【インタビュー】Xboxで活躍する女性開発者ジェニファー吉野氏に訊く業界の多様性。ゲーム分野で働く夢を持ち日本に移住したキッカケとは

今月8日は、「国際女性デー」 だ。 女性の権利と平和を祝う国際的な記念日であり、ジェンダー平等な社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを考える大切な機会となる。

近年、さまざまな業界でジェンダー格差の問題が指摘されているが、ゲーム業界も例外ではない。女性の活躍が広がりつつある一方で、依然としてジェンダーギャップの課題が残っているのが現状だ。そこで、弊誌としても女性が活躍する場を紹介し、この問題について考える機会を提供したいと考えている。

今回、Xboxで活躍する女性開発者の一人であり、Xbox Game Studio Publishing Japanのシニアテクニカルプロデューサーを務めるジェニファー吉野氏 ( 本来の 「吉」 は 「つちよし」 ) に、メールインタビューを行う機会を得た。

ジェニファー氏は、さまざまなタイトルのテクニカルプロダクションを統括するプロデューサーとして活躍しており、特に『NINJA GAIDEN 4』では、Xbox、Team NINJA、プラチナゲームズのプロジェクトチーム間でのプラットフォームサポートや品質管理など幅広い業務を担当している。

同インタビューでは、ジェニファー氏のこれまでの経験やキャリアについて話を伺うとともに、業界におけるジェンダーギャップについて同氏が感じている課題についても意見をいただいた。本稿では、そのインタビュー内容をお届けする。

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『ファイナルファンタジーXI』にハマった経験から日本のゲーム業界入りを望んだジェニファー吉野氏。業界の多様性の現在と課題について訊いてみた

ジェニファー 吉野氏のプロフィール

カナダ出身。トロント大学にてコンピュータサイエンスの学位を取得後、ソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。日本のゲーム業界に携わるという長年の夢を実現するため、2014年に東京へ移住。

Amazon Japanにてソフトウェアエンジニアリングおよびプロダクトマネジメントの分野で経験を積み、その後、バンダイナムコスタジオにてゲーム業界へ本格的に参入。 2022年にMicrosoftへ入社し、現在はXbox Game Studios Publishingのシニア・テクニカル・プロデューサーとして、日本のスタジオが開発する新作ファーストパーティタイトルのエンジニアリング・プロダクション管理を担当している。

筆者:
きょうはよろしくお願いします。まず、ジェニファーさんのこれまでの経歴について教えてください。学生時代のビジョンやゲーム業界を目指したきっかけとなった出来事・影響を受けた人物、バンダイナムコスタジオでの業務内容、Microsoftへの入社理由と現在の業務内容なども詳しく教えて欲しいです。

ジェニファー氏:
私は、トロント大学でコンピュータサイエンスを学んでいる時、ゲーム業界に入りたいと考え始めました。

ちょうどその頃、Ubisoftがトロントに新しいスタジオを設立することが決まり、さらに私が模範としているジェイド・レイモンド氏が新しいトロントオフィスをリードすることになり、学校にプレゼンテーションに来て、ゲーム開発に関するグループディスカッションを行ってくれました。彼女が示したキャリアパスに深く感銘を受け、同じような役割を目指すことを決めました。

卒業後、最初に経験した職種はソフトウェアエンジニアリングでした。その後、さまざまな業界やチームを渡り歩きながら、技術や役割のスキルを磨いていきました。その後、業界で長年働いていたメンターの勧めで、ゲーム業界へ飛び込むことを決意をし、バンダイナムコスタジオでは新しいゲームのための技術システムの作成に関わりました。

マイクロソフトに転職後は、日本の開発パートナーと一緒に大規模タイトルの開発に関わる機会を得て、自分のエンジニアリングスキルを生かしてプロダクションマネジメントの立場で関わっています。いまはテクニカルプロデューサーとして、Xboxの世界中のチームと日本のパートナー開発チームとの調整や翻訳を担当しながら、クリエイターを支える技術インフラの管理もしています。

