Metaは、新型MRヘッドセット 「Meta Quest 3」 を2023年10月10日に発売した。
「Meta Quest 3」 は、2020年10月に発売した 「Meta Quest 2」 の後継スタンドアローン型MRヘッドセット。上位モデルにあたる 「Meta Quest Pro」 がカラーパススルー対応のMRヘッドセットであるのに対して、部屋のガーディアンを設定するためのグレースケールパススルーのみに対応し、VR専用ヘッドセットという印象が強かったのが先代 「Meta Quest 2」 だった。
しかし、今回の 「Meta Quest 3」 はカラーパススルーに対応するなど様々ブラッシュアップ。現実世界の映像にバーチャルコンテンツを組み合わせる 「MR (複合現実)」 コンテンツが本格的に楽しめるようになるなど、上位モデルの 「Meta Quest Pro」 の機能を安価に手に入れられるように。
そして気になるお値段は、74,800円(税込)〜とMRヘッドセットとしてはお手頃。上位モデルの 「Meta Quest Pro」 の半分の価格で、同ヘッドセットと同等の体験が一部できるということで、XR界隈では大きな注目が集まっているデバイスのひとつである。
発売に先立ち、Metaから「Meta Quest 3」 の実機をお借りして、どんな体験ができるのかをひと足さきにチェックすることができた。そこで本稿では、「Meta Quest 3」 の先行レビューをお届けしたい。
「Meta Quest 3」 のデザインをチェック
それでは、さっそく 「Meta Quest 3」 のデザインをチェックしていこう。
基本的には先代モデルの 「Meta Quest 2」 のデザインを踏襲しながらも、パンケーキレンズを採用したことによってヘッドセット自体がスリム化。さらに、ヘッドセットを頭で支えるストラップ部分が新たにY字型になった。
そして、最大の変化とも言える前面の三つ目。ここにはカラーパススルーを実現するための2つのRGBカメラと深度センサーが搭載されている。左右の眼がRGBカメラ、中央の眼が深度センサーになっている。
細かくチェックしていく。まずはヘッドセットのゴーグル部分だが、パンケーキレンズの採用でかなり薄くなっていることがお分かりいただけるだろうか。上記写真が先代の 「Meta Quest 2」 と比較したものだが、半分以下に薄くなっている。
本体サイズは160×184×98mmで、重量は515g。重量は先代モデルからわずかに増えている (先代は503g) ものの、Y字型のストラップで頭部にかかる重さを分散させるためか、重量は増えているのにむしろ若干軽くなっているように錯覚するのが不思議なところ。
また、Y字型のストラップのおかげで動き回りながら楽しむコンテンツでも安定感がアップ。ずり落ちそうになることが少なくなった。内蔵バッテリーを後部に搭載して前後の重量バランスを考えた 「Meta Quest Pro」 に比べると劣るものの、それでも 「Meta Quest 2」 時代よりも安定して装着できているように感じている。装着感はかなり良くなったと言えるだろう。
電源ボタンは本体左側から右側に配置が変更され、ボタンの形状も丸型になった。先代モデルの頃から押しづらさは感じてはいなかったが、手探りで探しやすくなった。
音量調節ボタンは変わらず本体右下に搭載されている。右側を押すことで音量アップ、左側を押すことで音量ダウンだ。
本体左下のダイヤルはIPD (瞳孔間距離 ≒左右のレンズ同士の距離) を調節するためのもの。先代モデルは58mm/63mm/68mmの3段階で調整できたが、無段階式の調整に戻ったことでより柔軟に調節できるようになった。調節可能な範囲は53mm〜75mm。
フェイスパッド部分は、従来よりも柔らかな素材が採用されたことで快適性と安定感がアップ。
フェイスパッドの内部空間は従来よりも深くなったことに加えて、内側のボタンを押すことで4段階で長さの調整ができるようになり、眼鏡ユーザーも装着しやすくなった。
これにより、先代モデルに同梱されていた 「眼鏡スペーサー」 は不要になったため、今回からは同梱されなくなっている。もし眼鏡を装着したくない場合は、専用の度付きレンズ (7,499円/税込) を購入して装着することも可能だ。
ヘッドセットの充電やPCとの接続に利用するUSB Type-Cコネクタは、本体左側のヘッドストラップアームの根本に搭載されている。先代モデルと位置はほとんど変わらないため、同じような感覚で使えるはずだ。
