2020年9月、ソニーはユーザー待望の新型ノイズキャンセリングワイヤレスヘッドホン 「WH-1000XM4」 を発売した。
本製品は2018年9月に発売した 「WH-1000XM3」 の後継機にあたるモデル。約2年ぶりの新型機だ。「WH-1000XM4」 は前モデルの良さをそのままに、より高性能になったアクティブノイズキャンセリングやマイク音質の向上、ヘッドホンをつけたまま会話ができる新機能など、着実なアップデートを遂げているのが特徴となる。
今回筆者は 「WH-1000XM4」 を発売日に購入し、1週間ほど使って使用感をじっくりとチェックしてみたため、当レビュー記事で本製品の魅力をお伝えできればと思う。最新モデルが気になっている方、購入検討中の方はぜひ参考にしていただきたい。
デザイン:シンプルかつスマートな製品デザイン。ただし人によっては味気なさも感じるかもしれない
「WH-1000XM4」 のデザインは、前モデル 「WH-1000XM3」 から大きくは変わっていない。もともと 「WH-1000X」 シリーズは全体的に特徴的なパーツが少なく、ある意味 「シンプルそのもの」 であることが特徴とも言えるが、本製品もその遺伝子をしっかりと受け継いでいるようだ。
「WH-1000XM3」 から変わった点といえば、ヘッドホンの表面が光沢のある素材からマットな素材に変更されたこと。素材の変更に伴い触り心地もしっとりとして、より落ち着いた雰囲気になった。
ヘッドバンドは一般的なヘッドホンに比べると少し細身で、カチカチと一段階ずつ長さを調節することが可能。頭のてっぺんにあたるトップ部分の内側には柔らかいクッションが設けられていて、装着時に頭頂部への負担を軽減してくれる。
ヘッドホンには大きく分けて 「オンイヤー型」 「オーバーイヤー型」 の2種類のタイプが存在する。「オンイヤー型」 は耳の上にイヤーパッドをのせて装着するタイプで、「オーバーイヤー型」 はイヤーカップが耳をすっぽりと覆うタイプになるが、今回の 「WH-1000XM4」 はこのうちの 「オーバーイヤー型」 にあたる。
実際の装着感についてはあとで詳しく紹介するが、オーバーイヤー型はイヤーカップが耳をすっぽりと覆うため、外からの音を遮蔽し静かな環境で音楽が聴けるほか、長時間着けていても疲れにくいというメリットがある。
「WH-1000XM4」 のイヤーカップはオーバーイヤー型ということもありすこし大きめで、外側が平らなデザインになっている。両方のイヤーカップは内側に折りたためるようになっていて、付属のキャリングケースにコンパクトに収納することが可能だ。
また、イヤーカップには様々なボタンや接続ポートが用意されている。ひとつひとつ解説していこう。
左イヤーカップには電源ボタンとカスタムボタン、そして有線接続用の3.5mmヘッドホンジャックが搭載されている。
カスタムボタンとは、1回押しや2回押し、長押しなどの簡単な操作で特定の機能を使えるようにするためのボタンだ。初期設定では1回押しでノイズキャンセリング・外音取り込み・両機能オフの3つを順番に切り替えられるほか、長押しすることで髪型やメガネの有無、装着ズレ、気圧を検知し、ノイズキャンセリングの最適化ができる。専用アプリ 「Headphones Connect」 を使えば、Amazon AlexaやGoogle アシスタントを呼び出すよう変更することも可能だ。
イヤーカップ内の窪みは近接センサー
左イヤーカップの中には、ヘッドホンの着脱を検知する近接センサーが搭載。このセンサーによってヘッドホンを外したときに音楽の再生を停止する機能を実現している。
本製品にはNFCが搭載されていて、対応デバイスを左イヤーカップに近づけるだけで簡単にペアリングすることができる。イヤーカップ外側に小さく彫り込まれたNFCアイコンが目印。主にAndroidデバイスなどで役に立つだろう。
そして右のイヤーカップには、本体充電用のUSB Type-Cポートが搭載。1.5AのACアダプターを使用すると約3時間でフル充電できる。また、わずか10分の充電で5時間の再生が可能なクイック充電にも対応しており、突然のバッテリー切れへの備えもバッチリだ。
イヤーカップの外側にはタッチセンサーコントロールパネルが搭載されていて、指でタップしたり、特定の動きをすることで様々な操作をすることができる。具体的な操作方法は以下のとおり。
機能 | 操作 |
---|---|
再生・一時停止/電話を受ける・切る | ダブルタップ |
次の曲に進む | 指を前に滑らせて離す |
