
ASUSは、先月20日から台湾・台北で開催された世界最大級のIT展示会「COMPUTEX 2025」に合わせて、プレス向け発表会「ASUS&ROG Media Day」を実施した。
発表会当日、ASUSのAI戦略や日本市場での取り組みについて、ASUSおよびASUS JAPANの幹部3名に合同でインタビューする機会があったので、その模様をお届けする。
今回お話を伺ったのは、ASUS システム部門 アジア太平洋地域ジェネラルマネージャーのPeter Chang氏、ASUS JAPAN 代表取締役社長のAlvin Chen氏、そしてASUS JAPAN システムビジネスグループ コンシューマービジネス事業部 統括部長のDavid Chu氏の3名。
ASUSが掲げるAIパソコンへの取り組み、そして今後日本市場でどのように存在感を高めていこうと考えているのかなど、ASUSの現在とこれからについて話を聞くことができた。
Intel・AMD・Qualcommの採用バランスについて

記者:
昨年、Armアーキテクチャを採用したSnapdragon搭載PCが発売されました。これでIntel、AMD、Qualcommの3社のプラットフォームを扱うことになりますが、それぞれをどのように位置づけ、棲み分けているのでしょうか?
Peter Chang氏:
各社のアーキテクチャには明確な強みがあります。ASUSはAI PCの普及を目指すトータルソリューションプロバイダーとして、それぞれの特長を生かした製品ポートフォリオを展開しています。
たとえば、Armアーキテクチャはバッテリー駆動時間や薄型デザイン、機能面で優れた点があり、Zenbook SoraにはQualcommが適していると判断しました。一方で、ゲーミングなど高負荷用途には、x86ベースのIntelやAMD製CPUが引き続き最適な選択肢です。今後も用途に応じた最適なプラットフォームを採用していきます。
記者:
現時点での各CPUメーカーの採用比率を教えてください。
Peter Chang氏:
全体では依然としてx86アーキテクチャのIntelとAMDが大多数を占めています。ArmベースのPCはまだ始まったばかりですので、現時点での比率は非常に小さいです。ただし、Copilot+モデルに限れば、Qualcomm製プロセッサ搭載モデルが半数を超える状況です。
記者:
IntelとAMDのシェア比はどのような状況ですか?
Peter Chang氏:
地域によって若干の差はありますが、全体的にはIntelがAMDを上回る割合で採用されています。
現在の売れ筋について

記者:
ZenBook、VivoBook、そしてゲーミングのROGなどさまざまなブランドを展開していますが、現在最も売れているのはどのブランドですか?
Peter Chang氏:
数量ベースで見ると、圧倒的に「VivoBook」が1位です。市場規模としても非常に大きいカテゴリです。ただし、ASUSの競争力をさらに際立たせていくためには、今後はゲーミングやZenBookシリーズをより戦略的に販売していくことが重要だと考えています。
記者:
ASUSはCopilot+ PCに積極的に取り組んでいる印象ですが、新たに獲得できた顧客層があれば教えてください。
Peter Chang氏:
Copilot+ PCには、もちろん積極的に取り組んでいます。現時点では、AIに関心を持っているアーリーアダプター層が中心に購入している状況です。ただ、今後はPCの買い替えや置き換えの流れの中で、広がっていくだろうと考えています。
というのも、Windows 10のサービスが終了するため、それに伴ってAI機能を備えたPCの重要性が高まり、「そういう選択肢があるなら買いたい」と思う人が増えていくと見ています。

記者:
Copilot+ PCの中で売れ行きが好調なモデルや傾向があれば、それについても教えてください。
David Chu氏:
日本市場において、AI PCで最も売れているのは「Zenbook Sora」です。日本では、ゲーミングの「ROG」、クリエイター向けの「ProArt」など、用途に応じたAI PCをラインアップしており、それぞれのターゲット層に応じた価値を提供しています。
Zenbook Soraは、日本市場向けに設計・デザインされたモデルで、大きな反響と売上を生み出しています。購入者の半数は10代〜20代の学生層で、ゲーマーやプロフェッショナル、学生といったアーリーアダプター向けの製品としてしっかり用意ができています。これを皮切りに、市場の成長を加速させていきたいと考えています。
Zenbook Soraについて

