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Googleのデザイン展示から読み解く、「プロセス重視」のものづくりとエモーショナルな設計思想

Google本社から来日したインダストリアル・デザイナーのMatsumotoさん

1月29日〜31日の期間に東京・虎ノ門ヒルズで開催された都市型クリエイティブフェスティバル「TOKYO PROTOTYPE」において、Google はハードウェアデザイン展示「GOOGLE HARDWARE DESIGN STUDIO」を出展した。

タイトルは「Prototyping — 動きの中の詩。2026」。Pixelシリーズを中心にラフスケッチや試作機、分解展示まで含めて設計過程そのものを公開する内容で、会場演出も含めて“プロトタイピング”を体験として提示する構成となっており、イベント全体の中でも強い存在感を放っていた。

本展示の注目すべきポイントは、完成品ではなく「設計過程」を主役に据えた点にある。これまでハードウェアメーカーは、磨き上げられた最終製品で語るのが一般的だった。しかし今回は、未完成のプロトタイプや分解図、試作基板までをあえて公開し、思考のプロセスそのものを可視化したものになっていた。製品紹介ではなく、設計思想を伝える構成だったと言える。

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Pixelに見る “エモーショナル デザイン” の具体像

今回の展示テーマは「エモーショナル デザイン」だ。データドリブン企業として知られるGoogleが “感情”という言葉を掲げたこと自体が示唆的だ。

ここで言う “感情” は、派手な演出や刺激ではなく、手にした瞬間の安心感や、日常に溶け込む違和感のなさといった身体的な感覚に近いものだろう。Pixelシリーズは、性能や機能だけでなく、「触れたときにどう感じるか」という感覚的な価値を明確に設計対象に含めようとしている。

たとえば、Pixel 10シリーズのカラーリングは、鉱物や植物など自然界に実在する色彩から抽出したニュアンスカラーが採用されているという。単なる “青” や “緑” ではなく、光や質感まで含めて設計された色だ。

実際に展示で素材サンプルやスケッチと並べて見ることで、マットな質感やわずかな光沢の変化が持つ意味がより明確に感じられた。手に取ったときの触感も、金属やガラス特有の冷たさではなく、自然のものに触れているような、どこか柔らかさを感じさせる仕上がりになっている。

また、Pixel Watch 4の3Dドーム型ディスプレイは、水の表面張力から着想を得たデザインだという。ガラスがふわりと持ち上がるような曲面は、視覚的な特徴にとどまらず、手首に装着した際の一体感を強く意識したものだ。

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無機質なガジェットから、有機的な存在へ

自然界を参照点としながら色彩や質感、形状まで設計する姿勢は、テクノロジーを冷たい機械ではなく、日常に溶け込む道具として捉え直そうとする試みにも見える。

もっとも、こうした感覚的価値は直感だけで生まれているわけではない。Googleらしさが最も色濃く出ていたのはデータ活用の領域だ。

Pixel Buds Pro 2では、4,500万もの耳スキャンデータポイントを分析し、装着感を最適化しているという。ハードウェアが統計的身体データに基づいて設計される時代が本格化していることを示す象徴的な事例だ。感情設計とデータ設計は対立するものではなく、むしろ両立させるべきものだという姿勢が見える。

さらに興味深いのは、サステナビリティと修理可能性への取り組みだ。Pixelスマートフォンのカメラモジュールにはリサイクル素材が使用され、日本未発売のGoogle Home Speakerでは、継ぎ目のないファブリック構造によって素材廃棄量を約63%削減し、接着剤使用量を99%削減したという。プロトタイプではバッテリー交換のしやすさも重視されていた。環境配慮やRight to Repairの潮流を見据えた設計思想が、コンセプト段階から組み込まれている。

Googleのハードウェア戦略は新たな段階へ

今回の展示で印象的だったのは、「完成度の高さ」を誇示する姿勢ではなかったことだ。

むしろ試行錯誤の痕跡を積極的に見せることで、ブランドと思想を結びつけようとしている。ハードウェアそのものだけでなく、開発プロセスまで提示するアプローチは、ソフトウェア企業として出発したGoogleならではの方法論とも言える。

AIの存在が前提となりつつある現在、ハードウェアの役割も変化し始めているように見える。単なる入出力の装置という位置づけにとどまらず、身体や環境、さらには感情をどう設計に取り込むかが、徐々に問われ始めている。

Google本社から来日したプロダクトチーム

今回の展示内容を踏まえると、同社のハードウェアは、スペックの優劣だけでは語りきれない価値として、色彩や質感、装着感、素材選定といった体験の側面を前面に押し出そうとしているようにも映る。性能競争の延長線上にありながら、その外側にある評価軸を探ろうとする姿勢が垣間見えた。

Googleはこれまで “AI企業” として語られることが多かった。しかし今回の展示を見る限り、その技術をどのような体験へと落とし込むかに重心を移しつつあるようにも映る。アルゴリズムの高度化だけでなく、色彩や質感、形状といった身体的なレイヤーまで含めて設計しようとする姿勢は、同社のハードウェア戦略が新たな段階に差しかかっていることを示唆している。

断定するには早いかもしれない。それでも、「設計思想そのものを公開する」という今回の試みは、Googleが目指す次のポジションをうかがわせるひとつのサインだったと言えるだろう。