前の曲に戻す | 指を後ろに滑らせて離す |
音量を上げる | 指を上に滑らせて離す |
音量を下げる | 指を下に滑らせて離す |
また、ヘッドホンをつけた状態でも瞬時に周囲の音を聞くことができる 「クイックアテンションモード」 は、タッチセンサーコントロールパネルを手のひらで覆うようにすることで動作させることができる。急に誰かに話しかけられたり、電車のアナウンスを聞きたくなったら同機能が役に立つはずだ。
「WH-1000XM4」 は余計な装飾がなくシンプルなデザインが採用されているのが特徴で、本体のメカメカしさは一切なく、数あるオーディオデバイスの中でも比較的おとなしめの雰囲気に仕上がっているため、スーツなどのオフィスルックな服装にも合わせやすい。
カラーはブラックとプラチナシルバーの2色が用意されていて、今回筆者はプラチナシルバーをチョイスした。ブラックモデルにくらべるとふんわり柔らかい雰囲気で、ゴールドカラーの 「SONY」 ロゴも相まってちょっぴりゴージャス感が感じられる。
製品名も書かれている
ただしこのシンプルな外見は “スマート” と評価できる一方で、裏を返せばこれといった特徴がなく ”面白味に欠ける” とも言える。もしかすると人によっては長く使ううちに “飽き” が来てしまう方もいるかもしれない。
筆者はこれまでBoseやBeatsといったやや特徴的なヘッドホンを使ってきたこともあり、最初はこのシンプルなデザインが新鮮に感じていたものの、「SONY」 ロゴの主張が控えめなこと、また特徴的なパーツが少ないことなどから、製品への愛着はやや持ちづらいのでは、という印象を受けた。デザイン面に関しては各人好き嫌いがあるものだが、筆者の評価としてはあえて辛口に、「やや△」 とさせていただきたい。
付属してくるキャリングケースについても言及しておきたい。
ケースの表面はザラザラとした布のような素材が使用されていて、ハードケースよりも滑りにくく持ちやすい。ケース内部も柔らかい素材が使われているため、ヘッドホンを傷つけることなく綺麗にしまっておくことができる。
ケース内には仕切りが用意されていて、ヘッドホン収納時にイヤーカップ同士がぶつかって傷がつかないように工夫されている。また、仕切りの中には付属品のUSB充電ケーブルや航空機用プラグアダプター、有線接続用ケーブルも一緒に収納でき、このケースひとつで本体とすべての付属品を持ち歩くことが可能だ。
ヘッドホンケーブル(1.2m)と航空機用プラグアダプタが同梱。USB Type-Cケーブル(20cm)も同梱する
装着感:ほどよい押さえつけと柔らかクッションでふんわり頭を包みこむ
実際に 「WH-1000XM4」 を装着してみた。
前述したとおりヘッドホンには、「オンイヤー型」 「オーバーイヤー型」 の2つのタイプが存在するが、そのうちの 「オーバーイヤー型」 にあたる 「WH-1000XM4」 はイヤーカップが耳をすっぽりと覆う形状をしているため、装着時の負担が少なく長時間の使用に適している。
さらにユーザーの不快感を軽減するための工夫として、「WH-1000XM4」 のイヤーパッドはもちもちと弾力のある低反撥ウレタン素材による立体的縫製式が採用されている。おかげで、より耳や頭への負担が少なく装着時はいつも快適。長時間の使用もまったく問題ないだろう。
頭の締め付けもほどよいため多少頭を振っても動かない安定感で、常に音楽に没頭することができるだろう。筆者がこれまで使用してきた 「Bose Quiet Confort 35」 にくらべるとやや “包みこむ感” は負けるものの、それでも業界上位レベルの付け心地であると言える。
ただし、オーバーイヤーヘッドホンの宿命ともいえる “蒸れ” については依然として存在する。一般的に快適な温度(25度以下を想定)で使用する分にはほとんど気にならなかったが、気温30度以上の猛暑のなかで長時間使うのはやはり厳しいと感じた。先代モデルに比べたらやや快適になった気もしなくもないが、カップ内の蒸れで不快感を感じたときはこれまで同様にヘッドホンを外して中の蒸れを解消するといったアクションが必要だろう。
音質:同価格帯の製品のなかではとても優れている
「WH-1000XM4」 の音質は、率直に言って最上級グレードだ。
特筆すべきはバランスの良さ。低音域・中音域・高音域のどれかが突出しているということはなく、すべての音が見事に調和している。ただし決してフラットで面白みのない音というわけではなく、それぞれの音域にあわせた細かい調整が行われている印象を受けた。音割れやノイズなど、不快感を感じる要素も限りなく排除されている。
