AIに作らせるだけでは終わらない。「Adobe Summit TOKYO」で示されたAIエージェントと働くこれからのマーケティング

アドビは8月4日、東京で法人向けカンファレンス「Adobe Summit Tokyo 2026」を開催した。

テーマは「AIの実験から、顧客体験を動かす成果へ」。ラスベガスで開催された年次カンファレンスイベント「Adobe Summit」で発表された最新のAI技術に加え、アドビの法人向け製品を導入している顧客企業やパートナーも登壇し、AIをビジネスの現場でどう活用するかを語った。

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SNSのトレンドを数分でキャンペーンにつなげる「Adobe CX Enterprise」

アドビ株式会社 チーフ トランスフォーメーションオフィサー 専務執行役員 松山敏夫氏

今回のイベントで特に強く打ち出されたのが、AIを「アシスタント」から「エージェント」へ進化させるという考え方だ。これまでの生成AIは、人間が質問や指示を出し、それに対して回答やコンテンツを返す使い方が中心だった。これからは、AIが状況を把握し、必要な作業を判断しながら、自ら仕事を進めるようになる。

アドビが描いているのは、1つのAIにすべてを任せる姿ではなく、キャンペーンの企画、顧客データの分析、画像や動画の制作、Webサイトの更新など、それぞれの役割を持つAIエージェントが連携し、人間と一緒に仕事を進める「マルチエージェント」の世界だ。

その基盤として紹介されたのが、AIを前提に設計された顧客体験基盤「Adobe CX Enterprise」だ。データやコンテンツ、顧客に関する情報をまとめて扱い、複数のAIエージェントを連携させながら、マーケティング施策の企画から実行までを支援する。

基調講演では、その具体的な動きをデモで紹介した。題材になったのは、米国の化粧品小売チェーン「Ulta Beauty」だ。あるインフルエンサーが涙を流しながら撮影した動画の中で、「このマスカラは泣いても落ちない」と紹介したところ、その商品に注目が集まり、自社サイトへのアクセスも急増した。

AIエージェントはSNS上の動きとWebサイトのアクセス状況を捉え、何が起きているのかを分析する。そして、トレンドを活用するための施策を提案する。

関連商品の在庫を確認したうえで、特設ページの更新やキャンペーンの展開を計画。担当者が承認すると、「Adobe Firefly」を使って「号泣しても崩れない」というコンセプトに合わせたビジュアルを生成し、Webサイトの更新まで進める。

さらに、顧客データを分析し、最近購入から遠ざかっている顧客の中から、そのマスカラに関心を持ちそうな層を見つけ出す。そこに向けたパーソナライズドプロモーションの設計もAIが進める。

従来なら、トレンドの発見、データ分析、クリエイティブ制作、Webサイトの更新、広告配信といった作業を、それぞれ別の担当者や部署が進める必要があった。アドビが示したのは、こうした作業をAIエージェント同士が連携しながら進め、人間は重要な判断や承認に集中するという仕事の進め方だ。

Adobeの松山氏と対談するNVIDIA エンタープライズマーケティング本部 本部長 堀内朗氏

NVIDIAの堀内朗氏は、同社のマーケティングチームについて、アドビの製品群を使った「マーケティング工場」のような状態になっていると説明した。

キャンペーンのコンセプトを考えるAI、画像や動画を生成するAIなど、役割の異なるエージェントがそれぞれ動いているという。

堀内氏によれば、2023年から2025年ごろまでは、AIが人間に伴走する「コパイロット(=副操縦士)」の段階だった。現在は、AIが主体的に仕事の結果を生み出す段階へ移り、人間は戦略的な意思決定や、AIだけでは解決できない問題への対応に時間を使うようになっているという。

アドビは、人間とAIの関係を4段階に分けて説明している。レベル1は、人間が主役となる「支援」。レベル2ではAIが選択肢を提示する「拡張」へ進む。レベル3になると、決められた範囲の仕事をAIが処理する「自動化」が可能になる。そしてレベル4が、AI自身が目標を追い、必要に応じて自己修正する「自律型」だ。

AIに任せる仕事が増えるほど、重要になるのが「どこまでAIを信用できるのか」という問題だ。アドビは、そのための仕組みとして「セマンティックレイヤー」「ガードレール」「セキュリティ」という3つの層を示している。

セマンティックレイヤーでは、企業が持つデータやブランド固有のルールをAIが正しく理解できるようにする。ガードレールでは、AIがブランドの方針から外れたり、不適切な処理をしたりすることを防ぐ。セキュリティでは、データやシステムへの不正な操作を防止する。

AIと人間が過去に行った判断や変更を「ブランドメモリー」として蓄積する考え方も示された。過去のキャンペーンやデザイン、承認内容などを次の施策に生かすことで、AIがそのブランドらしい判断をしやすくなる。

施策を重ねるほど知見が蓄積され、それが次の顧客体験につながっていく。この循環をアドビは「エクスペリエンス・フライホイール」と表現している。

会場に設けられていたAIエージェントの体験ブース

開発者向けの拡張性も用意する。アドビは「MCP(Model Context Protocol)」を活用し、企業独自のデータや外部システムとAIエージェントをつなぐ仕組みを紹介した。