右側のへッドストラップアームには、3.5mmヘッドホンジャックが搭載されている。オーディオデバイスとはBluetoothでも接続することは可能だが、有線派の人には嬉しい仕様。
内蔵スピーカーは、左右のヘッドストラップアームに2基ずつ搭載されている。ストラップアームの前と後ろにそれぞれ上下方向に搭載されているため、ストラップアームの後方のみに搭載されていた先代モデルに比べてさらに立体的に音が広がり、より高い没入感を得ることができる。音量は、「Meta Quest 2」 に比べて40%向上している。
コントローラーは、これまでの 「Meta Quest 2 Touchコントローラー」 からトラッキング用リングを取っ払った 「Meta Quest 3 Touch Plusコントローラー」 に変更されている。
「Meta Quest Pro」 に付属する 「Meta Quest Touch Proコントローラー」 のようなセルフトラッキングやバーチャルなスタイラスペンとして使えるといったことはないが、高度なハプティックフィードバック 「TruTouchハプティクス」 に対応しているため、より高い没入感を得ることができるように。
コントローラーは、単3形電池で駆動する方式。電池が切れたら都度交換が必要になるものの、バッテリー内蔵の 「Meta Quest Touch Proコントローラー」 と比べて軽量で、充電忘れも起こらないのはメリットと捉えることもできる。
ちなみに、「Meta Quest 3」 は 「Meta Quest Touch Proコントローラー」 と互換性があるため、同コントローラーの機能をフルで利用することが可能。カメラの視野外にコントローラーを持っていってもトラッキングすることが可能だ。
解像度が向上したディスプレイ
「Meta Quest 3」 には片眼2064×2208ドット (1218ppi) の2つのディスプレイが搭載されている。先代モデルの 「Meta Quest 2」 が1832×1920 (773ppi) だったので、解像度が向上している。
リフレッシュレートは72Hz、80Hz、90Hz、120Hzに対応。120Hzは現在は試験中であるとのことだ。
実際に装着してディスプレイを見てみると、先代モデルに比べて解像感は明らかに増したように感じている。ホーム画面に並んでいるアプリのアイコンや文字の輪郭は、よりパリッと見えるようになり、先代モデルで感じていたボンヤリ感はかなり少なくなった。そもそもホーム画面に筆者が設定している日本の温泉宿の映像ですら、綺麗すぎて驚いたものだ。
ディスプレイの解像度が上がったことで、ゲームなどのコンテンツでの体験がリッチになったのはもちろんだが、メニューを開いて設定を変更するなどの何気ないひとつひとつの操作でも、映像が綺麗になったことで見やすさが向上した。
また、筆者が個人的に嬉しかったのは、ブラウザが見やすくなったこと。文字の輪郭がハッキリしない先代モデルの 「Meta Quest 2」 のブラウザで細かい文字を読むのは結構ストレスで、ちょっとした調べごとでさえもヘッドセットを外して別のデバイスを使うことが多かった筆者だが、「Meta Quest 3」 の高解像度ディスプレイなら細かな文字を読むのも苦ではなく、わざわざ調べごとをするたびにヘッドセットを外す必要がなくなって便利になった。
また、視野角も向上した。先代モデルでは水平90度、垂直90度だったのに対し、「Meta Quest 3」 では水平110度、垂直96度に広がった。より広い視野でコンテンツを観ることができるようになりコンテンツへの没入度が向上したほか、パススルー時の風景もゴーグルを通して見ている、というよりも自らの眼で見ている、という感覚に近いように感じる。
実際に『Dungeons Of Eternity』をプレイしてみたところ、建物やゲーム内のキャラクターなどの質感がよりリアルに感じられるようになっていた。さすがに遠くのものやキャラクターの指の1本1本を凝視するとジャギー感はまだあるものの、目を細めてチェックしなければあまり気にならないところまで来ている。
グラフィックの向上は、「Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2」 を搭載したことも影響している。先代モデルの 「Meta Quest 2」 に比べて2倍のグラフィック処理能力を手に入れたことで、鮮明なディティールで没入感のある体験が楽しめるという。
