
世界で2,500万人以上が利用するデジタルノートアプリ「Goodnotes」を展開するGoodnotes Limitedは、10月10日に東京・代官山で戦略発表会を開催した。
登壇したのは、創業者兼CEOのスティーブン・チャン氏とCOOのミン・トラン氏、AIプロダクトリードのシュー・ティン・フォン氏。日本初来日となる今回のイベントでは、日本市場への本格的な注力と、新しいAI・コラボレーション機能を備えた最新版Goodnotesが発表された。なお、報道関係者向けに開かれるのは初、同社にとって節目となる発表となった。
日本市場は世界第2位の法人ユーザー数。細部へのこだわりが支える人気
Goodnotesにとって日本は、グローバルの中でも特に重要な市場だ。ユーザー数でトップ5に入り、法人ユーザー数では世界第2位を誇る。創業初期からApp Storeのフィーチャー (特集) で注目を集めたこともあり、日本は早期から成長を支えてきた地域だ。
そのうえで、日本の文化について「料理や都市計画、庭園、茶道など、あらゆる分野で細部への注意を惜しまない。その美学が、Goodnotesのような精密なツールとの親和性を高めている」とし、実際最新バージョンのベータテストでは、日本のサインアップ数が世界で3番目に多く、特にUIやツール精度に対するフィードバックが製品改善の大きな糧となったという。
さらに、建築・建設分野での採用が急速に進んでおり、現場でのスケッチ共有や資料管理に活用されているという。企業向けには、SSOやインボイス支払いなどを備えた「Teams」「Enterprise」プランを展開。教育分野でもApple School Manager経由で学校に無償提供されており、学習からビジネスまでをつなぐエコシステム形成を目指す。
「GoodNotes」はAIと無限キャンバスで進化。人間とAIが協働する新しいノート体験へ
新バージョンは「GoodNotes 7」ではなく、よりシンプルに「GoodNotes」として刷新された。プラン体系も「ベーシック」「プロ」の2段階に整理され、さらにAI機能にフルアクセスできる追加オプション「AIパス」も用意する。AIパスは現時点ではAppleユーザーのみアップグレード可能で、Android、Windowsユーザー向けには今秋リリース予定だ。
サブスクリプション制を導入する背景には、「AIやコラボレーション機能の維持に必要なサーバーコストをまかなうための、持続可能なモデルに移行する狙い」があるという。
注目の新機能は以下。
- ホワイトボード:ユーザー待望の「無限キャンバス」を実装。ブレインストーミングやマインドマップ作成、リアルタイムの共同作業が可能になった。チャン氏自身もお気に入りの機能に挙げており、PDFやノートをホワイトボード上で拡張できる点が特徴だ。
- テキストドキュメント:手書き・タイピング・画像・チャートを組み合わせて作成できるブロック型エディタ。アイデアメモから正式な文書まで、一貫したワークフローをサポートする。
- Goodnotes AI:ユーザーの思考を「形にし、磨き上げる」共同作業パートナーとして設計された。テンプレート生成、下書きの改善提案、会議の自動文字起こしと要約などを行う。AI導入の意図についてチャン氏は、「技術のためではなく、ユーザーがより自然に考え、整理できる手段としてAIが理にかなっているかを基準にした」と語った。
- 新デザインのツールバー:ペン設定などを別画面に表示できる新しいツールバーを導入。すべてのツールに直感的にアクセスしてスムーズに切り替えできるようになった。
- リアルタイムコラボレーション:最大50人が同時に編集できる共同作業機能が搭載。プライベートリンクを使用して安全に共有できる。
現場で進む “デジタル手書き”の実践
発表会では、実際にGoodnotesを業務に活用しているという2名が登壇した。
LINEヤフー株式会社の遠山怜欧氏は、プロダクトマネージャーの仕事における「抽象と具体の行き来」を支えるツールとしてGoodnotesを評価。直感的な書き味や図とテキストの組み合わせによるビジュアル思考が、チーム内の議論を加速させるという。Web版を活用し、オンライン会議中にリアルタイムでアイデアを描くケースも増えている。
また、日建設計の祖父江一宏氏は、建築や都市デザインの現場で「個人のアイデアをチームの知へと変換する」ためにGoodnotesを利用。現場写真への手書きメモ、設計意図の共有、PowerPointを使わない資料化など、多様なワークフローを紹介した。祖父江氏は、「新しいホワイトボードやAI機能によって、知識共有のプラットフォームとしての価値が高まる」と語った。
世界で最も象徴的なノートアプリへ
チャン氏は最後に、自身の創業体験を振り返りながら「ソロ開発者からチーム経営者へと成長する中で、チームで共通のミッションを持つことと協働の文化の重要性を学んだ」と述べた。
Goodnotesは創業以来、ブートストラップ (自己資本) による黒字経営を維持しており、売上の大半をApp Store経由で確保している。この「プロダクト主導型の成長モデル」によって営業・マーケティング費用を低く抑え、収益の大半をより良い製品の開発のために投資することができている。
Goodnotesは、今後はスタイラスユーザーだけでなく、PCやスマートフォン、キーボード中心の利用者にも開かれた体験へと拡張していく予定だ。チャン氏は、「私たちは手書きという行為を超えて、人とAIが協働する新しい思考のためのキャンバスをつくりたい」と語り、イベントを締めくくった。