
10月2日、Beatsは、完全ワイヤレスイヤホン「Powerbeats Fit」を発売した。
本製品は「Beats Fit Pro」の次世代版にあたるモデルで、ベストセラーの「Powerbeats」ファミリーに新たに加わるかたちで登場する。
今年2月には「Powerbeats Pro 2」も登場しており、Powerbeats Fitがどのような立ち位置の製品なのか気になっている人も多いのではないだろうか。
今回、本製品の発売を前に実機を試用する機会を得た。そこで、筆者が普段から愛用するPowerbeats Pro 2とも比較しながら、Powerbeats Fitのレビューをお届けしたい。
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ウィングチップで固定する「Powerbeats」シリーズの新モデル

「Powerbeats Fit」は、フィットネスイヤホンの新たな基準を示す最新モデルだ。Beats Fit Proの後継機として登場し、「Powerbeats Pro 2」と並ぶシリーズの一員として位置付けられている。

AppleのBeats担当バイスプレジデント、Oliver Schusser氏は本製品について「Powerbeats Pro 2とともに『Powerbeats』シリーズに属する」と説明しており、上下関係のあるモデルではなく、異なるフォームファクターを採用した2種類の製品と捉えるのが正しいようだ。

イヤホン本体は、イヤーピース部分を耳の穴に入れるようにして装着するインイヤータイプで、イヤホン外側のウィングチップで耳の窪みに固定することで、スポーツシーンなどでも外れにくくしっかりとした装着感を実現する。


ウィングチップは従来モデルより20%柔軟性が増し、耳の形に自然に沿うように設計されている。実際に装着すると、ウィングチップがイヤホンをしっかりと固定してくれるため、ランニング中もずれを感じることはほとんどない。さらに、Powerbeats Pro 2のようにイヤーフックを耳にかける手間がないため、装着から音楽再生までのスピードはPowerbeats Fitの方が優れている。


もっとも、激しい動きを伴うスポーツや、落下時にすぐ拾えないような環境では、イヤーフックを備えたPowerbeats Pro 2の方が安心感はある。ただし、日常的なランニングや通勤・通学など幅広いシーンで使うなら、手軽に装着できるPowerbeats Fitの方が便利といえるだろう。

イヤホン外側の「b」ロゴ部分はマルチコントロールに対応しており、初期設定では1回押しで再生・一時停止、2回押しで曲送り、3回押しで曲戻し、長押しでANC(アクティブノイズキャンセリング)と外部音取り込みモードを切り替えられる。設定を変更すれば、音量調整やSiriの起動も可能だ。
本体カラーはジェットブラック、グラベルグレイ、スパークオレンジ、パワーピンクの4色展開。今回試したのはパワーピンクで、派手すぎない落ち着いた色合いのおかげで、スポーツシーンだけでなく普段使いもしやすい。

イヤーチップはXS、S、M、Lの4種類が用意されており、自分に合ったサイズに変更可能。スポーツ向けイヤホンの中には、ウィングチップも別のサイズに変更できる場合があるが、Powerbeats Fitは1種類のみで変更はできない。


充電ケースは前モデルよりも17%小型化され、ポケットにも収まりやすくなっている。端子にはUSB Type-Cを採用しており、MacBookやiPhoneとケーブルを共用できる点も便利だ。

ペアリングはケース内側の収納部奥にあるボタンを長押しすることで行える。本体を収納した状態で操作する仕様だ。Beats製品はAirPodsと同様、iPhoneに近づけるだけで画面下からポップアップが表示され、簡単に接続できる。また、Android端末でも専用アプリを介してスムーズに接続可能だ。
さらに、「Powerbeats Fit」はイヤホン本体と充電ケースの両方が防水・防塵性能「IPX4」に準拠している。汗や雨を気にせずワークアウトに集中できる設計で、水泳など水中での使用は想定されていないものの、ランニングやジムでの利用には十分対応できる。
低〜中音域に厚みがあってどっしりとしたサウンド

「Powerbeats Fit」には独自開発のアコースティックプラットフォームと専用設計のドライバーが搭載されており、低音域の力強さと中〜高音域のクリアさを高いレベルで両立している。
チューニングは高音域がやや抑えめで、耳に刺さるような派手さはなく、低〜中音域が厚みのある響きを生み出すのが特徴だ。まるでお腹の奥にどっしりと響くようなサウンドは、トレーニング中のテンションを自然に引き上げてくれる。
音楽ジャンルを問わず対応力が高く、EDMやヒップホップといったビートの効いた楽曲はもちろん、ロックのギターリフやポップスのボーカルも心地よく再生してくれる。特に運動中や移動中など、自分の世界に没入して集中したいシーンでは頼もしい存在になりそうだ。

また、空間オーディオにも対応しており、パーソナライズされたダイナミックヘッドトラッキングを活用することで、映画やゲームでは音の広がりや定位感が際立つ。
頭を動かすと音場も自然に追従し、まるで目の前にステージやスクリーンが広がっているかのような臨場感を体験できる。加えて、音の歪みはほとんど感じられないほどに抑えられており、長時間聴いても疲れにくいのも魅力だ。
結果として「Powerbeats Fit」は、トレーニングのモチベーションを高める音楽再生から、エンターテインメントを存分に楽しめる空間オーディオ体験まで、幅広いシーンで活躍する万能なイヤホンに仕上がっていたように感じた。
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自然に作用するANCでトレーニング時にも集中しやすい

