%向上させたという。

こうした技術を組み合わせることで、色の表現力も高めている。次世代の広色域規格であるBT.2020については、ほぼ100%をカバーすると説明する。映画やゲームなど、広い色域を使うコンテンツでは、暗いシーンの微妙な色の違いや、明るい光源の表現にも関わってくる。

インタビュー会場にはなんと大型のマイクロLEDディスプレイが展示。IFAやCESでも見たがかなりキレイだ

AIとロボットが支えるTCLの製造現場。高性能テレビを安定して量産する仕組み

TCL CSOT 深圳工場

高性能なテレビを作るには、技術を開発するだけでは足りず、開発した製品を安定した品質で大量に生産する仕組みも必要になる。TCLは深圳や武漢にある新設工場でAIとロボットを組み合わせた生産体制を整えており、すでに自動化率は70~80%に達しているという。

そのうち「ダークファクトリー(暗闇工場)」と呼ばれる生産現場では、人の姿はほとんど見られない。ディスプレイの向きを反転させるといった作業から精密な工程まで、さまざまな作業をロボットが担っている。

ただ、TCLが進めている工場の自動化は作業をロボットに任せるだけにとどまらない。TCL社内では現在約500体のAIエージェントが稼働している。同社はこれらを「スマートエンティティ」と呼んでおり、注文データの処理や生産計画の策定、サプライチェーンの監視などを担当する。1万を超えるデバイスが連動するサプライチェーンを24時間体制で管理しているという。

テレビという製品はひとつの工場だけで完成させられるものではなく、パネル、バックライト、半導体、電子部品など多くの部材が必要になる。さらに、完成した製品を世界各地へ届ける物流も重要だ。

どこかひとつの工程で問題が起きれば生産全体に影響が及ぶ。そこでTCLは、AIエージェントを活用し、注文から生産、サプライチェーンまでの情報をつなぎながら全体を管理している。

AIは、製造だけでなく製品設計にも使われている。大規模な光学シミュレーションを利用し、レンズの形状や反射シートの配置などをデジタル上で検証する。実際に試作品を作る前にさまざまな条件をシミュレーションし、設計を詰めていくわけだ。

従来の製品開発では試作品を作って測定し、問題が見つかれば設計を変更するという工程を何度も繰り返す必要がある。シミュレーションを活用すれば、実際に製品を作る前の段階で、設計上の問題を見つけられる可能性がある。開発期間を短縮できるだけでなく、製品ごとの品質のばらつきを抑えるうえでも重要な仕組みになる。

とくにプレミアムテレビでは、高性能な部品を採用するだけでは十分ではない。高い性能を持つ部品を組み合わせた製品を、どれだけ安定した品質で量産できるかが重要になる。

その体制を支えているのがグループ内に持つパネルメーカーのTCL CSOTの存在だ。パネルからバックライト、制御技術まで幅広い領域をグループ内で扱うことで、テレビ全体をひとつの製品として開発しやすくなる。外部から調達した部品を組み合わせるだけではなく、それぞれの部品がどう関係するのかまで含めて設計できるからだ。

TCLが進める垂直統合は、コストを抑えるためだけの仕組みではない。画質を高めながら、量産時の品質を安定させるための土台にもなっている。

大画面テレビを大量に生産してきたTCLは、これまで培ってきた量産能力にAIによる設計や生産管理を組み合わせ、高性能な製品を安定した品質で作る体制を目指している。価格競争力を維持しながら、プレミアム市場でも評価される製品を増やしていくにはこうした生産基盤が欠かせない。

日本市場を「技術の最前線」と見る理由。ソニーとの合弁でTCLと日本市場の関係はどう変わるのか

TCLの今後を考えるうえで、ソニーとの合弁会社「BRAVIA株式会社」の設立も重要な動きだ。2027年4月の事業開始を予定しており、出資比率はTCLが51%、ソニーが49%。TCL側の説明によれば、ブランド名を借りるライセンス契約ではなく、両社が資本を出し合うパートナーシップという位置付けだ。