記者:
Zenbook Soraは日本市場を意識して開発されたと伺いました。実際の反響はいかがですか?また、今後も日本市場に特化した特徴を持った製品が登場する可能性はありますか?
David Chu氏:
まず、1つ目のご質問については、非常にポジティブな反響をいただいています。特に小売店の皆様からは、「日本市場に非常にマッチした商品で、店頭に並べると反響が大きい」との声を多数いただいています。
実際、他の店舗でも取り扱いたいという声も出てきており、販売面でも非常に好調です。購入者の半数以上が10代〜20代のお客様で、この若年層が今後のコアカスタマーとして期待できると考えています。学生や若い世代が学業や日常の作業に活用しており、良い反応をいただいています。
また、Zenbook S 14・S 16・Zenbook Soraには、「セラルミナル (Ceralminum)」という軽量で堅牢、かつ傷にも強い新素材を採用しています。日本向けには、特別なアースカラーの2色を展開し、日本市場を意識したデザインになっています。
2つ目の質問についてですが、日本市場はASUSにとって非常に重要なマーケットですので、今後も日本向けの製品を展開していく予定です。他のAI製品も継続的に開発中であり、次世代のZenbook Soraも検討段階にあります。日本市場を優先的に考えた製品開発を進めていますので、ぜひご期待いただければと思います。
日本のPC市場について

記者:
日本のPC市場では、長らくNECと富士通が大きなシェアを持ち続けていますが、ASUSとしてはなかなかこの2社に追いつけない状況が続いています。性能面では決して劣っていないと思いますが、市場での実績に反映されていない現状をどう打開しようとお考えですか?
Peter Chang氏:
まずは市場理解を深めることが重要だと考えています。Zenbook Soraも、日本の生活スタイルや通勤事情などを徹底的に調査したうえで開発しました。日本のユーザー視点に立った製品を、より現地に近い体制で展開していくことが鍵です。
2つ目の打開策は、新たなセグメントへの進出です。たとえば、OLED(有機EL)市場への戦略的な展開です。MicrosoftのCopilot+が登場したことも追い風となり、現在では40%近いシェアを持つファーストティアブランドとしての地位を築いています。今後も新たなセグメントがあれば積極的に参入していく方針です。
ゲーミング分野も含め、日本市場のニーズをしっかり捉え、入っていけるセグメントには積極的に取り組んでいきたいと考えています。
記者:
以前の日本市場では、海外ブランドに対するアレルギーのようなものがあり、なかなか普及しませんでしたが、最近はその状況が変わりつつあると感じています。そうした中で、ASUSにも大きなチャンスがあるのではないでしょうか。
日本市場のユーザーの意識が少しずつ変化している今こそ、ASUSとして攻勢をかける好機ではないかと思います。このような見解に対して、御社として日本でのシェア拡大の取り組みについて、改めてお聞かせください。
Peter Chang氏:
温かいお言葉をありがとうございます。PC市場においては、技術的な性能とブランドに対する信頼、この2点が評価の軸になると認識しています。性能面については、当社としても自信を持っており、機能としては十分にご満足いただけるものになっていると考えております。
一方で、ブランドへの信頼という点については、数年前から徐々に日本の消費者に信頼していただけるよう、様々な取り組みを行ってまいりました。たとえば、アフターサービスにおいては「あんしん保証」をご提供しておりますし、「Zenbook Sora」も1,000店舗以上での販売を目指して展開してきました。
Zenbook Soraを、パソコン専門店でしか手に入らないような製品にはしたくないという思いがあり、どの家電量販店でも購入できる存在にすることで、信頼性の向上に努めております。
また、新しい市場セグメントとしては、ゲーミングPCやCopilot+、Chromebookといった分野へのアプローチも強化していきます。ただし、メインストリーム市場においては、たとえ富士通さんやNECさんが現在は外資系であっても、エンドユーザーの多くはそうした事実を認識していないのが現状です。そういったユーザーの意識改革については、少しずつではありますが、着実に取り組んでいきたいと考えております。
記者:
開発やマーケティングという枠を超えて、日本を単なる一市場としてではなく、世界戦略の拠点とする可能性はあるのでしょうか?たとえば今回「Sora」は日本独自のネーミングで、開発チームの方が日本に滞在し、そこから着想を得たとのことでした。これは都市圏向けノートPCのモデルとして、日本のニーズから世界に広がる可能性があるように感じます。ASUSさんが日本発の製品を世界へ展開する、そういった取り組みを行う考えはありますか?
Peter Chang氏:
研究開発や生産拠点の位置づけについては、現在非常に不透明でダイナミックな時代であり、地政学的リスクや戦争など多くの不確定要素がある中で、今のところ日本に開発や生産拠点を置く計画はありません。
ただし、日本市場のニーズをしっかりと理解することは非常に重要だと考えています。今後もこの不透明な状況が続くようであれば、日本に拠点を置くことも選択肢としてオープンに考えていきたいと思います。
現時点では、日本市場を十分に理解したうえで、開発拠点は他地域に置くという体制を当面は継続する方針です。
AIについて

