
ソニーのノイズキャンセリングヘッドホン「WH-1000Xシリーズ」は、2016年の初代モデルから約9年にわたり業界をリードし続けてきた。その中でも2022年登場の「WH-1000XM5」は、デザインを一新し、音質やノイキャン性能でも高い評価を受けたモデルとして記憶に新しい。
そして2025年、ソニーは最新モデルとなる「WH-1000XM6」を発表した。先代モデルで大胆に削除された折りたたみ機構が復活し、ノイズキャンセリング処理の心臓部には新開発のプロセッサ「QN3」を搭載。さらに、通話性能や装着感、細かな操作性の改善など、前モデルのフィードバックを着実に取り入れたブラッシュアップが施されている。
本稿では、WH-1000XM6と前モデルWH-1000XM5をスペック、デザイン、ノイズキャンセリング性能、音質、通話品質、価格の6つの軸で詳細に比較し、それぞれの強みと選ぶべきユーザー層を明らかにする。
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デザイン:折りたたみ機構の復活

WH-1000XM5では排除されていた折りたたみ機構が、WH-1000XM6で復活。各アームにヒンジが再び実装され、キャリングケースもよりコンパクトに設計された。これは、XM3やXM4ユーザーが長らく求めていた改善点であり、携帯性の面で大きな利点となる。
比較項目 | WH-1000XM5 | WH-1000XM6 |
---|---|---|
折りたたみ機構 | 非対応 | 対応(ヒンジあり) |
ケース形状 | 大型 | 小型・磁気クラスプ採用 |
また、XM6ではケースのジッパーが磁気クラスプに変更されており、片手でも開閉可能な操作性を実現している。
ノイズキャンセリング性能:12マイク+QN3プロセッサで強化

WH-1000XM6では、ノイズキャンセリング用マイクが従来の8基から12基に増加。加えて、新開発のHDノイズキャンセリングプロセッサ「QN3」を搭載。前モデルのQN1に対して処理能力が7倍に向上しており、よりリアルタイムな環境適応が可能になった。
比較項目 | WH-1000XM5 | WH-1000XM6 |
---|---|---|
ノイズキャンセリングプロセッサ | QN1 | QN3(7倍高速) |
ANCマイク数 | 8基 | 12基 |
環境適応NC | 対応 | 対応 (精度向上) |
特に、環境適応型NC(Adaptive NC Optimizer)は進化しており、屋内から屋外、交通機関への移動などでの騒音変化に、数秒以内で自動調整する挙動が強化されている。
音質:ドライバ刷新とプロ監修チューニング

WH-1000XM6では、新設計のドライバーユニットが採用され、ボーカルの明瞭度やディテール再現性が向上している。また、Sonyの傘下スタジオ(Sterling Sound、Battery Studios、Coast Mastering)の著名なマスタリングエンジニアが音質チューニングに参加。これにより、プロ仕様に近い音響再現を目指している。
両機種ともLDACやマルチポイント接続には対応しており、EQカスタマイズも可能。
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通話品質:マイク数増加とAIビームフォーミング
XM6では通話用マイクが4基から6基に増強され、AIビームフォーミングによる話者の音声分離精度が向上。周囲の雑音を抑えながら、よりクリアな音声伝送が可能になっている。
比較項目 | WH-1000XM5 | WH-1000XM6 |
---|---|---|
通話用マイク数 | 4基(ビームフォーミング対応) | 6基(ビームフォーミング対応) |
音声分離 | 高評価 | AI強化でさらに向上 |
操作性・ハードウェア改善点
いくつかのハードウェア面の細かな改良も加えられている。
- 電源ボタンが円形になり、ANCボタンとの触感識別が容易に
- 充電と有線再生の同時利用が可能に
バッテリー:変化なし
電池持ちは前モデルから変更なし。
- ANCオン時:約30時間
- ANCオフ時:約40時間
価格:さらなる値上げ
XM5の発売時価格は$399、XM6では$449へと$50の値上げとなった。これはAppleのAirPods MaxやSonos Aceと同等クラスに並ぶ価格帯であり、プレミアムヘッドホン市場での競争がより熾烈になっている。
モデル | 発売時価格(米国) | 発売時価格(日本) |
---|---|---|
WH-1000XM5 | $399.99 | 未発表 |
WH-1000XM6 | $449.99 | 未発表 |
スペック比較表