また、全体的に音が引き締められていて、ひとつひとつの音の粒がハッキリと鮮明に聞こえてくるのも本製品の大きな特徴だ。特に低音は目が醒めるような気持ち良さ。これにより弾むようなリズム感が生まれており、アップテンポな音楽も楽しむことができる。
もちろん、映画やドラマなどの映像作品を視聴するためのヘッドホンとしても最適だろう。
専用設計40mmHDドライバーユニットを搭載
「WH-1000XM4」 にはCDやMP3などの圧縮音源をSBC/AAC/LDACのコーデックでBluetooth再生する際に音質をハイレゾ級にアップスケーリングする 「DSEE Extreme」 機能が搭載されている。同機能により圧縮で失われてしまった音を再現し、圧縮音源でもハイレゾ級の音質で楽しむことができる。
DSEE Extremeによるアップスケーリング
さらにLDAC対応機器と接続する際に、ハイレゾコンテンツを従来のBluetoothの3倍の伝送量で実現する機能も搭載されている。
これらの機能は、どんなコンテンツでも音質に限りなくこだわりたいというユーザーにぴったり。最近は自分の持っているCDからスマートフォンに楽曲を取り込むユーザーもいれば、iTunes Storeなどから音源を購入するユーザー、そしてストリーミングで音楽を楽しむユーザーなど、スマートフォンでの音楽の楽しみ方も多様化していることから、あらゆる楽曲を高音質で楽しむことができるのは本製品の強みと言えるだろう。
ちなみにデフォルトの音では満足できない方のために、「WH-1000XM4」 にはいくつかのイコライザーが用意されている。これらを選ぶことでデフォルトの設定では味わうことのできない音を楽しむことができる。またイコライザーは自分で作ることができるため、ぜひお好みの設定で音楽を楽しんでいただければと思う。
ノイズキャンセル機能:いつでも静寂が得られる業界最高レベルのノイキャン
「WH-1000XM4」 の最大の特徴のひとつとして、強力な 「ノイズキャンセリング」 機能が挙げられる。
「WH-1000XM4」 のノイズキャンセリングは、パッシブノイズキャンセリングとアクティブノイズキャンセリングというふたつのノイズキャンセル機能によって実現されている。
簡単に説明すると、前者はイヤーパッドの素材や形状を工夫して密閉性を高め、ユーザーの耳に入る音と周囲の音を物理的に遮断してしまうというもの。そして後者は周囲のノイズに相反する音を出すことで、音をかき消してしまおうというものだ。この両方のノイズキャンセリング機能のおかげで、「WH-1000XM4」 はとても静かな環境で音楽を聴くことができる。
本製品がもっとも効果を発揮するのは飛行機やバスなどの乗り物に乗っているとき。特に飛行機での効果は絶大で、エンジン音などの低周波ノイズを打ち消し、優雅な旅を楽しむことが可能だ。
偶然にも筆者は 「WH-1000XM4」 が発売してから飛行機に乗る機会があったため、機内で本製品の実力を試してみたのだが、飛行機のエンジンの音を完全とは言わなくとも80~90%くらい綺麗に消せていたことを実感できた。クラシックなど静かな音楽を聴くことも十分可能だったため、その実力は本物と考えていいはずだ。
また、アクティブノイズキャンセリングは一般的には低周波ノイズの除去を得意とするが、本製品は人の声などの中・高音域のノイズへのキャンセル性能も向上しており、街中やカフェなど人の声が多い環境でもノイズを低減し、快適に音楽を楽しむことが可能だ。
確かにヘッドホンを装着している最中は人の声が聞こえづらくなっていて、音楽に集中しやすくなったように思う。カフェで仕事をするときなどに大いに活躍してくれることだろう。
ちなみにこの強力なノイズキャンセリング機能は、「WH-1000XM4」 側で常に最適になるよう自動調節されている。アダプティブサウンドコントロールという機能が搭載されていて、ユーザーの行動パターンやよくいく場所を検出し、場所や行動に応じて自動でプリセットが選択される仕組みになっている。例えば筆者が飛行機やバスに乗っているときは 「乗り物に乗っています」 と表示され、それに合ったノイズキャンセルの度合いを変更してくれる。
調節もいつの間にか完了していて、ユーザーは特に気にすることなく使用できる。とてもスマートな機能だ。
「WH-1000XM4」 のノイズキャンセリング機能のスゴさはこれだけではない。なんと、ヘッドホンを装着しているユーザーの髪型やメガネの有無、装着のズレなどを検出し、同時に気圧センサーで周囲の気圧を検出することで、ユーザーにとって最適なノイズキャンセリングを提供する 「NCオプティマイザー」 機能も追加されている。
