
Appleは10月13日(米国時間)、米ニューヨークで新製品発表イベント「Welcome home.」を開催する。マーケティング担当上級副社長のGreg Joswiak氏が10月8日、Xに「Welcome home. October 13.」と投稿し、開催を告知した。公開された約17秒の動画には、Appleの旧ロゴを象徴するレインボーカラーの刺繍が登場しており、家庭での利用を意識した製品の発表が予想されている。
今回のイベントは、従来の基調講演とは異なり、インフルエンサーと一部のメディア関係者が現地で製品を直接体験する形式になるとみられる。
Welcome home. October 13. https://t.co/ChelGSDOTI
— Greg Joswiak (@gregjoz) October 8, 2026
開催地はニューヨークのトライベッカで、開始時刻は米東部時間の午前9時。Appleは具体的な発表内容を明らかにしていないものの、イベントの告知に使われたメッセージや、これまでに報じられてきた製品計画から、スマートホーム関連の新製品に期待が集まっている。
では、Appleは今回どのような製品を発表しようとしているのだろうか。現時点で噂されている製品を整理しながら、同社がスマートホームの分野で何を目指しているのか、SamsungやLGなど競合メーカーの動きも踏まえて考えてみたい。
Appleの次なる舞台はスマートホーム。新製品の噂と競合各社の戦略を読み解く
まず、今回の目玉として有力視されているのが、ディスプレイを搭載した新型ホームハブだ。
この製品は、約6インチの正方形ディスプレイを採用し、壁掛けと卓上の2通りの設置方法に対応すると報じられている。卓上モデルにはスピーカーを備えたベースが用意されるとの情報もあり、家庭内のさまざまな場所に設置して使うことが想定されているようだ。
Siriを通じた音声操作に加え、カレンダーやメモ、ウィジェットなどの表示、FaceTimeでの通話、写真や音楽の再生、スマートホーム機器の操作などが噂されている。カメラやセンサーを使って利用者を識別し、家族それぞれに合わせた情報を表示する機能も報じられている。価格は、約350ドルになるとの予想もあるが、名称を含め正式な仕様は明らかになっていない。
Appleがこの製品を投入する狙いは、iPhoneを取り出さなくても、家庭内の情報を確認したり、家電を操作したりできる環境を整えることにあると考えられる。スマートフォンが個人のための端末であるのに対し、ディスプレイ付きのホームハブは家族が共有する端末として使われる可能性がある。リビングやキッチン、寝室などに置き、家族の予定を確認したり、照明や空調を操作したりする使い方が考えられる。
次に噂されているのが、スマートスピーカー「HomePod mini」の第2世代モデルだ。現行モデルは2020年に発売されており、今回のイベントで刷新されれば、実質はじめての大幅アップデートということになる。
新モデルでは、プロセッサや通信機能の強化、新色の追加などが取り沙汰されている。Apple独自のN1ネットワークチップや第2世代のUltra Wideband(UWB)チップを搭載するとの情報もある。こうした更新が実現すれば、通信の安定性や近距離でのデバイス連携が改善する可能性があるほか、SiriのAI機能を動かすための環境も整えやすくなる。
さらに、テレビに接続して動画配信サービスやアプリを利用できる「Apple TV 4K」についても、新モデルの登場が噂されている。現行モデルは2022年に発売されたもので、新モデルでは「A19」シリーズのチップやメモリ容量の増加、新しいリモコンなどが候補に挙がっている。チップの更新は、アプリの動作やゲームの処理性能に加え、今後のAI機能にも関係してくる可能性がある。
これらの製品に共通するのは、Siriを通じて家庭内の情報や機器を扱う環境を強化する方向性だ。Appleが開発を進めているとされるAI機能がどこまで盛り込まれるかは不明だが、新型ホームハブ、HomePod mini、Apple TV 4Kが連携すれば、家庭内の複数の場所から家電やサービスを操作できる環境が整う。
ただし、今回のイベントで噂されている製品がすべて発表されるとは限らない。AppleとLGが協力してスマートホーム関連機器を開発しているとの報道もあるが、共同開発製品が10月13日に登場するかどうかは分かっていない。
専用ハブを増やすApple、家電そのものをつなぐSamsungとLG
