3月27日、Appleは米シカゴでスペシャルイベント「Let’s take a field trip.」を開催し、9.7インチiPadの新型モデル「iPad(第6世代)」を発表した。
同モデルは、2017年3月に発売した「iPad(第5世代)」のアップグレードモデルとなっており、本体デザインはほぼ変わらないが、「Apple Pencil」のサポートや「A10 Fusion」プロセッサの搭載など、性能が引き上げられているのが特徴だ。
しかし、ただのアップグレードモデルと侮ることなかれ。
これまでは上位モデル(iPad Pro)との差がハッキリと設けられていた9.7インチiPadだが、2018年モデルに至ってはその差を縮めることに成功した。
しかし、価格はiPad Proよりも大幅に安い。近いうちにiPadを買う計画があるなら、おそらくどちらのモデルも購入対象になり得るだろう。
同記事では、これからiPadを購入することを検討している方のために、どちらのモデルを購入するべきなのかをアドバイスする。購入した後に後悔しないためにも、両端末の違いを事前に把握しておこう。
「iPad (第6世代)」と「iPad Pro」の違いは計7点
「iPad(第6世代)」と「iPad Pro」の違いはどこにあるのだろうか。両モデルの違いをスペック比較表で確認していただきたい。その後、それぞれの端末の特徴や違いについて順を追って解説していきたいと思う。
まずは、両モデルの特徴を比較表で確認だ。
表の中の赤字は「iPad Pro 10.5インチ」だけの機能や特徴になっている。あらかじめ言っておくと、「iPad (第6世代) 」の機能は全て「iPad Pro 10.5インチ」に搭載されているため、それを念頭に入れて読み進めていってもらえたらと思う。
iPad (第6世代) | 10.5インチiPad Pro (2017) | |
---|---|---|
ディスプレイ | Retina ディスプレイ 耐指紋性撥油コーティング |
Retina ディスプレイ 耐指紋性撥油コーティング フルラミネーションディスプレイ 反射防止コーティング 広色域ディスプレイ(P3) True Toneディスプレイ ProMotionテクノロジー |
ディスプレイサイズ | 9.7インチ | 10.5インチ |
解像度 | 2,048 × 1,536ピクセル (264ppi) | 2,224 x 1,668ピクセル(264ppi) |
プロセッサ | A10 Fusionプロセッサ M10モーションコプロセッサ |
A10X Fusionプロセッサ M10モーションコプロセッサ |
外向きカメラ | 800万画素 F値:2.4 Live Photos オートフォーカス パノラマ(最大43Mピクセル) |
1,200万画素 |
ビデオ撮影 | 1080p HDビデオ撮影(30fps) 720p(120fps)スローモーションビデオに対応 ビデオの手ぶれ補正 撮影中にタップしてフォーカス |
4K HDビデオ撮影(30fps) 1080p HDビデオ撮影(30fpsまたは60fps) 720p HDビデオ撮影(30fps) 1080p(120fps)および720p(240fps)スローモーションビデオに対応 映画レベルのビデオ手ぶれ補正 連続オートフォーカスビデオ |
内向きカメラ | 120万画素 F値:2.2 Live Photos 720p HDビデオ撮影 HDR写真およびビデオ |
700万画素 F値:2.2 Retina Flash Live Photos 1080p HDビデオ撮影 自動HDR 自動手ぶれ補正 |
センサー | Touch ID(第1世代?) 3軸ジャイロ 加速度センサー 環境光センサー 気圧計 |
Touch ID(第2世代) 3軸ジャイロ 加速度センサー 環境光センサー 気圧計 |
スピーカー搭載数 | 2 | 4 |
通信 | Wi-Fi 802.11a/b/g/n/ac MIMO対応 Bluetooth 4.2 |
Wi-Fi 802.11a/b/g/n/ac MIMO対応 Bluetooth 4.2 |
バッテリー |
ビデオ / オーディオ再生 : 最大10時間 インターネット利用 |
ビデオ / オーディオ再生 : 最大10時間 インターネット利用 |
本体サイズ | 240.0 × 169.5 × 7.5 mm | 250.6 × 174.1 × 6.1 mm |
重量 | Wi-Fiモデル:469g Wi-Fi + Cellularモデル:478g |
Wi-Fiモデル:469g Wi-Fi + Cellularモデル:477g |
Apple Pencil | ○ | ○ |
Smart Connector | × | ○ |
カラー | シルバー ゴールド スペースグレイ |
シルバー ゴールド スペースグレイ ローズゴールド |
価格 | Wi-Fiモデル 32GB:37,800円 128GB:48,800円 Wi-Fi + Cellularモデル |