記者:
現在、AIが大きな注目を集めていますが、ASUSとしてはこのAIをどのようにビジネスチャンスとして活用していくお考えでしょうか?将来的にはPC以外の分野でもAIを活用する可能性があると思いますが、新しいデバイスなどの構想はありますか?
Peter Chang氏:
ASUSはAI PCの展開を始めて2年ほど経ちますが、現状では主にCopilot+など、既存のデバイスとAIの連携が中心です。ゲーミングではRTX 5000シリーズでAIを活用したり、自社開発のノイズキャンセリング機能やミューズツリーなどのツールも展開しています。
また、ROG Flow Z13のように、ローカルで大規模言語モデル(LLM)を動かせるデバイスの開発にも取り組んでおり、AI PCとしては新しい試みです。今後マシンの性能が向上すれば、さらに多様な応用が可能になると考えています。
Alvin Chen氏:
日本市場においては、ユーザーシナリオやニーズの調査を継続的に行っており、それに応じた製品開発を行うことで、他社との差別化を図っています。
AIを応用する新たな分野についての具体的な発表は現時点ではできませんが、2025年に向けて新たな領域でのAI活用について近々発表を予定していますので、ぜひご注目ください。
記者:
将来、PC市場がさらに成長していく中で、やはり今はAIが中心の話題になると思います。AI以外も含めて、今後キーとなる機能や仕組みにはどのようなものがあるとお考えですか。
Peter Chang氏:
PCでAIを活用するという流れは、まさに今年始まったばかりの段階です。市場にはすでに製品が出ていますが、現状ではAIを使ってファイルを作成したり、勉強や調査の方法が変わった程度にとどまっています。しかし、こうしたインタビューの取材の仕方も、2年後にはまったく違う形になっていると思いますし、記事の要約の仕方なども大きく変わっていくと予想しています。
今後は、こうしたソリューションレイヤーがさらに登場してくるでしょう。そしてその一部は、PCプラットフォームの一機能として取り込まれていくと思います。ただ、現段階ではまだユーザーフレンドリーとは言えません。その部分をASUSが担うのか、あるいは他のメーカーが手がけるのかは分かりませんが、PCやさまざまな要素をうまく融合させ、ユーザーが求める機能をワンストップで提供できるような企業が、今後ますます求められていくと考えています。
今後のPC市場について
記者:
PC市場全体について伺います。2020年以前はPC市場は縮小するとも言われていましたが、コロナ禍により巣ごもり需要やリモートワークが広がり、再びPCの需要が高まりました。今年はWindows 10のEOS(サポート終了)もあり市場が盛り上がっていますが、その先、PC市場はどうなると考えていますか?
Peter Chang氏:
PC市場については、比較的楽観的に見ています。コロナ収束後には「元に戻るのでは」といった声もありましたが、実際には人々の生活や働き方は大きく変わり、オンライン会議などは今も日常的に行われています。そのため、PCの需要は今後も継続するでしょう。
Windows 10のEOSは短期的な追い風になりますが、それだけでなく、AIの活用が進むことでデータの生成や扱い方も大きく変化しています。仕事以外にも、趣味や創作活動、日常生活の中でパーソナルにPCを活用するニーズが増えており、将来的にはPC市場はさらに発展していくと見ています。
ASUSへの「お願い」