Appleが今回、スマートホーム関連製品を充実させようとしている背景には、家の中にあるさまざまな機器をまとめて操作できるようにし、iPhoneを中心に築いてきた製品同士のつながりを家庭内にも広げる狙いがあると考えられる。
Appleはすでに「Apple Home」を提供しており、対応する照明やエアコン、スマートロック、センサーなどをiPhoneやiPadから操作できる。HomePodやApple TV 4Kを家庭内の操作をまとめる機器として使えば、外出先から家電を操作したり、決まった時間に照明をつけたりすることも可能だ。Apple Watchから操作することもできるため、普段からApple製品を使っている人にとっては、使い慣れた端末で家の中の機器を扱えることが利点になる。
一方、スマートホーム市場全体を見ると、Appleの存在感はまだ限定的だ。米国では、AmazonのEchoシリーズがスマートスピーカーの普及をけん引しており、音声アシスタントのAlexaを使って、照明やカメラ、各種センサーなどをまとめて操作する環境が広がっている。GoogleもNestシリーズやGoogle Homeを展開し、AIを活用して音声での指示をより理解しやすくする取り組みを進めている。
米国のスマートスピーカーの所有状況に関する調査では、Amazon Echoが約3分の2を占め、Google NestやAppleのHomePodが続くとされている。ただし、これは調査対象となったスマートスピーカーの所有状況を示す数字であり、スマートホーム市場全体でのシェアを表すものではない。家電や照明、防犯カメラなども含めると、各社の立ち位置は変わってくる。
Amazonの強みは、Alexaに対応する機器が幅広く、スマートホームを始めるときの「入口」を押さえていることにある。Echoを購入したあと、照明やスマートプラグ、Ringのドアベルやカメラなどを追加していけば、家の中でできることを少しずつ増やせる。Googleは会話AIや検索技術を生かし、利用者の指示を理解する力や、カメラの映像から周囲の状況を把握する機能を強化しようとしている。
Appleは、個人情報の保護や自社製品同士の連携に強みを持つ一方、対応機器の種類では競合に及ばない部分もある。Siriの機能を強化し、新型ホームハブを家庭内の新たな操作端末として用意することは、家の中でもAppleの製品やサービスを使う機会を増やすうえで重要になるだろう。
ただ、スマートホームの将来を考えるうえでは、AmazonやGoogle、Appleといった音声アシスタントやサービスを提供する企業だけを見ていても、全体像はつかめない。
最近の動きで注目したいのは、SamsungやLGといったメーカーが、冷蔵庫やテレビ、洗濯機などを起点に、家の中の機器をまとめて使える環境を整えようとしていることだ。
SamsungとLGは、「CES」や「IFA」といった海外の大型展示会で、家電やスマートフォン、センサーなどを連携させたスマートホームの仕組みを紹介している。
そこでは、専用のスマートスピーカーを購入してから家電をつないでいくのではなく、テレビや冷蔵庫など、もともと家庭で使っている家電をネットワークにつなぎ、生活の状況に合わせて複数の機器を動かす仕組みが示されていた。
Samsungは、スマートフォンやテレビ、家電をつなぐ「SmartThings」を展開している。対応するテレビや家電を通じて照明やエアコン、各種センサーを連携させ、家の中の状況に合わせて機器を自動で動かす仕組みだ。IFAでは、GalaxyスマートフォンのUWBやWi-Fiを使って部屋の位置を把握し、場所に応じて照明やエアコンを操作する「SmartThings Spatial AI」を紹介した。
冷蔵庫の「Bespoke AI Family Hub」では、GoogleのGeminiを活用し、庫内の食材を見分けたり、レシピを提案したりする機能も展示された。冷蔵庫を食材の保管場所として使うだけでなく、食事の準備や日々の家事を助ける機器として活用しようという考え方だ。
Samsungの強みは、すでに多くの家庭にテレビや冷蔵庫、洗濯機などを販売していることにある。新たにスマートホーム専用の機器を買ってもらわなくても、家電を買い替えるタイミングで接続機能を広げられる。テレビや冷蔵庫などがほかの機器とつながる仕組みを備えていれば、利用者が特別な準備をしなくても、家庭内の機器を連携させやすくなる。
LGも同じ方向を目指している。同社は家電を連携させる「LG ThinQ」を展開し、会話を通じて家電を操作するAI機能の開発を進めている。IFA 2026では、利用者の意図をくみ取り、帰宅前にエアコンをつけたり、来客に備えて家電を動かしたりする作業を、複数の機器に振り分ける「ThinQ Claw」を披露した。