先ほど紹介した『Dungeons Of Eternity』でも、暗い場所にある松明の光とそれによって発生する影の表現がよりリアルになっていて、映像品質の向上が感じられた。
ただし、グラフィックが良くなり没入感が高まったのが原因か、ゲーム内で動き回ることが多いコンテンツでは若干VR酔いに陥り、30分以上プレイし続けることが難しかったケースもあった。VRコンテンツには慣れているつもりだったが、「Meta Quest 3」 のディスプレイでコンテンツを本格的に楽しむにはもう少し慣れが必要かもしれない。
パススルー時の映像品質はかなり高め
「Meta Quest 3」 は、新たにフルカラーパススルーに対応したことで、ヘッドセットを装着した状態でも部屋の様子が見えるように。
これは、「Meta Quest 3」 に搭載されたカメラをHMD内のディスプレイに投影することで実現している。先代の 「Meta Quest 2」 でもパススルー自体は可能だったが、グレースケールな世界で 「見える」 程度でしかなく、また利用する場面もガーディアンを設定する時など限られていた。
しかし、「Meta Quest 3」 のカラーパススルーは想像以上に現実に近く驚いた。もちろん自分の眼を使って見る景色に比べると粗さはあるし、暗い部屋だとノイズが目立ってくるものの、ヘッドセットを被る前の景色がちゃんとディスプレイには広がっていて、テーブルに置いてあるコップやリモコンを触ることだって普段と同じように手にすることができる。
Metaによると、「Meta Quest 3」 のパススルー解像度は、先代の 「Meta Quest 2」 に比べて10倍、上位モデルの 「Meta Quest Pro」 に比べて3倍になっているという。
以前、「Meta Quest Pro」 のカラーパススルーを体験した際には、カメラを通して見たもの (例えば家具など) はあまり立体感がなく、単純に周囲の様子を映し出しているだけに感じられたが、「Meta Quest 3」 ではそれぞれに立体感が感じられ、現実世界との差異はかなり少なくなっていたように感じる。
「Meta Quest 3」 のカラーパススルーはホーム画面で利用することができるほか、MRに対応したコンテンツでも利用することが可能だ。
今回はMRのために用意されたデモアプリ『First Encounters』を体験してみた。最初はパススルーによって現実の部屋の映像が表示されているのだが、その部屋の壁を突き破るようにエイリアンが登場し、レーザー銃を使ってエイリアンたちを倒していく。
レーザー銃から出た光線は、パススルー表示された椅子などの家具にも当たるようになっていて、まるで現実の世界でエイリアンと戦っているかのような不思議な感覚を味わうことができた。
ジェスチャーコントロール時などに自分の手をじっと見つめるなど、自分に近いところを見ようとするとわずかに映像に歪みが発生したり、しばらくパススルー映像を見続けていると目がチラチラしてくるなど、まだまだ実際の目で見ているような感覚にはまだ遠いが、それでも現在市場に出回っているコンシューマ向けMRヘッドセットの中ではかなり高品質な仕上がりになっていると感じている。
ちなみに、パススルーのON/OFFは本体の左右どちらかを指でトントンとダブルタップすることで簡単に切り替えられる。飛行機や新幹線などの乗り物で使うときにはパススルーをオフにして自分だけのバーチャル空間を楽しみ、自宅で使うときにはテーブルの上の飲み物などをすぐ取ることができるようにパススルーをオンにしておく、という使い分けができる。
「Meta Quest Pro」 との違い
MRコンテンツが利用できるようになったことで、上位モデルの 「Meta Quest Pro」 にかなり近い性能を手に入れることができた 「Meta Quest 3」 。むしろ高解像度ディスプレイや、「Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2」 の搭載によって 「Meta Quest Pro」 よりも高性能なヘッドセットに仕上がっている感もあるが、具体的な違いはどこにあるのか。
まず最も重要な違いがフェイストラッキングとアイトラッキングの対応有無。「Meta Quest Pro」 のみが利用可能で、自分の表情など顔のパーツの動きをトラッキングしてコンテンツに反映させることができる。