モデル名 | WH-1000XM5 | WH-1000XM6 |
---|---|---|
色(モデル) | ・ブラック ・プラチナシルバー ・スモーキーピンク | ・ブラック ・プラチナシルバー ・ミッドナイトブルー |
装着スタイル | オーバーイヤー | オーバーイヤー |
価格 | 56,100円 | 450ドル |
重量 | 約250g | 約254g |
ヘッドホンタイプ | 密閉ダイナミック型 | 密閉ダイナミック型 |
ドライバーユニット | 30mm | 30mm |
マグネット | ネオジム | ネオジム |
インピーダンス (Ohm) | 48 Ω(1 kHzにて)(有線接続時、POWER ON時) 16 Ω(1 kHzにて)(有線接続時、POWER OFF時) | 48 Ω(1 kHzにて)(有線接続時、POWER ON時) 16 Ω(1 kHzにて)(有線接続時、POWER OFF時) |
周波数特性 (Hz) | 4 Hz – 40,000 Hz | 4 Hz – 40,000 Hz |
周波数応答 (アクティブ) | 4 Hz – 40,000 Hz | 4 Hz – 40,000 Hz |
感度 (dB/mW) | 102 dB/mW(有線接続時、POWER ON時) 100 dB/mW(有線接続時、POWER OFF時) | 102 dB/mW(有線接続時、POWER ON時) 100 dB/mW(有線接続時、POWER OFF時) |
音量コントロール | タッチセンサー | タッチセンサー |
コードタイプ | 片出し(着脱式) | 片出し(着脱式) |
コード長 | 約1.2m | 約1.2m |
入力 | 金メッキL型ステレオミニプラグ | 金メッキL型ステレオミニプラグ |
マイク | 全指向性 | 全指向性 |
DSEE Extreme | ◯ | ◯ |
パッシブモード | ◯ | ◯ |
外音取り込みモード | ◯ | ◯ |
連続音楽再生時間 | 最大30時間 (NCオン)、最大40時間 (NCオフ) | 最大30時間 (NCオン)、最大40時間 (NCオフ) |
連続通話時間 | 最大24時間 (NCオン)、最大32時間 (NCオフ) | 最大24時間 (NCオン)、最大32時間 (NCオフ) |
バッテリー充電時間 | 約3.5時間 | 約3.5時間 |
バッテリー充電方法 | USB | USB |
Bluetooth | Bluetooth v5.2 | Bluetooth v5.3 |
有効距離 | 10m | 10m |
周波数帯域 | 2.4GHz帯(2.4000GHz-2.4835GHz) | 2.4GHz帯(2.4000GHz-2.4835GHz |
プロファイル | A2DP, AVRCP, HFP, HSP | A2DP, AVRCP, HFP, HSP, TMAP, CSIP, MCS, VCP, CCP |
対応オーディオフォーマット | SBC, AAC, LDAC | SBC, AAC, LDAC, LC3 |
対応コンテンツ保護 | SCMS-T | SCMS-T |
ノイズキャンセリング | ◯ | ◯ |
パーソナルNCオプティマイザー | ◯ | ◯ |
自動NCオプティマイザー | 自動NCオプティマイザー | アダプティブNCオプティマイザー |
外気圧最適化 | ◯ | ◯ |
外音取り込みモード | ◯ | ◯ |
クイックアテンション | ◯ | ◯ |
箱の中身 | キャリングケース、接続ケーブル、USBケーブル | キャリングケース、接続ケーブル、USBケーブル |
- 重量: WH-1000XM5が約250gなのに対し、WH-1000XM6は約254gとわずかに重くなっている。
- Bluetoothバージョン: WH-1000XM5はBluetoothバージョン5.2だが、WH-1000XM6はバージョン5.3になっている。
- プロファイル: WH-1000XM6は、WH-1000XM5で対応しているプロファイルに加え、TMAP, CSIP, MCS, VCP, CCPに対応した。
- 対応オーディオフォーマット: WH-1000XM6は、WH-1000XM5で対応しているフォーマット(SBC, AAC, LDAC)に加え、LC3にも対応した。
まとめ:買い替え判断の分岐点

項目 | WH-1000XM5 | WH-1000XM6 |
---|---|---|
折りたたみ | ✕ | ○(復活) |
ノイキャン | 高評価 | さらに強化(QN3+12マイク) |
音質 | バランス良好 | ボーカル明瞭度・音像精度向上 |
通話品質 | 良好 | AI+マイク増強で向上 |
価格 | $399 | $449 |
バッテリー | 最大40時間 | 最大40時間 |
WH-1000XM6は、WH-1000XM5をベースにした正統進化モデルだが、その進化は地味ながらも実用性の高い方向にしっかりとチューニングされている。特に、新たに搭載されたQN3プロセッサによるノイズキャンセリングの強化や、装着感の向上、通話品質のブラッシュアップなどは、日常的に使い込むユーザーほど恩恵を感じやすい改良点だ。
また、多くのユーザーが「なぜなくしたのか」と疑問を呈していた折りたたみ機構の復活は、モバイル用途での可搬性を重視する人にとって大きな魅力となる。デザイン上の大きな変化は少ないものの、「XM5で変えた部分を再評価し、最適解に調整し直した」というソニーの慎重かつ着実な開発姿勢がうかがえるモデルだ。
ただし、音質やバッテリー持続時間、基本操作などに大きな変化がないことを踏まえると、すでにWH-1000XM5を所有しており、それに満足しているユーザーにとっては「買い替え必須」とまでは言えない。特に、自宅やデスクワーク中心で使っている人にとっては、折りたたみ機構や通話強化の恩恵も限定的だろう。
一方で、これから新たに1000Xシリーズを購入しようとしているユーザーや、WH-1000XM3〜XM4あたりの旧モデルからの買い替えを検討しているユーザーにとっては、XM6が現在のベストバランスを持つフラッグシップモデルであることは間違いない。携帯性・快適性・性能のすべてが過去モデルよりも洗練されており、価格差を十分に正当化できる内容となっている。
総じてWH-1000XM6は、劇的な革新ではなく、“完成度の最適化”を図ったアップグレードモデルだ。派手さはないが、「長く付き合える一台」として、これからも国内外のノイズキャンセリングヘッドホン市場で強い存在感を放ち続けるだろう。
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(画像: SONY)