合弁会社の設立後も、TCLとソニーはそれぞれ独立したブランドとして事業を続ける。TCLはTCLブランド、ソニーはBRAVIAブランドとして製品を展開するため、市場では引き続き競争関係になる。

両社が持つ強みは大きく異なる。TCLは大規模な製造能力やサプライチェーン、スマート製造の仕組みを持つ。対するソニーは、日本市場を含む世界で長年BRAVIAブランドを展開し、画質づくりに関する独自のノウハウを培ってきた。今回の提携は、こうした異なる強みを持つ両社が、それぞれのブランドを維持しながら協力する取り組みと見ることができる。

TCL実業ホールディングス APBGマーケティング本部 総経理 張国栄氏

TCLにとって、この提携が持つ意味は大きい。TCLは日本市場を「技術高地」と捉えており、張国栄氏は、日本の消費者はテレビの価格や画面サイズだけでなく、画質や製品の品質、耐久性、購入後のサポートまで含めて総合的に評価すると説明する。

TCLが日本市場向けに「3年保証」を用意しているのも、こうした市場特性を意識したものだ。高画質な製品を投入するだけでなく、長く安心して使える環境まで含めて価値を提供しようとしている。

これまでTCLは、「大画面テレビを手頃な価格で買えるメーカー」というイメージが強かった。そこから「価格が安いから選ぶ」のではなく「性能や品質に納得して選ぶ」ブランドへ変わっていくには、製品そのものの性能を高めるだけでなく、購入後も安心して使える環境を整える必要がある。

そうした中で、TCLにとってソニーとの提携は、日本市場への理解を深め、自社のブランド価値を高める機会にもなり得る。左波氏と張国栄氏は、この提携によってTCLとソニーの双方だけでなく、日本の消費者にとってもより良い製品体験につながると話す。TCLが持つ製造・技術プラットフォームと、ソニーが日本市場を含む世界で培ってきた知見を組み合わせることで、新たな価値を提供できると考えているという。

なお、前述のようにTCLとソニーは協力関係にあるからといって、技術まで一本化されるわけではない。TCLはSQD-Mini LEDを自社の重要技術として位置付ける一方、ソニーはRGB方式の共同開発を進めている。最終的な製品や画質の方向性は、それぞれ異なるものになる可能性が高い。

TCLにとって、この合弁会社は日本市場での事業基盤を強化するだけでなく、これまで培ってきた製造力や技術力を生かし、ブランドとしての評価を高めるための取り組みでもある。ただ、合弁会社が両社のテレビ事業にどのような影響をもたらすのかは、2027年4月の事業開始後を見なければ分からない。

少なくとも、TCLが日本市場をこれまで以上に重視していることは確かだ。価格や画面サイズだけでなく、画質、品質、サポートまで含めて評価される市場で、TCLがどこまでブランドとしての評価を高められるのか。ソニーとの協業も含め、その答えはこれから市場に問われることになる。

「安いから選ぶ」から「技術と品質で選ぶ」へ。TCLが変えようとしているもの

ヨドバシカメラ マルチメディアAkibaで特設コーナーも展開

TCLが掲げる「技術はより多くの人に利益と価値をもたらして初めて、その生命力が証明される」という考え方は、いまの同社の方向性をよく表しているように思えた。

高性能なテレビを一部のユーザーだけに届けるのではなく、より多くの人が手に取れる価格帯まで技術を広げる。そのためには、製品性能だけでなく、製造コストや生産効率が重要になる。TCLはパネルからバックライト、制御技術までをグループ内で幅広く手がけ、AIを活用した設計や生産の効率化も進めている。大量生産の規模を生かしながら、高性能な技術をより幅広い価格帯へ展開することで、価格競争力を保ちながら製品そのものの価値を高めようとしている。

