
世界のアプリ市場は、一見すると減速局面に入ったようにも見える。2025年における世界のモバイルアプリとモバイルゲームのダウンロード数は約1069億件と、前年から2.7%減少し、これで5年連続のマイナスとなった。2020年のコロナ禍に1350億件というピークを迎えて以降、ダウンロード数は緩やかに減り続けている。
数字だけを見ると、アプリ市場は勢いを失ったようにも映る。ただ、実感としては「使われなくなった」というより、「選ばれるようになった」という表現のほうが近い。スマートフォンに入るアプリの数は頭打ちになり、代わりに、残ったアプリとの付き合い方が濃くなっている。
一方で、アプリに使われたお金は増えている。同じ2025年の消費者支出は約1558億ドルで、前年比21.6%増と過去最高を更新した。新しくアプリを入れる人は減っているのに、すでに使っているアプリには、これまで以上にお金が払われている。
アプリ市場は「量」から「深さ」へ。厳選して使い、価値あるものにだけ支払う時代に
この変化を支えているのが、サブスクリプションやアプリ内課金だ。多くのアプリは無料で始められるが、便利な機能を使ったり、快適に使い続けたりするには、月額料金や追加課金が必要になる。Appfiguresは、開発者やマーケター、パブリッシャーが、新規ユーザーの獲得に頼らず、既存ユーザーから安定して収益を得られるようになってきたと分析している。
筆者自身も、気づけば毎月いくつものアプリに少額ずつ課金している。ひとつひとつは大きな金額ではないが、積み重なると無視できない。だからこそ、新しいアプリを試す際には「本当に使い続けるか」を以前より慎重に考えるようになった。この感覚は、多くの利用者に共通しているのではないだろうか。
利用者の立場から見ると、ほぼすべてのアプリに課金やサブスクリプションが組み込まれている現状には、戸惑いや疲れを感じる場面も多い。新しいアプリを気軽に試すより、よく使うアプリだけを厳選し、必要ならお金を払う、という使い方が一般的になってきた。その結果として、ダウンロード数が伸びにくくなっている面もありそうだ。
分野別に見ると、変化はよりハッキリしてくる。2025年のモバイルゲームのダウンロード数は394億件で、前年比8.6%減と大きく落ち込んだ。一方、非ゲームアプリのダウンロード数は674億件で、前年比1.1%増とほぼ横ばいを保っている。ゲームは入れ替わりが激しい一方で、生活や仕事に必要なアプリは、使われ続けやすい傾向が見て取れる。
モバイルゲームのダウンロード減少は目立つが、とはいえ驚きはない。短期間で遊ばれ、次々に置き換えられていくゲームよりも、動画配信や健康管理、仕事効率化といった「生活に組み込まれるアプリ」のほうが、今のスマートフォンには残りやすい。アプリが「娯楽」から「インフラ」へ近づいているとも言える。

お金の動きも同様だ。モバイルゲームへの支出は722億ドルで前年比10%増だったが、全体に占める割合は約46%にとどまった。これに対して、動画や音楽、写真編集、健康管理、仕事効率化といった非ゲームアプリへの支出は826億ドルに達し、前年比33.9%増と大きく伸びている。アプリ市場は、ゲーム中心の構造から少しずつ変わりつつあるようだ。
Sensor Towerの「State of Mobile 2025」レポートによると、2025年の消費者支出は約1500億ドルと見積もられている。これは2024年実績として報告された数値で、Appfiguresが示す1558億ドルよりやや控えめだが、市場全体の方向性は概ね一致している。
同レポートでは、アプリの利用時間が4.2兆時間に達し、前年比で5.8%増加した点も強調されている。ダウンロード数が伸び悩む一方で、ユーザーのエンゲージメントは着実に深まっている。
カテゴリ別に見ると、ゲーム分野の消費者支出は810億ドル(前年比4%増)と回復基調にある。ただし、成長の主役が非ゲーム分野である点は、他の調査とも共通する傾向だ。
特に存在感を増しているのが、ChatGPTをはじめとするAI関連アプリである。生成AIアプリは2025年にダウンロード数・課金ともに急拡大し、ChatGPTのモバイルアプリ単体でも、2025年の消費者支出は約24.8億ドルに達した。これは前年比408%増に相当し、累計支出も300億ドルを突破している。AIカテゴリ全体でも、月間ダウンロード数は1億件を超え、収益規模も急速に拡大した。この生成AIアプリの急成長が、非ゲームカテゴリの消費者支出が前年比33.9%増となった背景の一因になっていると見られる。
こうした流れは、アプリを支える周辺ビジネスにも広がっている。コンシューマーアプリ収益化プラットフォームであるRevenueCatは5000万ドルの資金調達を実施し、ゲームの収益改善を支援するAppchargeも大型の資金調達を行った。さらに、アプリの集客や収益化を支援するLiftoff MobileはIPOに踏み切るなど、アプリそのものだけでなく「アプリでどう稼ぐか」を支えるビジネスが成長している。

収益化やグロースを支援する企業に資金が集まっている点は、業界の関心がどこに向いているかをよく示している。ヒットを狙うより、長く使われる前提で運営する力が、以前にも増して重要になってきた。
米国市場を見ると、この傾向はさらに分かりやすい。2025年の米国におけるアプリ支出は555億ドルで前年比18.1%増えた一方、ダウンロード数は100億件と4.2%減少した。
非ゲームアプリの支出は336億ドルと26.8%増えたのに対し、ゲームは219億ドルで6.8%増にとどまっている。成熟した市場ほど、ダウンロードは減り、課金が伸びる流れが強まっている。ダウンロード数が右肩上がりだった時代は、すでに終わったと見るべきだろう。
ダウンロード数が減っているからといって、アプリ市場が縮んでいるわけではない。コロナ禍という特別な時期を経て、アプリは「入れて試すもの」から、「生活や仕事に組み込まれるもの」へと役割を変えた。その結果、数を追う成長は終わり、関係性の深さが問われるフェーズに入っている。
実際、足元で評価を高めているのは、長く使われる前提で設計され、継続的に価値を提供できているアプリばかりだ。どれだけ多くの人に入れられたかではなく、どれだけ使われ続け、対価を払ってもらえるか。アプリ市場はすでに、その問いに正面から向き合う段階に入っている。




