Appleが「SoftBank World」に初出展した理由。「Mac」は法人PC市場で存在感を高められるか

Appleが法人市場への取り組みを一段と強めている。iPhoneやiPad、Macを業務で導入する企業は以前から少なくなかったが、一方でAppleが自ら法人・教育向けの展示会に参加し、法人ユーザーへ積極的にアプローチする機会は決して多くなかったように思う。

その動きの「変化」が分かりやすく表れたのが、先日開催された教育分野の展示会「EDIX東京2026」と、ソフトバンク主催の法人向けカンファレンス「SoftBank World」だ。Appleは両イベントにブースを構え、製品や導入事例を紹介した。

分野こそ異なるが、どちらも製品の導入を検討する教育機関や企業の担当者が集まるイベント。これまで「コンシューマー」あるいは「プロシューマー」向けというイメージが強かったAppleが、自らこうした場へ出展する姿は、あまり見られなかった。

筆者は前回の「EDIX東京2026」に続き、「SoftBank World」でもAppleの展示ブースを取材した。両イベントで共通して印象に残ったのは、Macをクリエイターや開発者向けの製品ではなく、企業の日常業務を支えるPCとして紹介していたことだ。Appleは、法人市場で何を目指そうとしているのだろうか。

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「SoftBank World」で見えたAppleの法人ビジネスの変化

(画像提供:Apple)

2026年7月14日に開催された「SoftBank World 2026」は、ソフトバンクが毎年開催する法人向けテクノロジーカンファレンスだ。企業の経営層やIT担当者、事業部門の責任者らが集まり、AIやクラウド、セキュリティ、通信技術の活用について議論する場となっている。2026年は「AX for Japan」をテーマに掲げ、自律型AIやフィジカルAI、ソブリンクラウドなどが大きなテーマとなった。

Appleはこれまでも通信会社や販売パートナーが主催するイベントに参加してきたが、「SoftBank World」そのものにブースを構えるのは今回が初めて。法人ユーザーが一堂に会するイベントへ自ら出展したことからも、企業へのアプローチをこれまで以上に重視する姿勢がうかがえる。

実際にブースで紹介されていたのは、「Microsoft 365」を使った資料作成やExcelでの表計算、オンライン会議、メールなど、Macを業務でどう活用できるのかを紹介するというもの。

例えば、10万行を超えるExcelファイルを使ったデモがあった。大きな表をスムーズにスクロールし、必要なデータを検索するなど、一般的なオフィスワークを想定した内容となっていた。

普段のAppleなら「Numbers」「Keynote」といった自社開発のアプリケーションを使用したデモを展開することが多いが、参加企業の利用実態に合わせて「Microsoft 365」を使用したデモを行なっていたのが、いつもとはやや異なるポイント。いずれも動画編集や音楽制作といったクリエイティブ用途ではなく、企業で日常的に行われている業務内容を意識したものになっていて、「Macでも仕事ができる」という説明よりも「仕事でMacを選ぶ理由」を伝えようとする意図がうかがえた。

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Macは業務用PCとして通用するかーー。FFGの事例が示す、運用コストまで含めたMacの価値とは

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ DX推進本部 副本部長 根上竜也氏 (画像提供:Apple)

今回の取材で特に印象的だったのが、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の事例紹介だ。詳細は別稿で紹介しているため詳しくはそちらもご覧いただきたいが、かいつまんで書くと、FFGはDXを進めるなかでMacを導入し、内製開発に携わるエンジニアの約8割がMacを利用しているという。

開発者が慣れ親しんだ環境で仕事ができることは、生産性の向上だけでなく、採用面でもプラスに働く。優秀なエンジニアに選ばれる環境を整えることも、Mac導入を進めた理由のひとつだった。

運用面でも、その効果は数字として表れている。FFGではJamfを利用した端末管理により、初期設定にかかる時間をWindows PCと比べて約40%短縮できたという。大規模な組織では、PC本体の価格だけでなく、設定や配布、アップデート、回収といった運用にかかるコストも無視できない。端末管理の負担を減らせることは、導入を検討する企業にとって大きなメリットになる。

(画像提供:Apple)

コストも一概には比較できない。「Macは高い」という印象があるものの、メモリ24GB以上といった一定の性能条件でWindows PCと比べると、「Macのほうが安価、あるいは同程度の価格に収まる場合もある」という。円安や部品価格の上昇でPC全体の価格が上がるなか、本体価格だけで「Macは高い」と言い切るのは難しくなっている。企業は管理コストや耐用年数も含めた総保有コストで比較する必要がある。

FFGではMac Studioを活用し、ローカルLLMの検証も進めているという。生成AIを業務で活用するうえでは、社内データをどこで処理するかが重要になる。とりわけ機密情報を扱う金融機関では、外部サービスへデータを送らず、組織内でAIを運用できる環境への関心は高い。Appleシリコンを搭載したMacはローカルで大規模言語モデルを動かしやすく、こうした用途との相性も良い。