Wi-Fiモデル 64GB:69,800円 256GB:86,800円 512GB:108,800円 Wi-Fi + Cellularモデル |
①本体デザイン、カラーラインナップとストレージ容量
ここからは「iPad(第6世代)」と「iPad Pro 10.5インチ」の違いについて、一つずつ解説していきたい。
まずは本体デザインについてだが、「iPad (第6世代)」は昨年発売した「iPad (第5世代)」から基本的に変わっていない。ディスプレイサイズも9.7インチで、ホームボタンも引き続き搭載。「iPad Air」時代からのデザインを踏襲している。
従来通り、背面カメラの出っ張りはなし。「iPad Pro」シリーズで背面カメラが出っ張っていることに不満を持つユーザーも多いが、そのストレスは「iPad(第6世代)」では発生しない。
対する「iPad Pro 10.5-inch」は画面サイズが10.5インチと一回り大きめだ。その分、「iPad (第6世代)」に比べると本体サイズはやや大きくなるものの、ベゼルを狭くすることで大画面化を実現しているため、そこまで端末サイズに違いがあるわけではない。
ただし、「iPad Pro 10.5-inch」は背面カメラが出っ張っている。机の上に置いた時にガタガタすることはないが、背面の「美しさ」に関しては「iPad (第6世代)」に軍配か。
そのほか、本体デザインに関しては両モデルともに大きな違いはない。どちらのモデルを買うべきかは、これから解説していく性能面や価格面で選んでいくべきだろう。
ただし、ひとつ忘ひとつれてはいけないのは本体カラーとストレージ容量のラインナップに違いがあるということだ。
「iPad Pro 10.5インチ」は4色のカラーが用意されているのに対し、「iPad (第6世代)」は3色しか用意されていない。不足しているのはローズゴールド、ピンク系のカラーだ。是が非でもピンク系のカラーが欲しい方は、「iPad (第6世代)」を選択することは不可能だ。
iPad (第6世代) | 10.5インチiPad Pro (2017) | |
---|---|---|
カラーラインナップ | シルバー ゴールド スペースグレイ |
シルバー ゴールド スペースグレイ ローズゴールド |
ストレージ容量 | 32GB / 128GB | 64GB / 256GB / 512GB |
また、ストレージ容量も「iPad Pro 10.5インチ」は最大512GBモデルが用意されているが、「iPad (第6世代)」は最大128GBモデル。iPadに大量のデータを突っ込む予定の方は、「iPad (第6世代)」を選ぶべきではないのかもしれない。
ちなみに、筆者は「iPad」に大量のデータを入れることはほぼないため、正直なところ128GBもあれば十分だと感じているが、心配な方は「iPad Pro 10.5インチ」の256GBモデル以上をどうぞ。
②処理性能は「iPad Pro」の方が上
購入した端末を長く使うためにも、購入する端末がどれほどの性能を持っているかを把握しておくことはとても大事だ。
「iPad Pro 10.5インチ」には「A10X Fusion」という新しいプロセッサが搭載されているが、「iPad(第6世代)」には1世代前の「A10」プロセッサが搭載されている。このプロセッサは2016年に発売した「iPhone 7 / 7 Plus」に採用されたものだ。
結論から言うと、性能は「iPad Pro 10.5インチ」の方が上。ベンチマークスコアから両者のプロセッサの間には約20%ほど差があると考えていいだろう。やはり処理性能は高いに越したことはない。
Macを使う時のようにマルチタスクをバンバンこなし、動画のエンコードやグラフィックツールで画像・動画編集をビシバシ。こういった作業を、iPadですることを想定している方は悩まず「iPad Pro」を購入した方が作業が捗るはずだ。また、3Dオンラインゲームなど高負荷のかかるアプリを遊ぶ場合にも、高スペックなプロセッサが必要になるかもしれない。
ただ、前から疑問だったのだが、これほど高性能なタブレットを一体どれだけのユーザーが必要としているのだろうか。いくら「iPad Proはコンピュータのようだ」とは言っても、Macで行うレベルの作業をタブレットのみでこなすユーザーは多分そこまで多くはないだろう。
「A10X Fusion」プロセッサと「A10」プロセッサの違いに関してはそこまで大きな差があるものでもないため、わずか4万円で購入できる「iPad(第6世代)」を購入したとしても処理性能に困る機会はさほど多くない気もする。
ちなみに、従来モデルに比べるとCPU性能は40%、グラフィック性能は50%高速化したとのこと。これはAppleの公称値だ。
③ディスプレイ技術は「iPad Pro」の圧倒的勝利
筆者がタブレットで最も重要だと考えているもののひとつが、ディスプレイ技術。「iPad Pro 10.5インチ」と「iPad(第6世代)」との間には実は大きな壁が存在するのをご存知だろうか。