記者:
私はPCオタクなのですが、国内メーカーもグローバルメーカーも、最近あまり面白いPCが出てきていないように感じます。その中でASUSさんだけが「最後の希望」です。デュアルスクリーンなどユニークな製品を継続して出されていますが、今後もそうした開発に力を入れていただけるのでしょうか。
Peter Chang氏:
ありがたいお言葉をいただき、嬉しいです。「最後の希望」として、これからもできる限りのことをしていきたいと考えています。
これまでの製品と同様に、これからも果敢にチャレンジを続けていきます。もちろん、すべての挑戦が成功するとは限りませんし、失敗もあるでしょう。しかし企業として、デザイン思考をもとに新しいことに取り組み続ける姿勢は変わりません。
私たちはテクノロジーを見せつけるために開発をしているのではなく、ユーザーのニーズに応えることを最優先に考えています。そうした姿勢は今後も貫いていきます。実際に、ここ2〜3年もそうした取り組みをしっかり進めてきました。
AIに関しては、まだ始めたばかりですが、クアルコムとの共同開発など、小規模ながら新たな可能性に挑戦しています。今後の展開にぜひご注目いただければと思います。
記者:
私はトリプルスクリーンのPCが欲しいんです。中国ではすでに存在していて、ぜひASUS製が欲しいなと思っております。
Peter Chang氏:
社内でもそのようなアイデアは出ています。ただ、以前お伝えしたデザインシンキングの3要素、「ユーザーニーズとの合致」「技術的な実現可能性」そして「収益性」を検討した結果、現時点では実現には至っておりません。しかし、今後も引き続き検討は続けていきたいと考えています。
記者:
少し個人的な要望になるのですが、日本市場向けの製品をしっかりリサーチし、日本ユーザーに合った商品を展開してくださっているのは本当にありがたいことですし、御社の日本市場への姿勢はしっかり伝わってきています。
ただ、一点気になるのは「キーボード」についてです。ASUSの日本向け製品の多くは、英語配列のキーボードを日本語に対応させた、いわゆる “なんちゃって日本語キーボード” になっている印象です。
以前は、初代のExpertBookなどで、完全に日本語配列で設計されたキーボードが搭載されていましたが、それ以降はそうした製品が見られなくなってしまいました。
キーボードはPCを操作するための最も基本的なインターフェースです。性能やディスプレイももちろん大事ですが、キーボードがきちんと設計されていないと、日本のユーザーには使いにくい印象を与えてしまいます。この点について、今後どのように考えておられるか、お聞かせいただけますか。
Peter Chang氏:
以前からいただいているご指摘であり、貴重なフィードバックとして真摯に受け止めております。もし、Zenbook Soraのキーボードに対して「使いづらい」といったご意見が広まっているのであれば、今後はキーボードの改善も含め、積極的に検討してまいりたいと考えております。
ただし、少し社内事情も共有させていただくと、限られたスペースの中でどのキーをどこに配置するか、どの程度キーボードにスペースを割くかというのは、社内でも非常に慎重に議論されているポイントです。たとえば、パームレストのスペースが必要だったり、日本語キーボードに完全対応するために必要なスペースを確保すると、逆にタイピングの快適さが損なわれる可能性もあります。
そのため、「どのキーを省略するか」「使われないキーはないか」といった観点から、常に社内で検討と議論を重ねております。もちろん、ユーザーの皆様からの評価が芳しくない場合には、積極的に改善していく意向ですので、そうした背景があることをご理解いただければと思います。
インタビューを終えて

今回のインタビューを通じて、AI PCへの積極的に取り組む理由、そして日本市場でどうやって存在感を高めていくのかなど、ASUSの戦略の一端を聞くことができた。
筆者が個人的に印象深く残ったのは、ASUSが日本市場に対して深い理解と敬意を持って真摯に向き合っているということ。声を大にして言ってはいないが、日本市場でのシェア拡大に対して大きな期待を抱いている様子が印象的だった。
単に同社のラインナップのなかから日本で売れそうな製品を投入していくのではなく、AI PCをはじめとする次世代技術の積極的な投入、さらには「Zenbook Sora」のように日本独自のニーズを的確に捉えた製品の開発姿勢からも、それらを感じ取れた。
ASUSが重視しているのは、総合的なユーザー体験とローカルニーズに根ざした製品づくり。そして、AIや新素材、複数のプラットフォームを柔軟に活用することによって、多様化するユーザーのライフスタイルやワークスタイルに最適解を提案することだ。その根底には、「ユーザーにとって本当に価値ある製品とは何か」を問い続ける姿勢がある。
今回報道陣から多少「要望」が出たように、まだまだ必要な改善箇所が残っているのも事実だが、この姿勢があるかぎりきっとさらに良い製品を作ってくれることだろう。
今後、AIとPCの関係がますます密接になる中で、ASUSがどのような進化を見せてくれるのか、そして日本市場でどのような存在感を築いていくのか、大いに期待していきたいと思う。
(取材協力:ASUS JAPAN)