例えばMetaが配信しているバーチャル会議アプリ 「Meta Horizon Workrooms」 では、自分の分身となるアバターの目線や口といった顔のパーツがユーザーの表情に応じて細かく動き、現実世界において対面で話をしているかのようなリアルさを感じることができる。これを実現できるのは、現時点では 「Meta Quest Pro」 のみということになる。
また、「Meta Quest Pro」 のほうがDRAMが4GB多かったり、色域がsRGB 129%だったり、「Meta Quest Pro」 に付属する 「Meta Quest Touch Proコントローラー」 のようなセルフトラッキングやバーチャルなスタイラスペンも利用することはできないが、コントローラーに関しては、前述したように 「Meta Quest 3」 は 「Meta Quest Touch Proコントローラー」 と互換性があるため、同コントローラーを別途購入してしまえばあまり差はなくなってしまう。むしろこれらの点を除けばほとんどが 「Meta Quest 3」 のほうが性能が高いため、いま購入するなら 「Meta Quest 3」 のほうが良いのではと思えてしまう。
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まとめ:カラーパススルーと高画質化で体験が大幅向上
「Meta Quest 3」 は、「Meta Quest Pro」 の機能や技術が導入されていることもあり、先代の 「Meta Quest 2」 から大きな進化を感じることができた。
特に筆者がワクワクしたのが、やはりカラーパススルーへの対応だ。MRコンテンツが楽しめるようになったのはもちろんのこと、自身の部屋にホーム画面を映し出すことで、ヘッドセットを装着した状態でも部屋のなかをウロチョロできるように。これはかなり大きな変化だった。
また、パンケーキレンズの採用で薄くなった本体と、重量を分散するY字型ストラップの採用により、ヘッドセットを被っている感覚がだいぶ軽減されたのも嬉しい点。
筆者はメガネ族の一員で、ヘッドセットの装着具合やメガネとの相性がとても気になるタイプの人間だ。先代の 「Meta Quest 2」 ではヘッドセットの重みですこしずつズレが生じてしまい文字が読みづらくなるため、定期的に位置を調整することが必要で、正直に言うと面倒に感じる部分があった。
その点 「Meta Quest 3」 では、『Beat Saber』など上下運動をする機会の多いコンテンツでなければ、ヘッドセットの装着位置が気になることはだいぶ少なく快適だった。ディスプレイの解像度があがって、IPD調節機能も無段階式になったことで、装着している間に 「見づらいな……」 と感じることはほとんどなくなっている。
メガネとレンズが干渉することもなく、スペーサーも不要なのも地味に嬉しいところ。「Meta Quest 2」 の装着感に不満を感じていた人は、「Meta Quest 3」 にアップグレードすることで快適なVR/MRライフを過ごせるようになるはずだ。
ちなみに、「Meta Quest」 シリーズも登場からそれなりに時間が経過したこともあり、同ヘッドセット向けのコンテンツはだいぶ拡充されてきた印象を受ける。今回のレビューで紹介したものはほんの一例に過ぎず、ゲームからビジネスシーンで利用できるアプリまで様々なコンテンツが用意されている上に、「Meta Quest 3」 向けのMR対応アプリケーションに関しては年内に50を超える予定であることも明かされている。もちろんSteamVR (PCVR) にも対応する。
Appleなど各社本腰を入れるVR/MR市場に、お手頃な価格でエントリーできるのが 「Meta Quest 3」 の大きな魅力。同ヘッドセットを入り口にXR世界を楽しんでみるのはアリなのではないだろうか。
なお、今後 「Meta Quest」 シリーズは、「Meta Quest 3」 「Meta Quest Pro」 だけでなく、従来の 「Meta Quest 2」 も継続販売する予定だ。「Meta Quest 2」 はエントリーモデルとして、「Meta Quest 3」 はより高品質なVR/MR体験を求めるユーザー向けのモデルとして、そして 「Meta Quest Pro」 はビジネスでの使用をメインに考えたユーザー向けのハイエンドモデルとして提供することで、性能面や価格面でユーザーの裾野を広げていく戦略をMetaは展開していくつもりなのかもしれない。