それは「反射防止コーティング」と「広色域(P3)ディスプレイ」「True Toneディスプレイ」「ProMotionテクノロジー」を搭載しているのは「iPad Pro」だけであるという事実。
「反射防止コーティング」とは、画面に差し込む光の反射を抑える技術だ。iPadは外に持ち出すことが多い端末だが、外で使用する際の大敵は「太陽の光」つまり「直射日光」だ。
直射日光が画面に当たると反射して見づらくなる。それを防ぐ仕組みが「iPad Pro 10.5インチ」には搭載されており、「iPad(第6世代)」には搭載されていないのだ。
室内で使うことをメインに考えている方はあまりこの辺りを気にする必要がないとも言えるが、外で使うことが多いのに同機能を搭載していない「iPad(第6世代)」を購入するべきではない、というのが筆者の考え。
また、周囲の明るさや色味に応じて、自動的にディスプレイの色合いを変える技術「True Toneディスプレイ」も搭載されていないのもひとつ気になるところ。同機能は必須というわけではないものの、白の照明下では画面を白く描写し、暖色系の照明下では褐色系の色に自動的に変化するため、画面がとても見やすくなる。特に、自宅の照明に暖色系の色を使っている方は同機能は重要だろう。
残る「広色域(P3)ディスプレイ」「ProMotionテクノロジー」についてだが、「iPad Pro 10.5インチ」を選ぶ最大の理由がここにある。「iPad Pro 10.5インチ」は「広色域(P3)ディスプレイ」が搭載されており、コンテンツ本来の色を正しく鮮やかに表現することが可能だ。
また、「iPad Pro 10.5インチ」の画面は高リフレッシュレート(120Hz)に対応しているため、画面がヌルヌルと滑らかに描写されるという点も重要だ。写真や映像(特に映像)を見る機会の多い方は、できれば「広色域(P3)ディスプレイ」と「ProMotionテクノロジー」を搭載したモデルを選びたいところ。ゲームをプレイする場合も然りだ。
ただし、裏を返せばこれらのディスプレイ技術が不必要なこともある。例えばブラウジングやメール、読書やYouTubeなどの映像配信サービスを視聴するために使う場合など。
このあたりは筆者がいくら説明するよりも、読者の方が一番分かっているはず。使う用途によってどちらのモデルを購入するべきなのかは変わってくる、ということを頭に入れておこう。
④搭載スピーカーは「iPad Pro」が倍
「iPad(第6世代)」に搭載されているスピーカー数は全部で2つだ。ステレオスピーカーではあるものの、やはり4つのスピーカーを搭載している「iPad Pro」に比べて音圧が足りないのも事実だ。
筆者は「iPad Pro 10.5インチ」を所有しているが、同モデルに搭載されているスピーカーは音が部屋全体に響き渡るほどのパワーを持っていることを知っている。外部スピーカーがないときでも、十分に満足できる音を流すことが可能だ。
ただし、それは外部スピーカーがない時の策。やはり「iPad Pro」が出せる音にも限界はあるため、家でじっくりと音楽を聴くときは、やはりレベルの高いスピーカーを駆使したいところだ。
よって、iPadのスピーカーに高い音質を求める必要はさほどない、と個人的には考えている。もしiPadの音質を気にして高い「iPad Pro」を購入するくらいだったら、安価な「iPad(第6世代)」を購入して、その差額を外部スピーカーに注ぎ込んだ方が良いと考えるからだ。
外部スピーカーはiPad以外からも音を出すことができる上に、製品によっては防水機能を持っていたりとiPadにできないことだってある。もし良いスピーカーを探しているなら、Appleが今度発売予定の「HomePod」を購入するのも考えても良いかもしれない。
「HomePod」は349ドルと、だいたい「iPad(第6世代)」と「iPad Pro(10.5インチ)」の差額ぐらいだ。まだいつ発売するのかは分からないが、「AirPlay」に対応しているため、「iPad」から音楽をかけるくらい造作もないことだ。
⑤カメラ性能は圧倒的に「iPad Pro」の勝利
ここからは、意外と軽視されがちなiPadのカメラ性能についてだ。
多くのユーザーは「iPadにカメラは必要ない」と考えているかもしれない。でも、それは少し考えを改める必要もあるのかもしれない。
Appleは「iOS 11」でAR機能を追加した。拡張現実と呼ばれる同機能は、現実の世界に仮想オブジェクトを置き、現実の世界を”拡張”することができる。
AR機能を活用するためにはデバイスに搭載されているカメラが必要。カメラを通してAR世界を覗き込む「ファインダー」としての役割が「iPad」には任されているのだ。
この体験をよりリアルにするためには性能の高いカメラが搭載されていることも重要なのだが、「iPad Pro 10.5インチ」のカメラ性能は1,200万画素とそこそこ高い。