Apple Intelligenceへの関心も高い。音声の文字起こしや要約などでは、データがどこで処理されるのかを重視する企業は少なくない。Appleはオンデバイス処理を基本とし、一部の機能ではクラウド処理も組み合わせる。利用条件やデータの取り扱いを確認する必要はあるものの、社外へデータをできるだけ出さずにAIを活用できる設計は、セキュリティを重視する企業にとって魅力のひとつになりそうだ。

Appleはなぜ法人市場を重視するのか

「EDIX東京2026」Appleブースの様子

さて、本稿の冒頭で投げかけた「Appleは法人市場で何を目指そうとしているのだろうか」という問いに戻りたいが、結論から言えば、Appleは法人・教育市場でこれまで以上に存在感を高めようとしている。その姿勢が、今回の展示内容からも伝わってきた。

Appleは以前から法人営業を展開しており、企業の導入支援や端末管理、業務利用に関する相談へ対応してきた。もちろん、法人市場への取り組み自体は以前から続けられてきた。ただ、一般には個人向けメーカーという印象が強いように、企業向けの取り組みが広く知られてきたとは言い難い。

Gartnerの調査(2025年1〜12月)を見ると、世界のPC出荷台数でAppleはレノボ、HP、デルに次ぐ4位で、出荷台数シェアは約10%前後とされる。上位3社との差は依然として大きいが、世界市場では無視できない存在になっている。法人PC市場でも、おおむね同じような構図だ。

一方、日本では個人向けPC市場でAppleは高い存在感を示しているものの、法人向けでは世界市場ほどのシェアはないとみられる。MM総研の調査では、Appleは2025年度の出荷台数は約5%でNECPC、日本HP、デル、Dynabook、富士通に次ぐ6位となっている。企業向けPCはデル、HP、レノボが長年強く、大量導入のしやすさや販売・保守体制、Windowsベースの既存システムとの親和性が評価されてきた。

ただ、PC選びの基準は少しずつ変わり始めている。メモリなど部品価格の高騰によってPC全体の価格が上昇するなか、企業は本体価格だけでなく、管理のしやすさや消費電力、耐用年数、運用コストまで含めて比較するようになった。Appleもそうした変化を見据え、使いやすさや管理性を含めた提案を強めている。

そのひとつが「MacBook Neo」だ。約12万円〜という価格で、一般的な業務や学習には十分な性能を備える。軽量で持ち運びやすく、バッテリー駆動時間も長いため、出張や外出先でも使いやすい。豊富なカラーバリエーションも、従来の法人向けPCにはあまり見られない特徴だ。

「MacBook Neo」の登場をキッカケにAppleが法人市場へ力を入れ始めたわけではないが、これまで築いてきた法人向けの販売体制やサポートに加え、初めてMacを検討する企業や教育機関にも提案しやすい製品が加わった。そう捉えるのが実態に近いだろう。

MacはビジネスPCになれるか

前述のとおり、会場では10万行を超えるExcelファイルをMacで扱うデモが披露された。大きな表をスクロールし、必要な情報を検索するなど、「Microsoft 365」を利用する日常業務でもAppleシリコン搭載Macが快適に作業できることを示す内容だった。

もちろん、複雑なマクロや独自アドインを利用する企業では事前の検証が欠かせない。それでも、資料作成や表計算、オンライン会議、メールといった日常業務において、Macを選択肢のひとつとして検討しやすい環境は着実に整いつつある。

macOSには、ファイルを開かずに内容を確認できる「クイックルック」や、ファイル内の文字まで検索できる「Spotlight」など、日々の業務効率を高める機能が備わる。iPhoneとの連携もAppleならではの強みだ。iPhoneで撮影した領収書をMacへ取り込み、カメラで読み取った文字をそのまま文書へ貼り付けるなど、デバイスをまたいだ作業が多いビジネスシーンでは、生産性向上につながる場面も少なくない。

Windowsが主流の法人市場で、すべての企業がMacへ移行するわけではない。社内システムや周辺機器、既存ソフトとの互換性、保守体制など、導入前に検討すべき課題は依然として残る。一方で、「MacBook Neo」のような導入しやすい製品が加わり、Apple IntelligenceやiPhoneとの連携、さらにFFGのような導入事例も積み重なってきたことで、「Macはクリエイター向け」という従来のイメージは少しずつ変わり始めている。

SoftBank Worldへの初出展は、Appleが法人市場への取り組みを新たな段階へ進めたことを象徴する出来事だった。今後は展示会で紹介したメリットを、企業が実際の導入につなげられるかどうかが鍵になる。Macは今、クリエイターや開発者だけのPCではなく、一般企業の業務用PCとしても存在感を高めつつある。

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