また、LGはスマートホーム関連企業のAthomを買収し、同社が手がけるHomeyの技術を取り込んでいる。Homeyは、メーカーの異なる家電やセンサー、電力の使用状況を管理する機器などをつなぐ仕組みだ。LGは自社製品だけで家の中をまとめるのではなく、他社の機器も一緒に操作できる環境を整えようとしている。
SamsungとLGが目指しているのは、スマートホームを後から追加する機能として扱うのではなく、家電そのものに組み込んでいくことだ。スマートスピーカーを持っていない家庭でも、テレビや冷蔵庫、エアコンに接続機能があれば、家電の買い替えをきっかけにスマートホームを使い始められる。専用機器を新たに購入しなくてもよいことは、普及を考えるうえで大きな意味を持つ。
もっとも、家電に接続機能が付いているからといって、家の中のすべての機器がスムーズにつながるわけではない。実際の家庭では、購入した時期の異なる家電や、メーカーの違う製品が一緒に使われている。賃貸住宅では照明や配線を自由に変更できないこともあり、古い家電をそのまま使い続ける家庭も多い。展示会場のように、同じメーカーの新しい製品をそろえた環境を、どの家庭でも再現できるわけではない。
そこで重要になるのが、メーカーが違う機器同士をつなぐための共通規格だ。スマートホームでは、Connectivity Standards Allianceが策定した「Matter」の普及が進んでいる。Amazon、Apple、Google、Samsungなどが参加する規格で、Matterに対応した機器なら、メーカーが異なっていても連携させやすくなる。
Matterが普及すれば、Appleにとっても利点がある。Apple Homeに対応する機器の選択肢が増えれば、利用者はApple以外のメーカーが販売する照明やセンサーなども組み合わせやすくなる。SamsungやLGにとっても、自社の家電をほかのメーカーのスマートホーム環境で使ってもらいやすくなる。
さらに注目したいのが、Appleと家電メーカーとの協業。AppleとLGがスマートホーム関連機器を共同開発しているとの報道が事実であれば、Appleは自社で冷蔵庫や洗濯機などを開発しなくても、LGの家電と連携することで、家庭内での存在感を高められる可能性がある。
Appleが得意とするiPhoneやApple Watchとの連携、個人情報の保護を生かしながら、LGの幅広い家電と組み合わせられれば、スマートホームの使い勝手が変わるかもしれない。一方、LGにとっても、Apple製品を使う人たちに自社の家電を知ってもらい、購入を検討してもらうキッカケになる。
スマートホームをめぐる競争は、音声アシスタントの性能や専用機器の使いやすさだけでは決まらなくなっている。AmazonはAlexaと幅広い対応機器を通じて家庭内の操作をまとめ、GoogleはAIを使って自然な会話や周囲の状況の理解を目指している。Appleは自社製品同士の連携を生かし、家庭内で使える端末やサービスを増やそうとしている。そしてSamsungとLGは、家電そのものに接続機能やAIを組み込み、家電の買い替えを通じてスマートホームを広げようとしている。
今後の普及を左右するのは、利用者が難しい設定を意識せずに便利さを感じられるかどうか。スマートホームを使うための準備に手間がかかり、機器ごとに別のアプリを使わなければならない状態では、使い続ける人は限られる。一方、家電を買い替えるだけでほかの機器とつながり、AIが生活の状況に合わせて家電を動かしてくれるようになれば、スマートホームは今より身近なものになる。
Appleの10月13日のイベントは、同社がこうした変化にどう対応するのかを知る機会になりそうだ。新型ホームハブやHomePod mini、Apple TV 4Kが登場すれば、Apple Homeを使うための選択肢が増える。しかし、SamsungやLGが進めているように、家電そのものにスマートホーム機能が組み込まれていく流れも見逃せない。
AppleがiPhoneを中心に築いてきた製品同士のつながりを家庭内にまで広げるには、自社製品を使いやすくするだけでなく、他社の家電やサービスとも自然に連携できることが重要になる。スマートホームが専用のスマートスピーカーだけでなく、家電そのものを通じても使えるようになるなか、Appleがどのような役割を担おうとしているのか。今回のイベントでは、個々の製品の仕様に加え、その先にある同社の戦略にも注目したい。

