
米Appleが、イスラエルのAI新興企業「Q.ai」を買収したことが明らかになった。「Q.ai」は、声を出さずに意思を伝える「サイレントスピーチ(無音発話)」や、微細な顔の筋肉の動きを検知するAI技術を開発している企業だ。
買収額は公表されていないが、英Financial Timesは約20億ドル(約3060億円)と報じており、2014年のBeats買収(約30億ドル)に次ぐ、Apple史上2番目に大きな買収案件となる可能性がある。
創業者らは1月29日(現地時間)、LinkedIn上で買収完了を発表した。Appleもロイター通信に対し、Q.aiを「画像処理と機械学習を用いた新しい体験を切り開く注目すべき企業」と評価している。
声を出さずにAIを操作する「サイレントスピーチ」技術
Q.aiは2022年創業の非公開企業で、音声信号処理と機械学習を専門とする。特に、ささやき声の解釈や、騒音環境下での音声強調、さらに顔の筋肉の微細な動きを読み取る技術を強みとしている。
同社の特許技術では、頬や口周辺の「皮膚のわずかな動き(facial skin micro movements)」を光学センサーで検知し、ユーザーが実際に発声しなくても、何を伝えようとしているかをAIが理解する仕組みが想定されており、電車内や会議中など声を出しにくい場面でも、AIアシスタントを操作できるようになる可能性がある。
この技術は、ワイヤレスイヤホン「AirPods」やスマートグラス、空間コンピュータ「Vision Pro」など、Appleのウェアラブル製品との親和性が高いとみられる。口の動きだけでSiriやApple Intelligenceを操作する、といった新しいユーザー体験につながる可能性がある。
Q.aiの共同創業者でCEOのアヴィアド・マイゼルズ氏は、かつて3Dセンシング技術企業「PrimeSense」を創業した人物でもある。PrimeSenseは2013年にAppleが買収し、その技術は後にiPhoneの「Face ID」の基盤となった。つまり、今回のQ.ai買収は、Appleにとって同氏との2度目の大型ディールとなる。
買収後、創業チームはAppleに合流する見込みだ。Q.aiにはこれまで、Google VenturesやSpark Capital、Kleiner Perkinsといった有力ベンチャーキャピタルが出資していた。
Appleは近年、「Apple Intelligence」を軸に生成AI機能の拡充を進めているが、競合他社と比べると大型買収は限定的だった。ティム・クックCEOは2025年の決算説明会で「ロードマップを加速させるM&Aには前向きだ」と発言しており、今回のQ.ai買収はその姿勢を象徴する動きとも捉えられる。
イヤホンやスマートグラスが “AIウェアラブル端末” として進化する背景に、今回のような声を出さずに操作できるインターフェースはこれからのAIデバイスにおけるスタンダードな仕組みになる可能性がある。AppleはQ.aiの技術を取り込み、SiriやVision Pro、AirPodsなどのデバイスにおいて新しいAI体験を確立していくことを狙っているとみられる。
情報ソース
- Apple buys Israeli start-up Q.AI for close to $2bn in race to build AI devices
- Apple acquires Israeli audio AI startup Q.ai | Reuters
- Aviad Tamir | LinkedIn
