
世界中のプレイヤーと、言葉を交わさずに心を通わせるーー。『Sky 星を紡ぐ子どもたち』(以下、『Sky』)は、そんな静かでやさしい体験を大切にしてきたソーシャルアドベンチャーゲームだ。広大な空を自由に飛び回り、見知らぬ誰かと手を取り合いながら旅を続けるその体験は、国や言語の違いを越え、心のつながりを生む。
開発元のthatgamecompany(以下、TGC)が掲げる「ゲームは人々をつなぐアートである」という思想は、作品の隅々に息づいている。世界累計2.7億ダウンロードを突破した実績は、多くの人々に受け入れられてきたことの証だ。
そんな『Sky』を手がける開発陣が、2025年12月に岩崎学園 横浜デジタルアーツ専門学校で次世代のクリエイターに向けた特別講義を開催した。この講義は、完成した作品を紹介する場ではなく、作品を形作る思考や制作プロセスを学生たちと共有することを目的とした試みだ。
本稿では、筆者が現地で取材した内容をもとに、講義の雰囲気やプログラムの詳細を紹介する。あわせて、『Sky』がどのような考え方のもとで生まれ、その思想が次世代のクリエイターにどのように受け渡されているのかをお伝えする。
『Sky』の世界は「観察」と「試行錯誤」によって生まれている
今回の特別講義では、『Sky』のビジュアル全体を統括するビジュアルデベロップメントリードの田邊裕一朗氏と、キャラクターや生物のコンセプト設計を担当するコンセプトアーティストの藤原未歩氏の2名が講師を務めた。
講義は3コマ構成で進められ、1コマ目では『Sky』やコンセプトアーティストという職業を知る導入、2コマ目ではアイデアの出し方と発想のワークショップ、3コマ目ではライブドローイングという流れで、学生たちは実際に手を動かしながら、創作のプロセスを体験した。
1コマ目では、田邊氏と藤原氏が自身の経歴を紹介しながら、現在の仕事に至るまでの背景を語った。
田邊氏は幼少期を南米エクアドルで過ごし、言葉が通じない環境で絵を通じて他者とコミュニケーションを取った経験が、現在の表現の原点になったと話す。藤原氏は、『Sky』の熱心なプレイヤーとしてファンアートを描き続けた経験から入社した経緯を紹介した。完成作品に惹かれた一人のプレイヤーが、やがて作り手として世界観づくりに関わるようになる過程は、学生たちにとって現実的なロールモデルとして映ったはずだ。
その後、コンセプトアーティストの役割についての説明があった。コンセプトアーティストの仕事は、絵を描くこと自体を目的とするものではなく、まだ形のない世界観やキャラクターのイメージをビジュアルとして提示し、制作に関わるチーム全体が同じ方向を向いて進むための基準をつくる役割だという点が、あらためて強調された。
その考え方を具体的に示す例として紹介されたのが、『Sky』の「渡りの季節」に登場する新たな生き物の制作過程だ。説得力のある存在感を持たせるため、アザラシなどの鰭脚類の骨格構造を参考にしながら形を組み立て、角の造形についても試行錯誤が重ねられていった。
ファンタジーの世界に見える存在も、直感だけで生まれるわけではない。現実世界の観察と検証を積み重ねた先に形作られていることが、具体的なプロセスを通して示された。
2コマ目では、アイデアを生み出す具体的な思考法が紹介された。講師陣が繰り返し伝えていたのは、発想は生まれ持った才能ではなく、「整理と組み合わせ」によって誰でも磨けるという考え方だ。連想マップ法、逆転法、単語の掛け算といった手法を用い、発想の幅を広げる手法が学生に伝えられた。
ワークショップでは「道」というテーマをもとに、学生たちが実際に連想マップを作成した。「道の駅」「砂利道」といった具体的なイメージから、「キャリアパスとしての道」といった抽象的な捉え方まで多様な発想が生まれ、広がりが可視化された。講師陣は、実体験と結びついているか、匂いや音など五感に訴える要素が含まれているかといった観点でフィードバックを行い、アイデアをより深めるための視点を示した。
3コマ目では、田邊氏によるライブドローイングが行われ、プロの制作現場が目の前で再現された。学生から募った「冬」「地底」「おにぎり」のテーマに基づいたイラストを、社内開発ツールを使って、ラフスケッチから空間を構成し、ペイントを重ねていく工程が段階的に示されていく。
制作が進むにつれ、会場の視線はスクリーンに集中していった。線が引かれ、色が重なり、イメージが少しずつ形を成していく様子を、学生たちは身を乗り出すように見つめていたのが印象的だ。完成した一枚を見るだけでは分かりにくい、判断や試行錯誤の積み重ねを間近で体験できる貴重な機会となった。
特別講義を通して見えたもの:作品の裏側にある、創作と向き合う姿勢
今回の岩崎学園 横浜デジタルアーツ専門学校での特別講義は、プロの技術や知識を伝える場であると同時に、創作に向き合う姿勢そのものを体感する場でもあった。発想の方法や描画のプロセスは、特別な才能に依存するものではなく、整理し、組み合わせ、試行錯誤を重ねることで誰でも磨くことができる。
『Sky』が描いてきた、言葉に頼らないつながりや思いやりの世界観も、そうした積み重ねの先に形作られてきたものだ。作り手自身の経験や価値観を出発点にしながら、説得力のある表現へと落とし込んでいく。その過程が具体的な事例やライブドローイングを通じて示されたことで、完成した作品を遊ぶだけでは見えにくい創作の奥行きを、学生たちは実感できたはずだ。
また、登壇者それぞれのキャリアが語られたことも、この講義の重要な要素だった。南米での経験を原点とする田邊氏や、ファンアートから道を切り開いた藤原氏の歩みは、クリエイターとしての道が一つではないことを示している。
特別講義を通して見えてきたのは、作品世界は才能や技術だけで成り立つものではなく、日々の観察と試行錯誤、そして創作を楽しみ続ける姿勢によって支えられているという点だ。TGCが掲げる「ゲームは人々をつなぐアートである」という信念は、作品の中だけでなく、次世代のクリエイターへと確かに受け継がれていく。その一端を垣間見ることのできる講義だった。