デモでは、開発者が使い慣れた開発環境からAIエージェントに新しい「スキル」を追加する様子を披露した。例えば商品の在庫を確認するときに、対象商品だけでなく関連商品の在庫も調べ、代替商品を提示するといったルールを追加できる。

作成したスキルはアドビの製品だけで使うものに限られない。「Microsoft 365」や「ChatGPT Enterprise」など、外部のプラットフォームからアドビのマーケティングデータや機能を利用する使い方もでき、企業がすでに使っているシステムやAI環境と組み合わせて、自社に合った業務フローを構築できる。

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AIに「発見される」時代へ。KDDIやカシオが語った企業の課題

AIエージェントの普及は、企業の仕事だけでなく、消費者の商品探しも変えようとしている。

アドビによれば、世界ではすでに消費者の25%以上が製品探しにAIチャットを利用している。検索エンジンでキーワードを入力し、検索結果から企業サイトを訪れる従来の流れから、ChatGPTなどのAIに相談し、その回答をもとに商品やブランドを選ぶ流れへ変わりつつある。

アドビは、この変化を「エージェント型ウェブ」と位置付ける。企業にとっては検索結果で上位に表示されることだけでなく、AIに正しく理解され、候補として紹介されることも重要になる。

そのためのサービスとして発表されたのが「Adobe Brand Visibility」だ。AIプラットフォーム上で自社ブランドがどのように語られているかを確認し、競合と比べてどう見られているのかを把握できる。SEO(検索エンジン最適化)に加えて、AIから発見されやすくする「AIO(AI最適化)」という考え方にも対応する。Semrushなどのインテリジェンスとの連携も用意する。

KDDI株式会社 ブランド・コミュニケーション本部長 合澤智子氏

KDDIの合澤智子氏は、AIがブランド情報を誤って伝えるリスクについて説明した。実際に同社の通信サービス「au Starlink Direct」の料金について、AIが誤った情報を回答していた事例もあったという。

「au Starlink Direct」は、対応するスマートフォンとSpaceXが開発した低軌道衛星「Starlink」とを直接繋いで通信できるというもの。auやUQモバイルを契約している場合には当面は追加料金なしで利用できるが他社回線を利用しているユーザーの場合は月額1,650円(税込)の有償で提供している。

AIはこの部分について、「当面は追加料金なし」ではなく「有償」と解釈して回答していたようだ。AIが企業や商品の情報を代わりに説明するようになれば、企業が発信する情報だけでなく、AIがその情報をどう理解しているかも重要になる。

合澤氏は、テクノロジーを活用するだけでなく、人の心を動かすストーリーテリングやブランドの信頼性を守る取り組みが、AI時代にはより重要になると指摘した。

カシオ計算機株式会社 デジタルイノベーション本部 副本部長 齋藤隆行氏

カシオ計算機の齋藤隆行氏も、AIに実行を任せる一方で、「何をしたいのか」というビジョンを描くことは、人間が担うクリエイティブな仕事だと説明した。

AIが大量のコンテンツ制作やデータ処理を支え、人間がブランドとして進む方向を決める。アドビが描くのは、そうした役割分担だ。

一方、AIを導入しても組織の仕事の進め方が従来のままでは、そのスピードを生かしにくい。合澤氏は、これまでの企業ではクリエイティブ制作とメディアプランニングが別々の部署に分かれ、それぞれが異なるタイミングで動く「非同期」の構造になっていると指摘した。

SNSでトレンドが発生した直後にAIが分析し、数分でキャンペーン案やクリエイティブを用意できても、人間側の承認や部署間の調整に数日かかれば、せっかくの機会を逃してしまう。AIと人間がリアルタイムで連携できる「同期型」の組織へ変えていく必要があるという。

AI活用による成果も紹介された。コカ・コーラでは、AIの活用によって広告のクリック数が117%増加し、売上が36%向上したという。また、ニューウェル・ブランズでは、パッケージデザインを市場投入するまでの時間を75%短縮した事例が紹介された。

こうした事例を見ると、AI導入の目的は作業時間を短くすることだけではなく、企業が状況を把握し、判断し、施策を実行するまでの時間そのものを短くすることに意味がある。

AIが実行を担う範囲が広がれば、人間にはブランドの方向性を決める仕事がより強く求められる。何を伝えたいのか、誰に届けたいのか、どんな体験を提供したいのか。AIが大量の選択肢を生み出せるようになったからこそ、その方向を決める人間の役割はむしろ重要になるだろう。

会場ではブース体験後にもらえるチケットでオリジナルデザインのサコッシュを作る体験も行われていた

「Adobe Summit Tokyo 2026」では、AIエージェントを前提に、企業のデータ、マーケティング、クリエイティブ制作、組織の動き方まで変えていく未来が示された。AIを導入するだけで成果が出るわけではなく、AIが動ける環境を整え、人間が判断すべき部分を見極め、組織全体を素早く動かすことが、AI時代の企業に求められるものになるだろう。

Adobe取材
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