
三井住友カードとソフトバンクは、デジタル分野における包括的な業務提携に基本合意した。これを受けて、両社に加えPayPayも連携し、新たな取り組みを順次開始する計画だ。
今回の提携は、金融、通信、決済という異なる領域のトッププレイヤーが互いの強みを持ち寄り、革新的なデジタルサービスを創出することを目的としている。
スマホで 「お金・健康・暮らし」 を完結させる時代。3社の連携理由は?

近年、テクノロジーの進化とデジタル技術の発展により、業種や業態を超えた協業が進み、多くの革新的なサービスが生まれている。
SMBCグループは、個人向け総合金融サービス「Olive」を主力として、顧客との接点をデジタルベースで提供できる環境を整えてきた。
Oliveは、銀行口座、カード決済、証券、保険などをシームレスに提供する次世代プラットフォームと位置づけられており、サービス開始から2年で500万人を超えるアカウントの開設実績がある。また、非金融分野へのサービス拡充も進めており、2025年3月には「旅行」サービスも開始している。
ソフトバンクは、次世代社会インフラの提供を目指し、通信事業に加えて、金融、DX/ソリューション、エンタメ、ヘルスケアなど幅広いサービスの拡充を進めてきた。
今回の提携は、ソフトバンクが持つデジタルテクノロジーと、SMBCグループのオープンな金融プラットフォームを組み合わせることで、より利便性や利得性の高い、先進的で優れたデジタルサービスを実現し、日本社会のデジタル化やキャッシュレス化を加速させるという方向性が一致した結果だ。
提携の具体的な内容

提携は多岐にわたる分野で検討が進められているが、特に注目すべきは以下の点だ。
① Oliveにおける非金融サービスの拡充と「スーパーアプリ」化

「Olive」は、自社が手がける金融サービスに加えて、ソフトバンクが展開する多様なデジタルサービスと連携することで、非金融サービスの領域をさらに拡大。金融の枠にとらわれない「スーパーアプリ」へと進化を目指す。
その第一弾として、2025年度中には三井住友カードのクレジットカード会員向けに、ソフトバンクの子会社であるヘルスケアテクノロジーズと連携したヘルスケアポータルが提供される。アプリを介して、健康・医療サービスをシームレスに利用し、いつでも医療者のサポートを受けられるようになる。
さらに、保険分野でもソフトバンクの子会社リードインクスと連携し、顧客ニーズに合った保険商品をデジタルチャネルから簡単に申し込めるよう、三井住友カードの保険ポータルのリニューアルや商品ラインナップ拡充が図られる。
ヘルスケアサービスは三井住友カードの法人会員向けにも展開され、従業員向けアプリやメンタルカウンセリング、団体補償保険などをパッケージで提供し、企業の健康経営支援にも繋げる。
② 決済データと人流データの融合によるデータ活用

三井住友カードが保有する決済データに、ソフトバンクおよびそのグループ会社が持つ人流統計データなどを組み合わせた、新たな顧客分析ツールの提供が検討されている。
三井住友カードの決済データは、クレジットカード会員や加盟店の属性情報を含んでおり、購買行動の詳細な把握に優れている。これにソフトバンクの子会社Agoopが提供する高精度な人流統計データを組み合わせることで、店舗への来訪者数やその動向を分析し、購買行動との相関を明らかにすることが可能になる。
たとえば、自社店舗の顧客と周辺を訪れる人々の属性の違いを分析すれば、「未獲得の潜在顧客層」の特定につながる。さらに、販促キャンペーンやイベント施策の集客・購買効果を可視化することもできる。
加えて、こうしたデータにソフトバンク独自のAIアルゴリズムを組み合わせれば、小売・飲食業などの店舗や周辺エリアにおける将来的な需要の予測も可能となる。
このように、複数のデータソースとAIを活用することで、事業者に対してより多角的なマーケティング支援を行い、経営戦略や顧客分析、プロモーションの課題解決に貢献することが期待されている。
③ 生成AIを活用したビジネスの創出

ソフトバンクは、生成AI時代を見据え、AIデータセンター建設や国産大規模言語モデル(LLM)の内製開発に取り組んでいる。その一方で三井住友カードは「Olive」などのデジタルサービスのUI/UX向上やパーソナライズサービスに生成AI活用を検討している。
今回の提携を機に、三井住友カードの顧客基盤とソフトバンクの先進的なAIサービスを組み合わせることで、日々の利用シーンにおける顧客体験の飛躍的な向上を目指す。
AI領域での協業第一弾として、三井住友カードのコンタクトセンターに、ソフトバンクの子会社Gen-AXが開発を進める音声生成AIを活用した自律思考型AIサービスが導入される。
④ PayPayと三井住友カード「Olive」「Vpass」連携強化

国内コード決済市場でシェアNo.1を誇るPayPay(ユーザー数6,900万人超)と、クレジットカード市場トップの三井住友カードが、キャッシュレスサービスの利便性向上に向けて連携を強化する。
両社はそれぞれのスマートフォンアプリの連携を進め、「PayPayポイント」と「Vポイント」の相互交換などを実現。ユーザーにとって、より便利でお得なキャッシュレス体験を提供する狙いがある。
具体的な連携内容は以下の通り。
- PayPayアプリで三井住友カードを優遇
PayPayアプリに三井住友カードを登録してクレジットカード決済を行った場合、利用料(手数料)が無料のまま継続される。他社カードとの差別化が図られる。 - OliveアプリでPayPay機能を拡充
- Oliveアプリ内でPayPay残高が確認可能に。
- 三井住友銀行口座との間でのチャージ・出金がシームレスに実行可能。
- 条件により、PayPay残高から銀行口座への出金手数料が無料となるケースも。
- Oliveの「フレキシブルペイ」機能にPayPay残高払いが追加され、Visa加盟店においてOlive経由でPayPay残高を使って支払いできるようになる。
- VポイントとPayPayポイントの相互交換が可能に
両ポイントの連携により、PayPay加盟店でもVisa加盟店でも、自由にポイントを貯めたり使ったりできる環境が整う。両社はこの取り組みを通じて、「日本一使いやすいポイントサービス」の実現を目指す。
2024年の国内キャッシュレス決済比率は42.8%に達し、政府目標である40%を超えた。コード決済は急速に拡大しており、クレジットカードと共に日本のキャッシュレスを牽引している。
今回の提携は、コード決済のPayPayとクレジットカードの三井住友カードがそれぞれの強みと顧客基盤を組み合わせることで、巨大なキャッシュレス・ポイント経済圏を構築し、日本のキャッシュレス化をさらに加速させる原動力となるだろう。
上記以外にも、モビリティサービスなど様々な事業領域での協業が検討されており、金融の枠にとらわれない新たなビジネス創出を通じ、社会課題解決や社会的価値提供を目指していくとしている。
(画像:ソフトバンク)