
長年にわたりiPhoneに他社製のセルラーモデムを搭載してきたAppleが、遂に自社製のセルラーモデムを搭載するようになった。今年2月に発売したiPhone 16eには、自社製の 「C1」 と呼ばれるモデムチップが搭載され話題となった。
しかし、新しいモデムチップと聞くと、どうしても「本当に大丈夫?」「速度は?」「安定性は?」といった不安が頭をよぎるだろう。
果たして、C1チップを搭載したiPhone 16eに不安はあるのか。筆者はiPhone 16eを手に取り、東京や大阪などの国内主要都市だけでなく、香港やドイツなど海外でも通信環境をチェックできた。本稿では、その実地テストを通して得られた使用感の簡易レポートをお伝えしたい。
体感としてはAppleのC1モデムチップも従来のQualcommモデムとあまり変わらない
まず、今回試したiPhone 16eについて簡単に解説しておきたい。iPhone 16eは、2024年秋に登場したiPhone 16のエントリーモデルに位置する製品だ。実質的にiPhone SEシリーズの後継機種という位置づけで、比較的手頃な価格ながらも高性能なSoCと最新の機能を搭載していることが特徴。
そして、本製品の最大の特徴のひとつが、内蔵するセルラーモデム 「C1」 。Appleが独自開発した初のセルラーモデムだ。これまで、iPhoneに搭載されてきたセルラーモデムはQualcommやIntelが開発していたもので、ここ数年ではQualcommのセルラーモデムが採用されていた。
iPhone | 発売年 | メーカー | セルラーチップ |
---|---|---|---|
iPhone (初代) | 2007 | Infineon | Unknown |
iPhone 3G | 2008 | Infineon | Unknown |
iPhone 3GS | 2009 | Infineon | Unknown |
iPhone 4 | 2010 | Infineon | Unknown |
iPhone 4S | 2011 | Qualcomm | MDM6610 |
iPhone 5 | 2012 | Qualcomm | MDM9615M |
iPhone 5c | 2013 | Qualcomm | MDM9615M |
iPhone 5s | 2013 | Qualcomm | MDM9615M |
iPhone 6 | 2014 | Qualcomm | MDM9625M |
iPhone 6 Plus | 2014 | Qualcomm | MDM9625M |
iPhone 6s | 2015 | Qualcomm | MDM9635M |
iPhone 6s Plus | 2015 | Qualcomm | MDM9635M |
iPhone SE (第1世代) | 2016 | Qualcomm | MDM9625M |
iPhone 7 | 2016 | Qualcomm / Intel | Snapdragon X12 / Intel XMM 7360 |
iPhone 7 Plus | 2016 | Qualcomm / Intel | Snapdragon X12 / Intel XMM 7360 |
iPhone 8 | 2017 | Qualcomm / Intel | Snapdragon X16 / Intel XMM 7480 |
iPhone 8 Plus | 2017 | Qualcomm / Intel | Snapdragon X16 / Intel XMM 7480 |
iPhone X | 2017 | Qualcomm / Intel | Snapdragon X16 / Intel XMM 7480 |
iPhone XS | 2018 | Intel | Intel XMM 7560 |
iPhone XS Max | 2018 | Intel | Intel XMM 7560 |
iPhone XR | 2018 | Intel | Intel XMM 7560 |
iPhone 11 | 2019 | Intel | Intel XMM 7660 |
iPhone 11 Pro | 2019 | Intel | Intel XMM 7660 |
iPhone 11 Pro Max | 2019 | Intel | Intel XMM 7660 |
iPhone SE (第2世代) | 2020 | Qualcomm | Snapdragon X12 |
iPhone 12 | 2020 | Qualcomm | Snapdragon X55 |
iPhone 12 mini | 2020 | Qualcomm | Snapdragon X55 |
iPhone 12 Pro | 2020 | Qualcomm | Snapdragon X55 |
iPhone 12 Pro Max | 2020 | Qualcomm | Snapdragon X55 |
iPhone 13 | 2021 | Qualcomm | Snapdragon X60 |
iPhone 13 mini | 2021 | Qualcomm | Snapdragon X60 |
iPhone 13 Pro | 2021 | Qualcomm | Snapdragon X60 |
iPhone 13 Pro Max | 2021 | Qualcomm | Snapdragon X60 |
iPhone SE (第3世代) | 2022 | Qualcomm | Snapdragon X57 |
iPhone 14 | 2022 | Qualcomm | Snapdragon X65 |
iPhone 14 Plus | 2022 | Qualcomm | Snapdragon X65 |
iPhone 14 Pro | 2022 | Qualcomm | Snapdragon X65 |
iPhone 14 Pro Max | 2022 | Qualcomm | Snapdragon X65 |
iPhone 15 | 2023 | Qualcomm | Snapdragon X70 |