筆者:
なぜ日本のゲーム業界に携わりたいと思ったのでしょうか?きっかけについて教えてください。

ジェニファー氏:
私の家ではビデオゲームがいつも身近にありました。父はセガのマスターシステムを持っていて、祖父母は任天堂のファミコンを持っていました。

子供の頃、私が知っていた一番クールでクリエイティブなゲームは、すべて日本から来ていました。「スーパーマリオ」 から 「ファイナルファンタジー」 まで、どれも大好きでした。

カナダでは日本のメディア、特に 「セーラームーン」 や 「ドラゴンボール」 のようなアニメがとても人気でした。歳を重ねるごとに、日本の開発チームの独自の視点や創造性に対する尊敬が深まり、この業界に入るという目標を持って日本に移住することを決めました。

筆者:
過去に熱中したゲームと、そのゲームが今のキャリアに与えた影響について教えてください。

ジェニファー氏:
私に大きな影響を与えたゲームは、オリジナルの『ファイナルファンタジーXI』です。高校生の頃、あまりにも夢中になりすぎて、日本からソフトを輸入してプレイし始めました。そして、他のプレイヤーとコミュニケーションを取るために、日本語の授業を受けることを決意しました。このゲームがきっかけとなり、日本に移住することになったと言っても過言ではありません。

その後、さらに日本語力を磨いたことで、続編である『ファイナルファンタジーXIV』を完全に日本語でプレイできるようになりました。また、私はこれらのタイトルを手がけた開発チームのファンでもあり、彼らの卓越したプロジェクト管理能力や、コミュニティとの向き合い方に長年感銘を受けてきました。特に、CEDECなどのカンファレンスでのプレゼンテーションから、多くのことを学んできました。

筆者:
カナダから日本に移住し、ゲーム業界で働くという夢を実現するまでに直面した課題や乗り越えたエピソードはありますか?

ジェニファー氏:
カナダでの生活は快適で安定していましたが、私は日本でゲーム業界に入るという夢を追いかけることを決意しました。

一番大変だった経験は、ワーキングホリデーで日本に来たことです。準備不足で、すぐにお金が尽きてしまい、短期間で仕事を見つけ、住む場所を確保し、新しいつながりを見つけなければならない状況でした。

幸運にも東京で素晴らしいソフトウェアの仕事を見つけ、その旅行中に東京に根を下ろすことができましたが、仕事の文化や行政手続きの違いに対応するのは非常に大変でした。新しい生活に馴染んで安心できるようになるまで、ストレスでいっぱいの日々が1年以上続きました。

特に印象に残っているのは、就職活動の初期段階での経験です。面接でとても緊張していて、担当者が何を聞いているのか、半分くらいしか理解できなかったことを覚えています!でも、どうやら上手く答えることができたらしく、ありがたいことにその後、仕事をオファーしてもらいました。

『NINJA GAIDEN 4』(画像:Microsoft)

筆者:
今秋発売予定の『NINJA GAIDEN 4』のチーム間でのプラットフォームサポートや品質管理などを含む幅広い業務に携わっているとのことですが、このように複数のチーム間での調整を行う中で意識していることはありますか?

ジェニファー氏:
『NINJA GAIDEN 4』のような開発チームと協力する際には、クリエイターが優れたゲーム体験の構築に集中できるよう、意識的にサポートを行っています。

近年のゲーム開発は技術的に非常に複雑であり、その管理も容易ではありません。そのため、私のチームではTeam NINJAやPlatinumGamesに対し、できる限り透明性を持った技術的サポートを提供することを心がけています。

具体的には、定期的にミーティングを開催し、開発状況をオープンな場で共有しています。この場では、チームの誰もが自由に話題を持ち寄り、議論することができます。また、常にオープンな連絡手段を確保し、あらゆる階層において3つの組織間の技術チームが直面する言語の壁を取り除く手助けを行っています。

筆者:
ゲーム業界では依然としてジェンダーギャップが課題とされていますが、それについてどう感じていますか?