その変化は、テレビのスペック表だけを見ても分かりにくい。SQD-Mini LEDのような先端技術を開発し、TCL CSOTとパネル技術を磨く。AIエージェントやロボットを活用して設計や製造を効率化し、日本市場では3年保証を用意する。一見すると別々の取り組みに見えるが、根底にある考え方は共通している。価格だけではなく、画質や品質、安心感まで含めてTCLというブランドを評価してもらおうとしているのだ。

日本でのTCL新商品発表会に山﨑賢人氏が登壇(2026年5月、筆者撮影)

日本では俳優の山﨑賢人氏をブランドアンバサダーに起用し、技術スペックを訴求するだけでなく、テレビを実際に使う人の体験に焦点を当てている。日本で広がる「推し」文化にも着目し、好きな俳優やアイドル、アーティストを大画面・高画質で楽しみたいという需要にも応えようとしている。

BT.2020をほぼ100%カバーする色域や量子ドット、Mini LEDによる細かなバックライト制御といった技術も、最終的な目的はコンテンツ体験の向上にある。映画の暗いシーンを美しく映し出し、ゲームを大画面で楽しみ、好きな俳優の表情や衣装の色まで鮮明に映す。

どれだけ高い技術力を持っていても、その価値が消費者に伝わらなければ製品を選ぶ理由にはならない。TCLは、技術そのものだけでなく、それによって何ができるのか、どんな体験が得られるのかまで伝えようとしている。

このことは、TCLが「テレビ離れ」をどう捉えているかにもつながる。TCLは、若い世代を中心とした「テレビ離れ」についても、テレビそのものの価値がなくなったとは見ていないようだ。中国でのデータによれば、55型から75型へ買い替えたユーザーは、テレビの視聴時間が30%以上伸びたという。もちろん、この数字だけでテレビ離れそのものが解決するとは言えないが、テレビで何を見るのか、どのような環境でコンテンツを楽しむのかが変化していることを示すひとつの材料にはなるだろう。

スマートフォンやタブレットは、短時間でコンテンツを楽しむことに向く一方で、大画面テレビは映画やドラマ、スポーツ、ゲームなどを腰を据えて楽しむ用途に向いている。画面が大きくなり、画質が向上すれば、テレビを選ぶ理由そのものも変わってくる可能性がある。

つまり、TCLが目指しているのはテレビを放送を見るためだけの家電ではなく、映画や動画、ゲームなどのコンテンツを楽しむための大画面ディスプレイとして位置付けることだ。

TCLは現在オリンピックの公式パートナーを務めている

そう考えると、Mini LEDや量子ドットへの投資にも納得がいく。ゲームでは暗いシーンの視認性や明暗差が重要になり、映画ではコントラストや色の再現性が映像体験を左右する。ストリーミングサービスでも、HDRや広色域への対応は欠かせない。テレビの役割が変わる中で、TCLは液晶テレビそのものの性能を高めるだけでなく、「大画面でコンテンツを楽しむ」という体験そのものを改めて提案しようとしている。

今回の取材で、TCLはこれまで培ってきた価格競争力を維持しながら、その上に技術や品質、製品を使う体験まで含めた価値を積み重ねているフェーズに入っているように見えた。

価格競争力は、TCLにとって今も重要な武器だが、その強みを捨てるのではなく、技術や品質、製品を使う体験まで含めた価値を積み上げていく。そこには、これまで大量生産によって培ってきた力を、今度は高性能な製品を作るために生かそうとする姿勢も見える。

もっとも、その挑戦が成功したと判断するにはまだ時間が必要だ。SQD-Mini LEDが高画質テレビの選択肢としてどこまで評価されるのか。AIや自動化を取り入れた製造体制が、長期間にわたって安定した品質を維持できるのか。3年保証を含めたサポート体制が、日本の消費者にどのように受け止められるのか。そして、ソニーとの合弁会社が両社のテレビ事業にどのような変化をもたらすのか。いずれも、これから市場が答えを出していくテーマだろう。

TCLが本当に「安いから選ぶ」ブランドから「技術と品質で選ぶ」ブランドへ変われるかどうか。その答えはこれから市場に投入される製品と、それを実際に手にしたユーザーの評価にかかっている。