実際に飛行機で本製品を使った際に、気圧の変化でノイズキャンセリングに違和感 (耳の奥がジリジリするような感覚) が生じていたのだが、同機能を使ったところ見事に解消されて快適に音楽を聴くことができた。ノイズキャンセリングに何らかの違和感を感じたらまずは同機能を試してみていただきたい。
スマート機能:ノイキャンと外音取り込みの自動切り替え。ヘッドホンを着けながら会話も可
「WH-1000XM4」 には周囲の音も聞きつつ音楽を聴くことができる 「アンビエントサウンド (外音取り込み) モード」 が用意されている。
このモードはスマートフォンのアプリから切り替えることができるほか、左のイヤーカップに搭載されているカスタムボタンを1回押し (初期設定時) すると簡単に切り替わるようになっている。音楽はまだ聞き続けたいけど、外の音にも注意しておきたい、そんなシチュエーションで役に立ってくれる機能だ。
アンビエントサウンドモードのイメージ
また、声を発するだけでアンビエントサウンドモードを起動し、音楽再生を一時的に停止する 「スピーク・トゥ・チャット」 が新たに搭載されたことで、ヘッドホンを装着したままスムーズに他の人と会話を始めることができるようになった。初期設定だと会話終了後30秒が経過すると自動で音楽が再生される仕組みになっている。
同機能の良いところは、起動から終了まで一切手を使わないこと。ヘッドホン装着者が話し出したことを感知するのも素早く、有用な機能と言えるだろう。ただし、ヘッドホンをしたまま会話を始めると 「きちんと聞こえているのかな?」 と相手を不安にさせてしまう可能性もあるので、使いどころを見極めて人間関係に支障が出ないように配慮する必要もありそうだ。
周囲の音が聴きたくなったらイヤーカップをそっと押さえるだけ
もし自分から話し出すのではなく、突然誰かに話しかけられたり、電車の遅延などの緊急のアナウンスを聞きたくなったときには、前モデルでも搭載されていた 「クイックアテンションモード」 が便利。右のイヤーカップ外側にあるタッチセンサーコントロールを手のひらで覆うだけで一時的に音楽の音量を下げ、周囲の音を取り込んで聞きやすくしてくれる。会話が終了したらセンサーから手を離せば、音量が元に戻る仕組みだ。
バッテリー持ちは30時間、ノイキャンオフで最大38時間
「WH-1000XM4」 のバッテリー持ちは最大30時間、とても長い。同じノイズキャンセル機能付きオーバーイヤー型ヘッドホン 「Bose Noise Cancelling Headphones 700」 が最大20時間、「Beats Studio3 Wireless」 が最大22時間であることを考えたら、「WH-1000XM4」 のバッテリーライフはとても優秀であることがお分かりいただけるだろう。
また、上記数字はノイズキャンセル機能をONにした状態のものだ。もしこの機能をオフにして使うのであれば、最大38時間も駆動することが可能。東京-ニューヨーク間の長時間フライトなどでも余裕な上に、都市から空港までの行き来も音楽を聴き続けたとしてもまだ余力が残っているだろう。
充電は前述のUSB Type-Cポートで行うが、バッテリーは約3時間でフル充電まで持っていくことが可能。さらに突然の外出のときに便利な急速充電機能にも対応している。10分の充電で約5時間の再生が可能。いざという時でも安心して使うことができるだろう。
レビューまとめ:「WH-1000XM4」 は間違いなく業界最高レベルのノイズキャンセリングヘッドホン
今回、2年ぶりのアップデートを果たしたソニーの新型ヘッドホン 「WH-1000XM4」 をレビューした。ここまでご覧になった方なら、おそらく本製品の魅力に気付いていただけたのではないだろうか。
(筆者的に)デザインについてはやや物足りなさを感じなくもなかったが、特に多くのユーザーが最も気にするであろうノイズキャンセリング機能と音質についてはほぼ文句なしの性能。
街中であろうが、飛行機の中であろうが、もちろん静寂な図書館の中であろうが、「WH-1000XM4」 はどこでだって静かな環境で音楽を堪能することができるだろう。
そのクオリティはBoseやBeatsといった他メーカーのヘッドホンと同等もしくはそれ以上であることは間違いないため、普段使っているヘッドホンをひとつ上のグレードにしたいと考えたときには、ぜひ 「WH-1000XM4」 を選択肢のひとつとして加えていただきたい。