ジェニファー氏:
ゲームのプレイヤーは非常に多様ですが、業界のチームは必ずしもその多様性を反映しているわけではありません。私は、業界内のジェンダーギャップが改善すべき課題であり、その改善に向けて多くの参加者が認識を共有していると感じています。その点を踏まえると、女性としてゲーム業界に参加し、女性の視点を共有し代表できることは、特別な機会であると感じています。

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プロフェッショナルとして成長することが、テクノロジー分野で成功するために最も重要

筆者:
マイクロソフトには 「Code; Without Barriers」 というAI人材育成プログラムがあるように、女性の活躍を応援する仕組みがあります。こうした取り組みをさらに促進するために、社内や業界・コミュニティでは今後どのような施策が必要だとお考えですか?

ジェニファー氏:
私は、プロフェッショナルとしての成長こそが、テクノロジー分野で成功するために必要な機能的スキルを身につける上で特に重要であり、それを支えるためには業界のリーダーによる継続的な投資が不可欠だと考えています。

同時に、新しいスキルの習得だけでなく、ゲーム業界で働く女性が果たせる最も重要な役割の一つは、次世代の才能にとっての模範となることだと思います。例えば、メンターやスピーカーとして壇上に立つことで、それを見た若いクリエイターたちが目標を持ち、自信を育むきっかけとなるでしょう。

私自身、学生時代に模範となる人物と出会い、強いインスピレーションを受けました。その経験や得たインスピレーションの価値は、言葉では言い尽くせないほど大きなものでした。

筆者:
国際女性デーを迎えるにあたり、ゲーム業界における 「多様性と包括性」 について、ジェニファーさんが伝えたいメッセージがあればお聞かせください。

ジェニファー氏:
私が感じているのは、ゲーム業界はいま非常に多様で、リアルな表現に力を入れているということです。アクセシビリティ機能からキャラクターデザインに至るまで、さまざまなクリエイティブな手法を通じて、インクルーシビティが製品に組み込まれています。

これは決して偶然ではなく、ゲームへの情熱を持つ人々が直接関わり、チームが自分たちやプレイヤーをより正確に表現できるよう支援しているからこそ実現しているのです。

特に日本では、クリエイターたちが次世代の才能へバトンを渡すタイミングを迎えています。そして、より多くの女性が重要なリーダーシップの役割に抜擢されるようになってきていることを目にし、とても心強く感じています。

筆者:
ゲーム業界を目指す若い女性や次世代のクリエイターに向けて、キャリア形成に関するアドバイスをお願いします。

ジェニファー氏:
もしゲーム業界での仕事を目指しているのなら、とても幸運だと思います!ゲーム業界には、あなたのスキルを活かせる場所が数多くあり、さまざまな役割で貢献できるチャンスが広がっています。ここは、「楽しさ」 を共通の旗印に団結した、フレンドリーで強い結びつきを持つコミュニティです。

キャリアをスタートすると、どの方向に進むべきか迷うことがあるかもしれませんが、あまり心配しすぎないでください。ある役割で身につけたスキルは、別の役割でもすぐに活かせるものです。

できるだけ多様な人とつながりを持ち、仲間やメンターとのご縁を大切にしながら、自分の情熱を最もよく表現できる方向へキャリアを進めてみてください。最も大切なのは、その過程を楽しむことです。なぜなら、あなたは 「ゲームをつくる」 という素晴らしい仕事をしているのですから!

筆者:
最後に、ジェニファーさんは今後どんなことに挑戦してみたいですか?

ジェニファー氏:
いまのプロデューサーとしての主な役割は、開発チームが優れたゲームを制作し、リリースできるよう支援することですが、私にはさらに2つの個人的な目標があります。

1つ目は、女性が率いるチームの才能と多様性を広めること。2つ目は、ゲーム開発の技術的な複雑さを軽減し、プレイヤーにとってより多様で奥深く、魅力的なゲーム体験を提供することです。

近年、才能がある女性クリエイターが徐々に頭角を現していますが、一方でゲーム開発は極めて技術的に複雑で、参入にはこれまで以上に知識が求められます。私たちのチーム、そしてゲーム業界全体が、この2つの課題においてさらなる進歩を遂げられると確信しています。

筆者:
ありがとうございました!

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