
11月7日、Adobeは世界中のクリエイターコミュニティをつなぐ交流イベント「All Access: Tokyo by Adobe Creative Club」を東京で初開催した。
本イベントは、米国本社から4名のエバンジェリストが来日し、「Adobe MAX 2025」で発表された最新機能を日本のクリエイター向けに最適化した内容で発表するという特別プログラムになっていた。
「Adobe MAX 2025」で発表された新機能を本国担当者が日本のクリエイター向けに紹介
今回の発表で最も注目を集めたのは、クリエイターのワークフローを大幅に効率化する一連の生成AI機能だ。
Photoshopでは、低解像度の画像を高品質に拡大する「生成アップスケール」や、背景の色を解析して前景との色調を自然に整える「調和」などが紹介された。従来は細かなレタッチが必要だった作業が、数秒で仕上がってしまう様子に、会場からも驚きの声が上がっていた。
また、Fireflyの生成機能では、これまでの標準モデルに加え、FLUX.1 Kontext、Gemini 2.5 Flash Imageなど外部のモデルを選んで使えるようになった。イベントでは、用途に応じて生成傾向を切り替えられる柔軟性が強調されていた。
さらに、自身の作品を読み込ませてスタイルを学習させるカスタムモデル機能も加わった。最低10枚の画像を読み込ませることで自分専用のFireflyを作り、そのモデルを使って自身のスタイルに基づいたコンテンツを生成できる。
Illustratorでは、パフォーマンス面の改良と、AIを取り入れたベクターワークフローの革新が進んでいる。最新バージョンでは、3,000を超えるシェイプやレイヤーを含む複雑なファイルでも、回転やズームなどの操作が従来比で最大5倍スムーズになったという。
さらに、初公開された「ターンテーブル」機能は、キャラクターをさまざまな角度からAIがベクターデータとして生成する機能で、デザインの自由度を大きく広げるものだった。キャラクターの向きを変えるために別アングルを描き足していた手間がほぼゼロになる。
動画編集アプリのPremiere(旧Premiere Pro)でも、アシストAIと生成AIを組み合わせた機能が多数公開された。Fワードのような不適切な語句を自動検出して「ピー」音やカスタムサウンドに置き換える機能については、デモで「クワッ!」とアヒルの鳴き声を当てるシーンがあり、会場が和やかな雰囲気に包まれた。
また、人物や動物、影までリアルタイムに追跡してマスキングを行う「オブジェクトマスク」機能が大幅に進化し、背景の差し替えといった作業が以前よりはるかに手軽になっていることが示された。
さらに、動画をアップロードするとAIがムードを分析し、商用利用可能なオリジナルのサウンドトラックを生成する「サウンドトラックを生成」機能も披露され、編集から音作りまで一気通貫で効率化されていく未来が見えた。
今回のイベントで特に注目を集めたのが、日本初公開となった「Project Moonlight」だ。アドビはこれを、制作作業を助けるツールというより、アイデア出しや企画段階まで支援するAIクリエイティブパートナーとして紹介した。
Moonlightはチャット形式で対話しながら、アイデアの方向性を一緒に探っていく。デモでは、飼い犬の写真を読み込ませ、Instagram投稿の案出しを相談する様子が披露された。画面下には「アイデアカード」も表示され、ユーザーが思考の出発点をつかみやすい設計になっている。
また、LightroomなどCreative Cloudのコンテンツやローカルファイルを取り込むことで、Moonlightに制作の文脈を理解させられる。素材や過去の編集データを参照しながら、より具体的な提案を返してくれるのが特徴だ。
さらにユニークな機能として挙げられるのが、Instagramアカウントを接続して投稿のパフォーマンスを分析し、傾向に基づいたコンテンツ戦略まで提示する点だ。デモでは「オーディエンスは個人的なマイルストーン投稿を好む」といった洞察や、キャプションの方向性といった具体案も示された。
アイデアが固まれば、Lightroomプリセットの適用やFirefly Boardsへの移行など、制作工程への橋渡しもスムーズだ。Moonlightでの会話を維持したままムードボードを作り、そこからPhotoshopやExpressに進む流れも紹介された。
今回のイベントは、アドビが掲げる生成AI時代のクリエイティブ戦略を端的に示す内容だった。Photoshop、Illustrator、Premiereといった主要アプリの刷新は、制作工程の細かな負担を軽減し、クリエイターが構想や探求に充てられる時間を最大化することに軸足を置いている。
さらに、Project Moonlightのように企画段階から伴走するAIパートナーまで登場したことで、アイデア発想から仕上げまでのプロセスがよりシームレスにつながりつつあることも示唆された。
画像、ベクター、動画といった領域を横断してAIがワークフローに深く統合されるなか、創作の現場は「技術的な作業」に縛られる時代から、「本質的な創造性」を中心に据えられる環境へと確実に移行しつつあると言えるだろう。