iPhone 15 Plus | 2023 | Qualcomm | Snapdragon X70 |
iPhone 15 Pro | 2023 | Qualcomm | Snapdragon X70 |
iPhone 15 Pro Max | 2023 | Qualcomm | Snapdragon X70 |
iPhone 16 | 2024 | Qualcomm | Snapdragon X71 |
iPhone 16 Plus | 2024 | Qualcomm | Snapdragon X71 |
iPhone 16 Pro | 2024 | Qualcomm | Snapdragon X71 |
iPhone 16 Pro Max | 2024 | Qualcomm | Snapdragon X71 |
iPhone 16e | 2025 | Apple | Apple C1 |
長らくQualcommに依存してきたiPhoneに独自のセルラーモデムを搭載したことは、Appleにとって大きな転換点を意味する。最大のメリットは、バッテリー駆動時間を長くできることだ。
Appleは、C1モデムをiPhone史上最も電力効率の高いモデムであると強調しており、iPhone 16のバッテリー持続時間の向上に大きく貢献すると期待している。iPhone 16eでは最大25%の省電力性を実現しており、実機でテストしてみたところバッテリー駆動時間が伸びていることが確認できた。
実際にiPhone 16eで通信速度や、繋がりやすさを国内外でチェックしてみた。まず国内では、NTTドコモ、au (KDDI)、ソフトバンクの回線を使用し、4G/5G環境でモバイル通信を行なった。
まずは東京都内で計測してみた結果について。飲み会帰りの人たちで賑わう23時頃の渋谷駅ではドコモ・au・ソフトバンクいずれも下りは110〜125Mbps程度の速度が出ていることが確認できた。
次は、大阪で計測。大阪・関西万博の開業前に実施されたプレスデーで計測してみたところ、下り150MB/s程度で通信することができた。万博会場では公式アプリで各パビリオンの位置を確認したりとモバイル回線を使う機会が多いが、ほぼ快適に調べることができたように思う。メディアデーは4,500名ほどが参加したとのことだったので、1日10万人規模の来場者が訪れている現在ではもう少し通信速度は遅くなっている可能性はありそうだ。
次に、香港で計測。中国移動通信の回線を使って速度をチェックしたところ、下り87.5MB/sが出ていた。香港駅周辺ということで多くの人がいたが、通信はかなり快適だった。
ドイツではTelekom Deutschlandの回線で速度をチェック。ベルリン中央駅 (Berlin Hauptbahnhof) の前で計測したところ、下り79.8MB/sという結果になった。このタイミングではちょうど電車の乗り換えとGoogleマップでの場所の確認をしていて、どちらもスムーズに検索することができていた。
海外では、日本ほど高い品質で通信できない環境も多いためかなりバラツキはあるものの、中央駅など主要の公共交通機関では場所によっては高速に通信できる環境もあり、動画のストリーミングやオンラインゲームも快適にこなせることもあった。
上記はあくまで筆者の体験談ではあるが、それでは一般論としてセルラーモデムを他社製からApple自社製に切り替えることで、どんな影響が考えられるだろうか。
まず、恩恵となりうるのがiPhoneに搭載されているOSとの高い親和性を実現することで、電力効率が向上することだ。実際にどれくらい増えるのか対比実験するのは難しいが、体感としては1〜2時間ほど駆動時間が伸びたように感じられた。
あとは通信品質のさらなる改善だが、こちらについては現状で改善されたということは難しい。参考として、OoklaのSpeedtest Intelligenceによると、iPhone 16eはAT&TやVerizonのネットワーク上で、iPhone 16よりも平均ダウンロード速度が速い結果を示した。例えば、AT&Tのネットワークでは、iPhone 16eの平均ダウンロード速度は226.90 Mbpsであり、iPhone 16よりも高速だった。
しかし、T-Mobileのネットワークでは、iPhone 16が357.47 Mbpsの速度を記録し、iPhone 16eの264.71 Mbpsを上回った。これは、T-Mobileが全国的に商用化された5Gスタンドアロン(SA)ネットワークを展開しており、C1モデムがこの新しい5Gアーキテクチャでの高度な機能に制限があるためと考えられる 。
また、低速環境下では、iPhone 16eがiPhone 16よりも優れたダウンロード速度を示すケースもあった。例えば、T-Mobileのネットワークで、最も低速な10%のユーザーにおいて、iPhone 16eは57.34 Mbpsを記録し、iPhone 16の27.27 Mbpsを上回った。
また、C1モデムはSub-6GHz帯の5Gには対応しているものの、より高速なミリ波には対応していない。また、キャリアアグリゲーションについても、ダウンリンクで3リンクに対応するものの、Qualcomm製モデムが対応する4リンクには及ばない可能性があり、アップリンクキャリアアグリゲーションには非対応だ。
上記を総合して考えると、Appleのセルラーモデムが上位モデルである 「iPhone 17」 シリーズに搭載されるかは現時点では不透明。ただし、スマートフォンのアピールポイントのひとつとして有効な 「ロングバッテリーライフ」 を自社製のセルラーモデムで実現できるというのであれば、Appleは是が非でも上位モデルへの搭載を計画しているだろう。また、iPhoneだけでなくiPadやApple Watchなどのセルラーチップの置き換えも計画しているのであれば、長期的に見てデバイスの製造コストを低減させられる可能性もある。
また、もしかしたら多くのユーザーが待ち望んでいるMacBook Air・MacBook Proのセルラーモデルが登場する未来もあるかもしれない。
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