不要な環境音を抑えるANC(アクティブノイズキャンセリング)は、オンにするだけで周囲のざわめきを遠ざけ、自分だけの音楽の世界に没入できる機能だ。カフェのBGMやタイピング音、人の話し声などもスッと背景に退き、耳に届くのは音楽や映像だけになる。
Powerbeats FitのANCは作用が自然で、耳が圧迫されるような不快感がほとんどない。特に低音のノイズがしっかりと取り除かれるため、低〜中音域に重心を置いたチューニングがさらに際立ち、全体のサウンドが一段と厚みを増すように感じられる。お気に入りの楽曲も、より深みのある表現で楽しめるはずだ。
ただし、ランニングや屋外でのサイクリングなど、周囲の状況に注意を払う必要があるシーンではANCを使用しない方が安全だろう。
代わりに、ジムでのトレーニングや屋内で集中したい作業時など、外部環境を気にせず没頭したい状況では大いに役立つ。音楽と一緒に自分の集中力を高めてくれる心強い味方になる。
また、外部音を取り込むモードも搭載されている。これを使えば、音楽を楽しみながらも周囲の音をしっかりと認識できる。
例えばランニング中に背後から迫る車の音に気づいたり、慣れない電車に乗ったときにアナウンスを聞き逃さずに済んだりと、安全性や利便性が大きく高まる。音楽の世界と現実の世界を自在に行き来できる点も、Powerbeats Fitの大きな魅力だといえる。
接続性とバッテリー

Powerbeats FitはAppleのH1チップを搭載しており、iOSユーザーはデバイス間の自動切り替えやオーディオ共有、ハンズフリーでの「Hey Siri」、さらには「探す」機能までシームレスに利用できる。
筆者自身、MacBookで作業中にiPhoneで通話するなど複数のデバイスを行き来することが多いため、H1チップによる自動切り替えは非常に便利に感じている。
一方で、Androidユーザーも専用アプリを通じてワンタッチペアリングやバッテリー残量表示、装着テスト機能を利用可能だ。近年のBeats製品はApple以外の端末でも使いやすく進化しており、Androidユーザーにとっても選びやすい製品になってきている。
接続面では、業界最高クラスのClass 1 Bluetoothに対応しているため、通常のBluetooth機器よりも安定性が高い。実際にPowerbeats Fitを使用して朝夕のラッシュ時に電車へ乗った際も、満員電車や混雑した駅構内で音が途切れることなく安定して再生できた。
通話品質も優れており、デュアルビームフォーミングマイクとノイズリダクション処理によって、騒がしい街中や強い風の中でも相手にクリアな音声を届けられる。
バッテリー持続時間は、イヤホン単体で最大7時間、ケース併用で最大30時間。ANCをオンにしても6時間/24時間と十分で、日常的な使用には全く不安がないだろう。仮に充電を忘れてしまっても、わずか5分の充電で約1時間再生できるFast Fuel機能が備わっているため安心だ。
まとめ:Powerbeats Pro 2と好対照をなす「Powerbeats Fit」

「Powerbeats Fit」は、Beatsの最新ラインナップとして「Powerbeats Pro 2」と並ぶ立ち位置にあり、フォームファクターの異なる2モデルを揃えることで、ユーザーの用途に合わせた選択肢を広げている。耳に自然にフィットするウィングチップや軽快な装着性は、スポーツや日常使いにおいて新たな利便性を提供している。
同じPowerbeatsシリーズの「Powerbeats Pro 2」との主な違いは、イヤホンを固定する方法がイヤーフックかウィングチップかという点と、心拍センサーの有無だ。イヤーフック型のPowerbeats Pro 2が「絶対に外れない安心感」を重視するのに対し、Powerbeats Fitは「素早く、快適に使える」ことに重点が置かれている。
心拍センサーについては、運動中にイヤホンで計測できる利点はあるものの、Apple Watchなどのスマートウォッチを使えばより多彩なデータを取得できるため、必須ではないと考えるユーザーには非搭載でも十分だろう。
ウィングチップによる快適さと安定性、IPX4の耐汗耐水性能、さらに携帯性の向上によって、スポーツシーンでの使いやすさはシリーズの中でも際立っている。加えて、低〜中音が効いたパワフルなサウンド、空間オーディオやANCも備えており、音楽再生用のイヤホンとしても満足度は高い。
総じて「Powerbeats Fit」は、スポーツ用イヤホンの利便性と日常的なオーディオ体験を両立させた万能モデルに仕上がっている。Powerbeats Pro 2が担う「安心のホールド感」と好対照をなす存在であり、フィットネスから普段使いまでシームレスに使える新しい選択肢として、多くのユーザーにフィットする一台となりそうだ。
総合的に見れば、フィットネスに強いイヤホンを求めるユーザーにとってベストな選択肢の一つだ。Beatsらしいデザイン性とAppleエコシステムとの親和性も含め、競合製品の中でも存在感を放つモデルである。特に、AirPodsが白を基調としたラインナップに限られるのに対し、Beatsは豊富なカラーバリエーションを用意。個性的なカラーを求める人にとっても魅力的な選択肢となるだろう。
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