“最も太い” に挑む。アドビ新バリアブルフォント「ネオクロ」開発の全貌

アドビは4月10日の「フォントの日」にあわせ、新たな日本語書体「ネオクロ」の開発を発表した。

YouTubeをはじめとする動画配信やゲーム市場の拡大を背景に、画面上で強い存在感を放つ極太フォントへの需要は近年急速に高まっている。

今回の「ネオクロ」は、そうしたクリエイティブ現場のニーズに応えるべく、アドビのオリジナルの日本語書体としては最も太い表現を実現したバリアブルフォントとして開発が進められている。

同発表に先立ち、今回は「ネオクロ」の開発者であるタイプフェイスデザイナーの吉田大成氏に、開発の背景から設計思想、実際の使用を見据えた仕様に至るまで、踏み込んだ話を聞くことができた。

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「百千鳥」に続く極太日本語フォント「ネオクロ」が開発中。川越の街で見つけた文字が設計のヒントに

まず、「ネオクロ」の生まれた経緯から話をしていこう。前述のとおり「ネオクロ」はAdobe Originalsシリーズの日本語フォント(和文書体)だ。

Adobe Originalsの和文書体は、これまで「小塚明朝」「小塚ゴシック」「りょうファミリー」「かづらき」「源ノ角ゴシック」「源ノ明朝」「源ノ等幅」「貂明朝」「百千鳥」などが開発されてきた。

中でも昨年にリリースされた「百千鳥」はユーモラスでレトロな字形であることに加えて、太さ(ウェイト)と字幅の2軸で自在に変形できるバリアブルフォントとして、クリエイターコミュニティの間で話題になった。今回の「ネオクロ」はこの「百千鳥」に続く、新たなバリアブルフォントということになる。

近年、YouTubeのテロップやミュージックビデオ、ゲーム画面など、短時間で情報を伝える場面では視覚的に強いインパクトが求められるようになり、それに伴い、極太フォントの需要が高まっているという。

極太書体は人気が高い一方で、一般的な太さのフォントに比べると市場における選択肢自体がまだ少なく、ユーザーが選べる書体が限られる。こうした背景を受け、「アドビオリジナルの極太書体を作りたい」という考えが、今回の開発の出発点になったという。

これまで最も太い部類にあったのは、AdobeとGoogleの共同開発によって生まれた「源ノ角ゴシック」のHeavyだが、「ネオクロ」ではそれを明確に上回る太さと存在感を目指した。既存ラインの延長ではなく、極太表現そのものを再定義するようなアプローチだ。

「ネオクロ」のメインデザイナーであるタイプフェイスデザイナーの吉田大成氏

デザインを担当するのは、小塚昌彦氏、西塚涼子氏に続く3代目デザイナーの吉田大成氏。2018年の入社以降、「貂明朝」や「百千鳥」の開発に関わってきた人物で、今回がオリジナル書体のメインデザイナーとしての初仕事となる。アドビの日本語書体開発における世代のバトンが引き継がれるプロジェクトという側面も見えてくる。

「ネオクロ」は2020年頃に構想が始まり、「百千鳥」の開発を終えたタイミング(2025年4月頃)から本格的な制作に着手。現在も調整が続けられており、正式な提供時期は未定とされている。

左:川越で見つけた文字/右:ネオクロ

造形の方向性について吉田氏は、街中の手書き看板や昭和のレタリング文化に着想を得たと語る。特に埼玉県川越市でのフィールドワークで見つけた文字が強いヒントになったといい、「ゴシックのような均一な太さと、明朝のようなハライが一つの文字の中に共存している」点に面白さを見出したという。

「ネオクロ」ではこの特徴を取り入れ、ふっくらとした柔らかい骨格をベースにしながら、ハライの先端を細く抜く処理や三角形の点といった明朝的要素を組み合わせている。単に “太いゴシック” にするのではなく、レタリング由来の表情を持たせた点が大きな特徴だ。

一方で、極太書体における最大の課題である可読性にも細かな工夫が施されている。画数の多い漢字では、外側の線を太く、内側をやや細くする「内細外太」を基本とし、骨格を維持しながら密度を整理。

横線は上下を直線で構成し、角のみを丸めることで、潰れにくさと視認性を両立している。部首ごとに幅や太さの基準を数値化しつつ、最終的には約7000字(Adobe-Japan 1相当)を1文字ずつ手作業で調整しているという。

設計面で特に興味深いのが、バリアブルフォントとしての実装だ。説明の中で繰り返し語られたのが、「漢字は正方形のまま固定し、かなと欧文のみを可変にする」という構造だ。

かなと欧文は最大で半分(半角サイズ)まで圧縮でき、縦横それぞれの軸で変化させることができる。縦組みでは横長、横組みでは縦長になる初期設定が用意されており、レイアウトに応じて自然に詰められる。重要なのは、圧縮しても高さ・幅が変わらない点で、これにより漢字とのバランスを崩さずに組版できる。

この仕様は、過去に手がけた「百千鳥」との違いとしても説明された。百千鳥は横に潰すと縦に伸びる設計だったのに対し、「ネオクロ」では高さを維持する。「漢字を固定したレイアウトで使うことを前提に、不自然な組みを避けた」という判断で、看板などに見られる “漢字に対してかなが小ぶりで細長い” 視覚バランスを無理なく再現する狙いもあるという。

さらに、かなと欧文には上下位置を調整できる専用の軸も用意される。漢字の中央に揃える、上や下に寄せるといった調整をテキストのまま行うことができ、After EffectsやPhotoshopでのレイアウト作業にも対応する見込みだ。可動範囲は漢字のボディ内に制限されており、極端な崩れを防ぐ仕組みも備える。

この仕様によって、従来はアウトライン化して行っていた細かな位置調整を、そのままのテキストで扱えるようになる。制作現場におけるワークフローの簡略化という点でも、実用的なメリットは大きい。

このほか、郵便マークや雪だるまなどの絵文字も収録予定で、いずれもレトロで可愛らしく、見た瞬間にクスッと笑えるようなデザインを目指しているという。これらもバリアブルフォントとして変形可能になる見込みだ。

なお同日の発表では、Adobe Fontsに新たに56の日本語書体が追加され、全体で1100書体を超えたことも明らかにされた。新規パートナーの参画も含め、フォント環境の拡充が進む中で、「ネオクロ」は映像やゲーム分野における新たな表現を支える書体として展開されていくことになりそうだ。

アドビは本日4月10日の20時から、毎年恒例のオンライン番組「フォントの日だよ全員集合」をYouTubeで配信する。第1部では「ネオクロ」のデザインやコンセプトなどが語られるため、こちらもぜひチェックしていただきたい。

(画像提供:Adobe)

Adobe取材
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