「iPad(第6世代)」も800万画素カメラが搭載されているが、約400万画素の差がつけられている。また、光学手ぶれ補正も搭載されていないなど、カメラ性能に関しては大きな違いがある。iPadのカメラを使って何かをするなら、やはり「iPad Pro」を選ぶ必要があるだろう。
ただし、これはあくまでもiPadのカメラを使う機会のある場合の話。今後、AR機能を利用できるアプリケーションは徐々に増えてくることが予想されるが、特にそういった物に興味のない方はカメラ性能にこだわる必要はないだろう。
⑥「iPad(第6世代)」にはSmart Connectorが搭載されていない
「iPad(第6世代)」は「Apple Pencil」には対応したものの、「iPad Pro」にある「Smart Connector」は残念ながら搭載されていない。
Smart Connectorとは、iPadの側面にある3つの磁気接点のこと。この部分を通してiPad側からアクセサリに電力を供給したり、逆に電力をiPad側に受け取ったりすることができる。
同コネクターに対応したアクセサリはまだ少ないのだが、確実にiPadを便利に使うことができる純正アクセサリが存在する。それは「Smart KeyBoard」。
iPadで文字をバチバチ打つ機会が多い人からすれば、同キーボードはiPadのシステムキーボードよりも打ちやすく、必須アイテムとも言える。
しかし、「iPad(第6世代)」は「Smart Connector」が搭載されていないため、この恩恵を得ることができない。一応、Logitechからスタンドとキーボードが一体化した「Rugged Combo」がリリースされるようだが、こちらは学校向けアクセサリになる可能性があり、一般ユーザーが購入することができない可能性がある。
したがって、「Smart Connector」を使って大量に文字を打つ必要がある場合は「iPad Pro」一択ということに。もしどうしても「iPad(第6世代)」にしたいなら、Macを使って文章を打ち込み、メモ帳でiPad側に共有するなどの一手間をかければ使えないこともないかもしれない。
⑦「iPad(第6世代)」は驚異的な安さ
ここまで「iPad(第6世代)」と「iPad Pro 10.5インチ」の違いについて説明してきたが、ここまで読んでいただいた読者の方から「iPad (第6世代) が優れている点なんてひとつもないじゃないか」という声も聞こえてきそうだ。
しかし、最後に説明しなくてはいけない項目がある。「iPad(第6世代)」の最大の凄さ、「価格」についてだ。
iPad (第6世代) | 10.5インチiPad Pro (2017) |
---|---|
Wi-Fiモデル 32GB:37,800円 128GB:48,800円 Wi-Fi + Cellularモデル |
Wi-Fiモデル 64GB:69,800円 256GB:86,800円 512GB:108,800円 Wi-Fi + Cellularモデル |
上記表が「iPad Pro」と「iPad(第6世代)」の価格。両者の価格はかなりの差が開いており、ストレージ容量に差はあるものの最も安いモデルで3万2000円ほどの差がある。
「Apple Pencil」にも対応し、処理性能は「iPad Pro 10.5インチ」に肉薄。それで3万2000円も安いとなればお得に感じる人も多いのではないだろうか。
「Smart Connector」がないこと、カメラ性能やディスプレイ性能で劣る「iPad(第6世代)」だが、カジュアルにiPadを使いたい方にとってはもしかしたら「iPad(第6世代)」の方が魅力的に映るかもしれない。
まとめ:どちらを買うべきかはユーザーの用途次第
製品価格の高さで定評のあるAppleが、なぜここまで「iPad(第6世代)」をお得感のある端末にしたのかというと、同モデルは主に教育機関や学生向けに作られたからだ。
Appleは今回の発表イベントをシカゴの高校で行なっており、学校や教職員、学生向けのサービスや新製品を多数発表している。「Apple Pencil」をサポートしたのも学生がiPadを使って学習しやすくするため。
ただし、実際に「iPad(第6世代)」の性能を深く掘り下げていくと、学生だけでなく一般ユーザーにとっても十分な仕上がりであることがわかる。
もちろん、アレもコレもするなら確実に「iPad Pro」を選ぶべきだとは思うが、重い作業はMacに任せて、iPadでは動画を見たり本を読んだりと軽い作業を任せる程度だったら十分すぎる一台だと言えるだろう。
もし、これからタブレットを購入することを検討しているなら、「iPad(第6世代)」も購入の検討に入れても良いと筆者は思う。
ただ、安さだけに目を向けて「iPad(第6世代)」を選ぶことはやめておいた方がいい。じっくり熟考した上で、どちらを購入するかを決めていただけたらと思う。
性能を取るか、価格を取るか。同記事を最後まで読んだあなたならきっと、買うべき1台はどちらなのか、答えはすでに出ているのではないだろうか。